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相続による株式分散を防ぐ5つの生前の備え|後継者に議決権を集めるために

相続による株式分散を防ぐ5つの生前の備え|後継者に議決権を集めるために

社長が自社株をすべて持っていても、何も備えないまま相続が起きると、株式は相続人のあいだで分かれてしまいます。後継者の持ち分が3分の1に届かなければ、会社の大事な決定を一人では通せません。分散してから集め直すのは難しく、だからこそ生前の備えが肝心です。この記事では、相続による分散を防ぐ5つの備えの効き方と弱点、そして組み合わせ方を、現経営者と後継者に向けて整理します。

この記事でわかること

  • 相続で自社株が分散するしくみ
  • 分散が、なぜ経営の問題になるのか
  • 生前贈与・遺言・無議決権株式・黄金株・売渡請求の5つの備え
  • それぞれの備えの弱点と、組み合わせ方
  • 子が3人いる会社での、具体的な設計例

相続で株式が分散するとは?

社長が持っていた株式が、相続をきっかけに複数の相続人へ分かれて持たれる状態になることです。

相続が起きると、自社株はまず相続人全員の共有になります。預金のように法定相続分で自動的に分かれるわけではありません。そのあいだ議決権を使うには、共有者のなかから権利を行使する1人を決めて、会社に通知する必要があります(会社法106条)。

その後、遺産分割協議で誰が何株を持つかを決めます。後継者以外の相続人も株式を受け取れば、ここで分散が確定します。

分散すると、なぜ経営の問題になるのか?

会社の大事な決定には、議決権の多数が必要だからです。後継者の持ち分が足りないと、経営判断を一人で通せなくなります。

株主総会の決議は、内容によって必要な賛成の割合が違います。

後継者の議決権できることできないこと
3分の2以上定款変更・合併・事業譲渡なども単独で可決ほぼなし
過半数取締役の選任・解任、役員報酬の決定特別決議を単独で通すこと
3分の1超特別決議を単独で否決取締役の選任を単独で通すこと
3分の1以下単独ではほとんど何も決められない経営の主導権を握ること

さらに、相続した株式は、そのさらに次の相続でまた分かれます。一度分散すると、世代を重ねるごとに株主は増えていきます。

分散を防ぐ5つの備えとは?

生前贈与・遺言・無議決権株式・黄金株・相続時の売渡請求の5つです。前の2つは株式を後継者へ「集める」備え、後の3つは株式が分かれても議決権を「守る」備えです。

相続による株式分散を防ぐ5つの備えを、株式を後継者に集める備えと、議決権を守る備えの2つに分けて示した図。集める備えは生前贈与と遺言で、生前贈与は贈与税、遺言は遺留分が弱点になる。守る備えは無議決権株式・黄金株・相続時の売渡請求で、無議決権株式は財産の価値は分けつつ議決権を後継者に集め、黄金株は重要な決議に拒否権を持ち、売渡請求は相続で外へ出た株式を会社が買い戻す。それぞれの根拠条文も添えている。

備えねらい主な弱点
生前贈与元気なうちに後継者へ株式を移す贈与税がかかる
遺言相続時に株式を後継者へ集める他の相続人の遺留分
無議決権株式財産の価値は分け、議決権は後継者へ定款変更と株主の同意が必要
黄金株重要な決議を拒否できる株式を持つ持つ人を誤ると経営の足かせになる
相続時の売渡請求相続で外へ出た株式を会社が買い戻す資金・財源と期限の制約

どれか1つで完璧に防げる備えはありません。

生前贈与は、どう使えばよいのか?

元気なうちに、株価や税負担を見ながら計画的に後継者へ移していく使い方が基本です。

相続を待たずに株式が後継者のものになるので、分散の余地そのものがなくなります。

弱点は贈与税です。自社株の評価額が高いと、贈与税の負担は重くなります。事業承継税制を使えば贈与税の納税が猶予される場合もありますが、要件と期限が細かく定められているので、早めに確認が必要です。

贈与は契約なので、書面にし、会社の譲渡承認と株主名簿の書換えまで済ませることも忘れないでください。

遺言で株式を集めるときの注意点は?

遺言で株式を後継者に集めることはできますが、他の相続人の遺留分に備えて、金銭を用意しておく必要があります。

「自社株はすべて長男に相続させる」と遺言しておけば、遺産分割協議を経ずに株式が後継者へ移ります。

ただし、他の相続人には遺留分があります。2019年7月の民法改正で、遺留分の請求は金銭の支払いを求める権利になりました(民法1046条)。株式を取り戻されることはなくなった一方で、後継者は請求された金額を現金で払う必要があります。

自社株の評価額が大きいと、遺留分の金額も大きくなります。経営承継円滑化法には、後継者が受け取る自社株を遺留分の計算から外したり、評価額を合意時点で固定したりする特例があります。推定相続人全員の合意と、経済産業大臣の確認・家庭裁判所の許可が必要ですが、検討する価値はあります。

無議決権株式で、財産と議決権を分けるには?

株式を「議決権のある株式」と「議決権のない株式」に分け、前者を後継者に、後者を他の相続人に渡します。

後継者以外にも子がいると、「経営権は後継者に集めたい、でも他の子にも公平に財産を残したい」という悩みが生じます。無議決権株式は、この悩みに答える備えです。

導入には定款変更(特別決議)が必要です。既存の株式の一部を無議決権株式に変える場合は、関係する株主の同意も求められるのが一般的です。だからこそ、社長が株式をすべて持っているうちに手を打つのが有利です。

黄金株と売渡請求は、どんなときに使うのか?

