インタビュー

M&Aは「出口」ではなく手段。経営者の人生から逆算する事業承継|YKフューチャーコンサルティング

M&Aは「出口」ではなく手段。経営者の人生から逆算する事業承継|YKフューチャーコンサルティング

事業承継というと、「誰に会社を継ぐのか」「いくらで会社を譲渡するのか」といった議論に目が向きがちだ。しかし、株式会社YKフューチャーコンサルティング代表の河村裕司氏は、「まず考えるべきは、経営者自身が引退後にどのような人生を送りたいのか」だと語る。

製造業での商品企画・新規事業開発を経て独立し、経営コンサルタントとして補助金、経営改善、成長戦略、M&Aなど幅広い支援に携わってきた河村氏。M&Aありきではなく、親族内承継や会社の磨き上げ、補助金・税制の活用まで含めて経営全体から最適な道を考える。その支援の考え方と、事業承継を考える経営者が今から準備すべきことについて伺った。

まず、河村さんご自身のこれまでの経歴と、現在のお仕事について教えてください。

もともとは製造業で、電子楽器メーカーの商品企画や新規事業に携わっていました。会社員として働く一方で、副業として経営コンサルタントの仕事も始め、メーカーを中心に商品企画や新規事業の支援をしていました。

徐々に副業でいただくご相談が増えて、自分一人では対応しきれなくなってきたことから独立しました。その後、より多くのお客様を支援できるよう会社として組織化していきました。

当初は、新規事業や商品企画の支援が中心でした。ただ、製造業で新しい事業を始めようとすると、設備投資が必要になります。生産ラインを整備したり、測定機器を導入したりするためには、当然資金が必要です。

10年ほど前は、今ほど補助金が一般的ではありませんでした。資金調達といえば銀行融資が中心で、お客様との会話でも「融資をどうしようか」という話になることがほとんどでした。

その中で私が補助金に着目し、申請支援を始めました。返済が必要な融資とは異なる資金調達の選択肢として非常にニーズがあり、口コミでご相談が増えていったんです。

その後、補助金の規模も大きくなり、数千万円規模の設備投資だけでなく、会社全体の成長戦略を描くような案件にも携わるようになりました。

数千万円規模の投資であれば、一つの事業や部門について事業計画を考えればいいケースも多いですが、投資規模が数十億円規模に大きくなれば、会社が5年後、10年後にどこを目指すのかという全社的な成長戦略が必要になります。

そこから、企業の成長戦略を考える中でM&Aをご提案する機会も増えていきました。

現在は、融資、補助金、経営改善、事業再生、新規事業、事業承継、M&Aなどを組み合わせながら、企業の成長戦略を支援しています。

もともとM&Aを専門にされていたわけではないのですね。

そうですね。私たちはM&Aアドバイザーである以前に、経営コンサルタントとしてスタートしています。

M&Aそのものを本業として考えているというよりも、企業を支援するために必要な選択肢の一つとしてM&Aが加わったという感覚です。

融資もありますし、補助金もあります。事業再生や経営改善、親族内承継という選択肢もあります。その中で、第三者承継という選択肢を持っていなければ、お客様にとって本当に良い提案ができない場面が出てきます。

だからM&Aという手段も持つようになりました。

M&Aを出口ありきで考える必要はないと思っています。まず会社の成長戦略があり、その実現手段として融資や補助金、M&Aなどを組み合わせていく。それが私たちの基本的な考え方です。

多くの経営者と向き合う中で、最初に相談される課題と、本当の経営課題にギャップを感じることはありますか?

かなりあります。

例えば、ある事業について事業計画を作るのであれば、ご自身である程度言語化できる経営者も多いです。

しかし、話が「会社全体を今後どこに向かわせるのか」という経営レベルになると、一気に難しくなります。MVVの設計に始まり、M&A、設備投資、資金調達、人材、グローバル化、地域との連携などの各パーツに整合性を持たせながら、広範囲かつ、長期にわたる壮大なビジョンを見える化するわけですから。将来、会社をM&Aで譲り渡すための出口計画の構築支援においても同様の課題が散見されます。

実際に相談を受けると、「何をやっていいのか分からない」「会社をどこに向かわせるべきか分からない」というところから始まることも少なくありません。

経営者自身は「自分はこうしたい」と説明しているつもりでも、私たちが壁打ちをしながら、「つまりこういうことですか」「本当にやりたいのはこちらではないですか」と掘り下げていくと、最初におっしゃっていたことから大きく変わることがあります。

最終的にご提案をお見せすると、「そうそう、これがやりたかったんだ」と言われることもあります。

もちろん最初に嘘をついているわけではありません。経営者自身も、頭の中にあるものをまだ十分に言語化できていないんです。

だからこそ、第三者が入り、会話をしながら引き出していくことが重要だと思っています。ある意味では、コーチングに近い部分もありますね。

事業承継を考える上で、特に重要だと考えていることはありますか?

一番大事なのは、「どこに出口を置くのか」を考えることだと思っています。

事業承継やM&Aの話になると、「会社を手放すこと」がゴールになりがちです。

でも、私たちは最初に経営者のライフプランをお尋ねします。

会社を引退してから、その先の人生をどのように過ごしたいのか。奥様と自宅でゆっくり暮らしたいのかもしれないですし、世界一周旅行に何度も行きたいという方かもしれません。お子さんやご家族に何を残したいのかという話もあります。

それによって、必要になるお金も全く変わります。

ところがM&Aの交渉が始まると、どうしても「あといくら高く売れるか」という話に集中してしまいます。

もちろん譲渡価格は大切です。ただ、本当に見るべきなのは、その金額で自分が望んでいる引退後の人生を実現できるのかということです。

M&Aの交渉は経営者にとって精神的にも大変です。デュー・ディリジェンスなどでさまざまなことを確認され、「もう早く終わらせたい」と思うこともあれば、「こんな話ならやめてしまおう」と感情的になることもあります。

だから私たちは、最初にご自身のライフプランを紙に書いていただきます。

そして迷ったときには、その紙をもう一度見てもらうんです。

「最初に決めたゴールは何だったのか」を見失わないためです。

すごくアナログですが、とても大切なことだと思っています。

会社経営に人生を捧げてきた経営者ほど、引退後について考える必要があるということでしょうか?

