「一店舗でも多く、飲食店が生き残れる世界を」30年以上の現場経験から挑む「閉店ではなく承継」|and evisu
飲食店を閉めるとき、厨房設備や内装だけでなく、長年通ってきた常連客、働いてきたスタッフ、受け継がれてきたレシピ、そして地域とのつながりまで失われてしまうことがあります。そんな飲食店の「閉店」を「承継」に変えようとしているのが、株式会社and evisuです。同社代表の岡本優さんは、30年以上にわたって飲食店の現場に立ち、大型店の経営や赤字店舗の再建を経験。自身も「九州堂」の事業譲受を経験した後、飲食店特化のM&A・事業承継支援サービス「ミセウル」「ミセカウ」を立ち上げました。なぜ飲食店の事業承継に挑むのか。数字には表れない店の価値とは何なのか。岡本さんに伺いました。
まず、岡本さんのこれまでの経歴について教えてください。
私はもともと飲食業界でキャリアをスタートし、30年以上、飲食の現場に携わってきました。
最初に入ったのが、銀座ライオンなどを運営している株式会社サッポロライオンです。東京から始まり、京都、大阪、福岡など各地の店舗を経験し、新宿や銀座では800席を超えるような大型店舗の運営にも携わりました。
ずっと考えてきたのは、「どうしたらいい店になるのか」ということです。もちろん、売上を上げることや利益を出すことも大切です。ただ、それだけではなく、お客様に愛される店をつくることを一貫して大事にしてきました。
その後独立し、2025年には株式会社evisuを創業しました。谷中銀座にあった九州物産店「九州堂」の事業を譲り受け、現在は日本酒の角打ちを中心とした「SAKE CRAFTERS」として店舗を運営しています。

私自身が事業を譲り受ける経験をしたことで、飲食店をそのままなくしてしまうのではなく、次に飲食をやりたい人へ渡すことで、お客様や地域とのつながりも含めて残していけるのではないかと考えるようになりました。それが株式会社and evisuを立ち上げた理由の一つです。
もともとM&Aや事業承継を専門にしようと考えていたわけではなかったのですね。
そうですね。最初からM&Aや経営コンサルタントを目指していたわけではありません。私は本当に現場から始まった人間です。
接客をして、料理を提供して、スタッフを育てて、売上をつくる。そうしたことを続けていく中で、徐々に店舗経営の数字も意識するようになりました。
特に800席を超えるような大型店を経験すると、サービスが良いだけでも、おいしい生ビールを提供するだけでも経営は成り立ちません。
人材、原価、売上、オペレーション、教育、集客。すべてが連動して初めて飲食店が成り立ちます。飲食店は、まさに一つの小さな会社そのものだと思っています。
その中で赤字店舗の再建も経験してきました。
外から数字だけを見ると、「赤字だから価値がない」「この店はもう必要ない」と判断されてしまうことがあります。でも、実際にはそんなことはほとんどありません。
商品が良かったり、立地が良かったり、素晴らしいスタッフがいたり、長年通ってくださっている常連のお客様がいたりする。
飲食店は、ちょっとした歯車の噛み合わせで一気に数字が落ちることがあります。逆に、その噛み合わせを変えることで一気に売上が伸びることもあります。
数字だけを見れば厳しくても、現場を知っている人間から見ると、まだまだ可能性が残されている店はたくさんある。そうした現場経験と事業承継を掛け合わせられないかと考えたのが、今の事業につながっています。
現在、飲食店のオーナーからはどのような理由で閉店や事業承継の相談が寄せられるのでしょうか。
コロナ禍が明けた直後は、いわゆるリベンジ需要もあって、お客様が戻ってきた時期がありました。ただ、本当に厳しくなってきたのはそこからだと思っています。
原材料費が上がり、人件費も上がる。さらに細かな経費も含めてさまざまなコストが上昇しています。今までと同じやり方では経営が成り立たなくなり、やむを得ず店を閉める方もいます。
もう一つ大きいのが、高齢化と後継者不足です。
飲食店は、一人で起業して、そのまま長年経営されている方も非常に多い業界です。売上も利益も出ていて、常連のお客様もたくさんいる。それでも、自分が高齢になって「継ぐ人がいないから、自分の代で閉めるしかない」と考えている方がいます。
