インタビュー

想いも価値もいっしょに受け継ぐ農業承継。農家と企業をつなぐ「フウドバトン」の挑戦|FOODBOX

想いも価値もいっしょに受け継ぐ農業承継。農家と企業をつなぐ「フウドバトン」の挑戦|FOODBOX

高齢化や担い手不足が進む農業界では、長年守られてきた農地や栽培技術、販路が、後継者不在によって途絶えてしまうケースが増えています。一方で、地域貢献や食料安全保障、社員の新たな活躍の場づくりなどを背景に、農業への参入を検討する企業も少しずつ増えています。

その間に立ち、農家と企業をつなぐ農業承継支援に取り組んでいるのが、FOODBOX株式会社です。同社が展開する「フウドバトン」は、農地や設備だけでなく、農家が培ってきた想い、栽培技術、地域との関係性まで含めて次の担い手へ引き継ぐことを目指しています。

今回は、FOODBOX株式会社代表の中村圭佑さんに、農業承継の現場で起きている課題、企業が農業を引き継ぐ意義、そしてこれからの日本農業に必要な視点について、お話を伺いました。

まず、FOODBOXの歩みと、中村さんご自身の背景を教えてください。

FOODBOXのロゴ

FOODBOXは、食・農業領域に特化したコンサルティング会社として、2019年に立ち上げました。株式会社化したのは2020年ですので、現在は7期目になります。

私自身、農家の出身です。家族・親族も農業や食に関わる会社を複数経営しており、農業が身近な環境で育ちました。そうした背景もあり、農業界の旧態依然とした業界の習慣や、後継ぎがいないという課題に対して、何かしらサービスをつくれるのではないかと考えてきました。

これまでも農業分野の事業承継に関する相談を受け、実際に複数の案件に関わってきました。その経験を踏まえ、農業承継により注力するために立ち上げたのが「フウドバトン」です。

農業承継支援サービス「フウドバトン」のロゴ

農家が第三者への事業譲渡を考える際、最も大きな障壁は何でしょうか。

大きいのは、「誰に相談していいかわからない」ということだと思います。農業には定年がありません。体が続く限り続けるという方も多く、血縁関係のある人が継ぐ以外の選択肢を持っていない農家さんも少なくありません。

また、農地は先祖代々受け継いできたものであり、それを手放すことに対して、地域の中で恥ずかしさや後ろめたさを感じる方もいます。地域の利害関係者には話しづらい。だからこそ、地域外にいて、農業を理解しながらも中立的に関われる第三者の存在が必要になります。

チームのメンバーと議論するFOODBOX株式会社代表の中村圭佑さん

実際に、畜産事業者の承継を支援した際も、「地域の関係者には相談しにくかったが、農業を理解し、専門性を持って第三者として動いてくれる存在だったから相談した」と言っていただきました。農業承継では、この心理的なハードルを越えることがとても重要です。

農業に特化した事業承継支援には、どのような専門性が求められますか。

農家さんと信頼関係を築くうえでは、まず共通言語を持って話せることが大切です。ハウスや圃場を見たときに、どんな工夫をしているのか、どこに課題がありそうかをある程度理解していれば、ヒアリングもスムーズです。また、農家と一括りにせず、作物、地域、経営規模によって課題を仮説立てできることも必要になります。

もう一つ重要なのが、農業独自の価値を見極めることです。一般的なM&Aのように損益計算書だけを見ると、農業は大きな利益が出ていないように見えることがあります。しかし、そこには土づくり、栽培技術、設備、販路、そして丁寧に手入れされてきた果樹などの価値があります。

たとえば果樹であれば、樹齢や手入れの状態によって、今後どれだけ収穫できるかを見立てることができます。ゼロから始めれば5年、10年かかる資産を、事業承継によって引き継ぐことができる。この時間軸も含めて評価することが、農業承継における特異点であり、「フウドバトン」が得意とする領域です。

企業が農業を引き継ぐメリットはどこにありますか。

企業がゼロから農業に参入する場合、初期投資、生産技術の習得、人材の確保、地域コミュニティへの参加など、多くのハードルがあります。とくに地域との関係性は大きく、いきなり企業が入ってきても「数年で撤退するのではないか」と見られてしまうこともあります。

一方、事業承継であれば、農地や設備だけでなく、ノウハウ、取引関係、地域との接点も引き継ぐことができます。先代の農家さんが地域との橋渡し役になってくれることで、企業も比較的スムーズに地域へ入っていける。これは、農業という地域に根ざした産業ならではの大きな意味だと思います。

譲渡後の支援では、どのようなことを重視していますか。

基本的には、譲渡後も1〜2年ほどは農家さんに関わっていただくようお願いしています。栽培技術を引き継ぐだけでなく、地域との関係性をつなぐ意味でも、その期間は必要不可欠だと考えています。

農地で次の担い手へ承継を進めるイメージ

私たちは、引き継ぎ前のデューデリジェンスを通じて、売上面、コスト面、付加価値面の改善余地を整理します。そのうえで、企業と一緒に中長期の事業計画をつくり、農業事業を運営する組織体制も整えていきます。場合によっては、農業子会社の設立や、変形労働制を含む働き方の設計も必要になります。

通常のPMIのように、企業の改革チームが入って一気に変えるというより、農業では現場に張り付き、農家さんや地域と丁寧に関係を築きながら進めることが大切です。

今後、日本の農業はどのような局面を迎えると考えていますか。

2030年、2035年に向けて、日本農業は大きな変革期を迎えると思っています。今続けている方が、年齢や設備更新、気候変動、価格変動などを理由に、やめざるを得ない場面が増えていく。一方で、それは農業に参入したい企業や次の担い手にとっては、大きなチャンスでもあります。

食料は、誰にとっても欠かせないものです。だからこそ、日本のおいしい農産物を持続的につくり続けるためには、農業を「地域の農家だけが担うもの」と捉えるのではなく、多様な担い手が関われる産業として見直していく必要があります。

農業も、きちんと事業承継ができます。そして、引き継ぎたい人も増えています。その選択肢をもっと多くの方に知っていただき、想いも価値も次の世代へ渡していく。その支援に、これからも力を入れていきたいと考えています。

中村 圭佑のプロフィール写真
プロフィール

中村 圭佑 Nakamura Keisuke

FOODBOX 代表取締役CEO/フードカタリスト

農家の出身で、食・農業に関わる事業を営む家族のもとで育つ。2019年に食・農業領域に特化したコンサルティング会社としてFOODBOXを立ち上げ、2020年に法人化。農業界の担い手不足や後継者不在の課題に向き合い、農家と企業をつなぐ農業承継支援サービス「フウドバトン」を展開。農地や設備だけでなく、栽培技術、販路、地域との関係性、農家の想いまで含めた承継支援に取り組んでいる。

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