黄金株は、承継の途中で現経営者が後継者を見守るとき、売渡請求は、株主がすでに複数いるときに使います。

黄金株(拒否権付株式)は、特定の議案について、その株主の承認がなければ決議が成立しないとする種類株式です(会社法108条1項8号)。1株でも強い力を持つので、誰が持つかが決定的に重要です。現経営者が持てば見守り役になりますが、相続で後継者以外の手に渡ると、経営の足かせになります。事業承継税制では後継者以外が黄金株を持つと納税猶予を受けられないので、その点にも注意が必要です。

相続時の売渡請求は、相続で株式を取得した人に対して、会社がその株式を売り渡すよう請求できるとする定款の定めです(会社法174条)。

ただし、会社が買い取るには資金が必要で、買取額は分配可能額の範囲内に限られます。また、後継者が相続した株式に対しても請求できる構造のため、他の株主の決議で後継者が締め出される逆流のおそれもあります。

実例で見ると、5つをどう組み合わせるのか?

後継者には議決権のある株式を集め、他の子には無議決権株式で財産の価値を分け、遺言で全体を固める、という組み合わせが典型です。

架空の例で見てみます。D社の社長は発行済株式3,000株をすべて持っています。妻はすでに亡くなっていて、子は長男・次男・長女の3人。後継者は長男です。

子が3人いる架空のD社で、株式分散の備えをした場合としなかった場合の議決権を比べた図。何も備えなければ、相続直後は3,000株が3人の共有になり、法定相続分どおりに遺産分割すると1,000株ずつに分かれて、後継者の長男の議決権は33パーセントにとどまり、取締役の選任も単独ではできない。備えをした場合は、定款変更で2,000株を無議決権株式に変え、議決権のある1,000株を生前贈与と遺言で長男に、無議決権株式を次男と長女に1,000株ずつ渡す。財産の価値は3人で3分の1ずつに分けたまま、長男の議決権は100パーセントになる。

何も備えなければ、相続直後の3,000株は3人の共有になります。議決権を使う代表者は持分の過半数で決めるので、次男と長女が組めば、長男は代表者にもなれません。その後、法定相続分どおりに遺産分割すれば1,000株ずつに分かれ、長男の議決権は33%です。取締役の選任さえ、次男か長女の賛成がなければ通りません。

備えをした場合は、次のように組み立てます。

  1. 定款を変更し、3,000株のうち2,000株を無議決権株式に変える
  2. 議決権のある1,000株を長男へ、生前贈与と遺言で集める
  3. 無議決権株式を次男と長女に1,000株ずつ、遺言で相続させる
  4. 念のため、相続時の売渡請求の条項も定款に入れておく

財産の価値は3人で3分の1ずつのまま、長男は議決権の100%を握れます。次男と長女も配当を受け取れるので、「長男だけが得をした」という不満も和らぎます。

よくある失敗と、その防ぎ方

遺言を書かないまま、まだ大丈夫だと先送りする。 遺言がなければ遺産分割協議になり、分散の可能性が一気に高まります。まず遺言から始めてください。

遺留分の資金を考えずに、株式を後継者に集中させる。 金銭での請求に備え、生命保険などで資金を準備します。

株主が増えてから種類株式を検討する。 株主が多いほど同意を取りにくくなります。社長が株式を握っているうちに設計します。

売渡請求の条項を入れて安心してしまう。 資金・財源・期限の制約があり、逆流のおそれもあります。他の備えと組み合わせて使います。

まとめ

  • 相続が起きると、自社株は相続人全員の共有になり、遺産分割で分散が確定する。
  • 後継者の議決権が3分の1以下だと、経営の主導権を握れない。
  • 生前贈与と遺言は株式を後継者に集める備えで、弱点は贈与税と遺留分である。
  • 無議決権株式を使えば、財産の価値は分けつつ議決権を後継者に集められる。
  • 黄金株と売渡請求は強力だが、持つ人や使い方を誤ると後継者に不利に働く。
  • 5つの備えは単独でなく組み合わせて使い、社長が株式を握っているうちに設計する。

株式の分散対策は、会社法の株主総会の決議要件と種類株式、民法の相続と遺留分がまたがる論点です。「議決権をどう集めるか」という一つの問いで、それぞれの制度の役割を整理しておくと、全体像が見えやすくなります。

次回は、すでに分散してしまった株式を、後継者のもとへ集め直す方法を取り上げます。買取の交渉と価格の考え方が中心になります。

よくある質問

遺言で自社株を後継者に集めれば、分散は防げますか?
株式そのものは後継者に集まります。ただし他の相続人には遺留分があり、侵害された分を金銭で請求される可能性があります。株式が取り戻されることはありませんが、後継者がその資金を用意できるかを事前に確認しておく必要があります。
無議決権株式は、後から既存の株式を変えて作れますか?
作れます。定款を変更して議決権制限株式を設けたうえで、既存の株式の一部をその種類に変えます。株主が社長1人のうちなら手続きは比較的簡単ですが、株主が複数いると関係する株主全員の同意が必要になるのが一般的です。
相続時の売渡請求の条項があれば、他の備えはいりませんか?
いりません、とは言えません。会社が買い取る資金と財源が必要で、請求できる期間も相続を知った日から1年以内に限られます。後継者自身が相続した株式にも使える構造なので、使い方を誤ると後継者が締め出されるおそれもあります。
5つの備えは、どれから始めればよいですか?
まず遺言を書き、株主構成と相続人を確認するところから始めるのが現実的です。そのうえで、後継者以外の相続人がいるなら無議決権株式を、株主が多いなら売渡請求の条項を検討します。組み合わせは家族構成によって変わるので、専門家と一緒に設計してください。

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