「せっかくお客様もついているのに、閉めるのはもったいない。でも、ほかにどうしたらいいのかわからない」
そういったご相談は実際にあります。
岡本さんは「財務数字だけでは見えない飲食店の価値」を重視されています。具体的にはどのようなものなのでしょうか。
もちろんM&Aですから、残存簿価や設備、店舗としての価値など、数字で評価しなければいけない部分はあります。
ただ、飲食店にはそれだけでは表現できない価値があります。
一つは、その店が積み上げてきた歴史です。
以前、私が携わっていた銀座の店舗は100年近い歴史がありました。親子三代で来店してくださるお客様もいるんです。
おばあちゃんが若い頃に利用して、お母さんも利用して、さらにその子どもが成人したときにまた来てくれる。そういった場面を私は現場で何度も見てきました。
飲食店には、人の人生や思い出と一緒に歴史が積み上がっていくところがあります。
また、地域にとって「あのお店の前で待ち合わせしよう」と言われるような、街のシンボルになっている店もあります。財務諸表には一切出てきませんが、それも飲食店ならではの大きな価値です。
もう一つは「人」です。
働いているスタッフもそうですし、来てくださっているお客様もそうです。
飲食店には、「おいしいものを食べたい」という理由だけでなく、「この人に会いたいから、この店へ行く」というお客様がいます。
だから、承継後も店長やスタッフが残ることができれば、その人たちを通じてお客様との関係も次へつないでいくことができます。
飲食店の価値は、店の中だけにあるわけではありません。スタッフ、お客様、商店街や近隣のお店との関係など、横のつながりも含めて店の価値だと思っています。
飲食店の小規模なM&Aは、なぜこれまで支援が届きにくかったのでしょうか。
これは私がM&A仲介会社の出身ではないので、あくまで私自身の見方になりますが、手数料構造の問題はあると思っています。
一般的なM&A仲介では、譲渡金額が大きければ大きいほど、仲介会社に入る手数料も大きくなります。
一方、飲食店は数百万円規模の譲渡案件も少なくありません。場合によっては200万円、300万円という案件もあります。
そうなると、大きな案件と比較したときに、仲介会社としてはビジネスになりにくいと判断されるケースもあると思います。
ただ、私はずっと飲食業界で仕事をしてきた「飲食人」です。
例えば60代、70代になって店を閉めようとしている方に、何百万円という仲介手数料の話をしたら、「それならスケルトンにして返して終わりでいいよ」となってしまうこともあると思うんです。
それでは、せっかく残っている価値がなくなってしまいます。
だから「ミセウル」では、売り手様から仲介手数料をいただかない仕組みにしています。
売り手手数料を0円にするのは、ビジネスとしては大きな決断だったのではないでしょうか。
もちろん我々も会社ですから、ビジネスとして成立させなければいけません。そのため、成約した際には買い手様から手数料をいただく形にしています。
ただ、売り手様については、資金的に余裕がない状態で店を閉じようとしているケースも少なくありません。
譲渡によって少しお金が残ったのであれば、そのお金は次の人生のために使っていただきたいと思っています。
もう一つ、飲食店はとにかく数が多い業界です。
大きな案件だけを狙うのではなく、小さな飲食店も含めて一軒でも多く承継していきたい。
一件当たりの大きさよりも、できるだけ多くの飲食店を、「次に飲食をやりたい」という方へつないでいくことを大事にしています。
実際に店舗の価値を整理するときには、どのようなことを見ているのでしょうか。
賃貸借契約書や厨房機器の状況、設備の年数など、M&Aで必要になる基本的な情報はもちろん確認します。
ただ、私はそれ以上に、「なぜこの店を始めたのか」「これまでどんな経営をしてきたのか」「なぜ今この状態になっているのか」ということをかなり深く聞きます。
飲食店は、長く一人で経営していると、だんだん自分自身では課題が見えなくなってしまうことがあります。
「自分の料理は絶対においしい」「自分のやり方が正しい」と考えていても、第三者から見ると、少しやり方を変えるだけでお客様が増える可能性があることもあります。
私は飲食業界に長くいるので、料理人や経営者と飲食の言葉で会話ができます。
話しているうちに、「実はここを変えればもっと売れるのではないか」「この強みは次の経営者にも活かせるのではないか」ということが見えてくる。
それを買い手様に伝えることが大切だと思っています。
「家賃はいくらです」「設備はこれだけあります」という数字だけでは、店の未来は想像できません。
「この屋号を引き継いで、このスタッフが残って、こういう改善をすれば、こんな店にできる可能性があります」
そこまでストーリーとして伝えられれば、買い手様の解像度は一気に高くなります。
数字だけでなく、オーナーの想いや、その店が持っている可能性まで言語化する。それは、長年飲食店の現場にいた私だからこそできることだと思っています。
「and evisu」という社名には、どのような意味が込められているのでしょうか。
もともとの「evisu」は、商売繁盛の神様である恵比寿様から取っています。
私自身、長く銀座ライオンで働いていて、ヱビスビールにも縁がありました。
株式会社evisuは店舗運営などを行っていて、今回、飲食店のM&A・事業承継に特化する会社として株式会社and evisuを立ち上げました。
「and」には、一緒につくっていくという意味と、売り手様と買い手様を結びつけるという意味を込めています。
また、「楽しくなければ飲食店じゃない」というのが私の信念です。
飲食店にとって笑顔は欠かせません。そうした想いも会社やロゴに込めています。
買い手には、どのような方が多いのでしょうか。
大きく二つあると思います。
一つは、すでに飲食店を展開している会社が、新たな店舗や業態を取得して事業を拡大したいケースです。
もう一つは、これから飲食業を始めたい方です。
飲食店をゼロから始めようとすると、知識も必要ですし、人も集めなければいけません。そこで、すでにスタッフや設備などがある店舗を引き継ぐことでスタートしたいという方もいます。
そのほかにも、別の事業をやりながら新しく飲食店にチャレンジしたいという方もいます。
売り手と買い手をマッチングする際に重視していることはありますか。
飲食店では、まずエリアは非常に重要だと思っています。
飲食は現場のビジネスなので、実際に店へ行って状況を見ることが非常に大切です。
買い手様からも「このエリアで、こういう事業を探している」という相談をいただくことがあります。
一方、売り手様にもいろいろな方がいます。
「自分が大事にしてきた店なので、想いまで含めてきちんと引き継いでほしい」という方もいれば、「退去日が迫っているので、とにかく早く次の人を見つけたい」という方もいます。
前者であれば時間をかけて想いに合う相手を探しますし、後者であればスピードを優先する必要があります。
すべて同じ方法でマッチングするのではなく、売り手様が何を一番大事にしているのかによって、つなぎ方を変えています。
岡本さんが考える「良い事業承継」とは、どのような状態でしょうか。
理想を言えば、売り手様が余計な費用をかけずに、そのまま次の方へ渡せることです。
飲食店の承継にはさまざまな形があります。内装や設備だけを残して、看板や屋号は外して引き渡すなど、居抜きに近い形になる場合もあります。
ただ、弊社として理想としているのは、屋号、スタッフ、メニュー、そして来てくださっているお客様まで、できる限りスムーズに引き継がれることです。
もちろん、買い手様の事情もあるため、すべてをそのまま残せるとは限りません。
それでも、これまで積み上げてきたものをできるだけ残しながら次の経営者へつなげることが、良い事業承継だと考えています。
M&Aが成立した後の経営支援も行っているそうですね。
もともと私は、飲食店向けの伴走型コンサルティングも行っています。
長く現場にいると、「この店はここが傷んでいる」「ここを変えればもっと売上が伸びる」という部分が見えてきます。
M&Aの場合、売り手様の数字や店舗の状態を事前に把握しています。そのため、買い手様に対して「承継後はここを改善するといい」というところまでセットでお伝えできます。
ご希望があれば、私自身が実際に現場に入ります。
朝のスタンバイから営業終了まで一緒に働いて、その中で「ここはこうした方がいいですね」と改善点を見つけていく。
分厚いレポートだけを渡して、「これをやれば売上が上がります」と言うのではなく、現場で一緒に動くのが私のスタイルです。
買った方自身で自由に経営したいという場合はもちろんそれで構いません。一方で、「実際に引き継いだけれど、どう経営していけばいいかわからない」という場合には、その後まで一緒に伴走できます。
M&Aを成立させることだけをゴールにしないというのは、弊社の特徴だと思っています。
「自分の代で店を終わらせよう」と考えている全国の飲食店オーナーへ、伝えたいことはありますか。
一番伝えたいのは、「そのまま終わらせるのは、もったいないですよ」ということです。
店を譲ろうと考えたときに、「自分の店なんて全然価値がない」と思っているオーナーさんは意外と多いんです。
でも、私が実際に店を見て話を聞けば、本人が気づいていない価値を見つけられるかもしれません。
厨房機器や内装の金額だけではなく、その店だからこそ持っている価値があります。
「自分にはできなかったけれど、次の人がこういうことをすれば、もっと売れるかもしれない」
そういう可能性を一つ言語化するだけでも、買い手から見た店の価値は変わります。
ですから、閉店を決めて全部壊してしまう前に、まず一度相談してほしいです。
場合によっては、話している中で「ここを直せば、まだ自分で続けられそうですね」となって、売却をやめることだってあります。
そうなれば、私たちのM&Aの仕事はなくなってしまいます(笑)。
でも、それでもいいと思っているんです。
店が残るのであれば、それが一番ですから。
最後に、株式会社and evisuとして今後目指していきたいことを教えてください。
何よりも、スケルトンにして壊してしまう前に、一度相談していただける世界をつくりたいと思っています。
オーナー様自身が気づいていない店の価値を見つけて、それをきちんと言語化して、次の方へお渡しする。
一方で、買う側から見ても、飲食店をゼロからつくるのは本当に大変です。
私も何度も新規オープンに携わってきましたが、お金もかかる、人も集めなければならない、レシピもつくらなければならない、仕入れ先も探さなければならない。
飲食店を一から立ち上げるには、とても大きな時間と労力が必要です。
だからこそ、閉店しようとしている店と、新しく飲食店を始めたい人を「ミセウル」「ミセカウ」でつなぐことには大きな意味があると思っています。
私は、飲食店が好きです。
30年以上、飲食業界で仕事をして、ここで人生をつくらせてもらいました。
だから、一店舗でも飲食店になくなってほしくない。
一店舗でも多く、誰かの手へ引き継がれ、飲食店が生き残れる世界をつくることが、私にとって飲食業界への恩返しだと思っています。
今は日本全国を対象にしていますが、将来的には、日本の飲食店をやりたい海外の方や、海外で飲食店にチャレンジしたい日本の方もつなげていきたい。
いつか日本という枠にとどまらず、世界の主要な国々でも飲食店の承継を支援できるようなサービスにしていきたいと思っています。

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岡本 優
株式会社and evisu 代表取締役。飲食業界でキャリアをスタートし、30年以上にわたって現場に立つ。銀座ライオンなどを運営する株式会社サッポロライオンに入社し、東京・京都・大阪・福岡の店舗を経験。新宿や銀座では800席を超える大型店の運営に携わり、赤字店舗の再建も手がけた。「どうしたらいい店になるのか」を問い続け、お客様に愛される店づくりを一貫して大切にしてきた。その後独立し、2025年に株式会社evisuを創業。谷中銀座の九州物産店「九州堂」の事業を譲り受け、現在は日本酒の角打ち「SAKE CRAFTERS」として運営する。自ら事業を譲り受けた経験から、飲食店に特化したM&A・事業承継支援サービス「ミセウル」「ミセカウ」を手がける株式会社and evisuを設立。売り手の仲介手数料を0円とし、承継後の伴走型コンサルティングまで担う。