そう思います。

仕事が大好きで、「仕事が人生」という経営者はたくさんいます。若いうちはそれで力を発揮できることもありますし、仕事がうまくいけば私生活もうまくいくという生き方も決して悪いものではありません。

ただ、会社と自分の人生が完全に一体化したまま最後まで走り続けると、引退した瞬間に自分の居場所がなくなってしまうことがあります。

よく、M&Aを無事に終えた経営者の方々から「希望していた金額で売却できたし、時期も早くて良かった。ただ、ふと自分がやりたかったのは本当にこれだったのかと考えることがある」というお話を耳にすることがあります。

条件だけを見れば成功したM&Aです。

それでも本人が幸せになっていなければ、果たして本当に成功した事業承継だったのかという疑問が残ります。

だからこそ、会社をどうするかだけではなく、その後の人生まで含めて出口を考える必要があると思っています。

今ご支援している企業の中には、10年後の事業承継を見据えて計画を作っている会社もあります。

会社の未来と、経営者自身の未来。その二つを一緒に考えることが重要です。

M&A仲介会社などと比較したとき、YKフューチャーコンサルティングならではの強みはどこにありますか?

選択肢を広く持てるところだと思います。

私たちはM&Aだけを扱っているわけではないので、「何とかしてM&Aを成立させなければいけない」という心理的なプレッシャーが比較的ありません。

実際にM&Aの相談を受けた結果、「この会社は売却するより親族内承継の方がいいですよ」とご提案したこともあります。

「今すぐM&Aをするのではなく、まず会社を磨き上げましょう」とご提案したケースもあります。

例えば補助金を活用して設備投資をしたり、新商品を開発したり、新規事業を立ち上げたりする。それによって会社の価値を高めてから、改めて承継について考えるわけです。

反対にM&Aが終わった後、PMIの支援をすることもあります。設備投資が必要になれば、そこから補助金活用を考えることもできます。

経営コンサルタントとして会社全体を見ることができることが、一つの強みだと思っています。

また、私は中小企業診断士として仕事をしており、弁護士や税理士、行政書士など、ほかの士業とのネットワークもあります。昨今はM&Aアドバイザーによる事業者へのモラル違反も散見されていますが、我々国家資格に基づく士業は、職務上および法律上の守秘義務や善管注意義務を負っています。そのため、担当者の質という点においてもクライアントからは、一定の安心感を持っていただけているようです。

事業承継やM&Aは、財務だけではなく、税務、法務、経営などさまざまな専門知識が必要になるので、必要に応じて専門家と連携できることも重要だと思っています。

製造業に対する支援にも強みがあるのでしょうか?

私自身が製造業出身ということもあり、経営コンサルティング分野では製造業のお客様が比較的多いです。

特に製造業は、我々が注力する資金調達分野との相性が良いものが多くあります。

その場合、工場の設備や生産工程などについて最低限理解できなければ、そもそも会話が成り立ちません。

私たちは製造業の現場について一定の理解があるので、「話が通じるからやりやすい」と言っていただくことがあります。

M&Aそのものについて製造業だけに限定しているわけではありませんが、経営支援や補助金支援まで含めると、これまでの経験を生かせる領域だと思っています。

これまで支援した中で、特に印象に残っている事業承継・M&Aの事例を教えてください。

ある製造業の買い手企業を支援した事例が印象に残っています。

その企業はM&Aで会社を買いたいと考えていたのですが、希望する案件が見つかったものの、予算が合わないという問題がありました。

買い手側には出せる金額の上限があり、一方で売り手側も条件を変えるつもりはありませんでした。

普通に考えれば、そこで交渉が止まってしまいます。

そこで私たちは、「譲渡価格そのものを動かす以外に、何かできないか」と考えました。

最初に提案したのが、事業承継・M&Aに関する補助制度の活用でした。

仲介会社への報酬やデュー・ディリジェンスなどにかかる費用の一部について補助制度を活用することで、実質的な負担を抑えることができました。

さらに、M&Aに関連する税制も組み合わせました。

株式取得によるM&Aなど一定の要件を満たす場合には、取得価額の一部を準備金として積み立て、損金算入できる制度があります。

加えて、その案件では売り手企業が設備投資を行った直後だったため、売り手側についても設備投資に関連する税制を検討しました。

つまり、「譲渡価格をどう下げるか」だけではなく、補助金や税制を組み合わせながら、買い手と売り手の双方にとって成立するスキームを考えていったんです。

結果として予算の問題を解消し、M&Aを実現することができました。

その買い手企業は、それまで複数のM&Aアドバイザーと仕事をしてきたそうですが、「補助金や税制まで含めた提案をされたのは初めてだった」と言っていただきました。

経営コンサルティング、補助金、税制、M&Aと、私たちが持っている知識やネットワークを総合的に使えた、YKフューチャーコンサルティングらしい案件だったと思っています。

M&Aに使える補助金や税制は、まだ十分に知られていないのでしょうか?

まだまだ知られていないと感じています。

制度を申請して不採択になるというよりも、そもそも制度があることを知らずにスルーしてしまっているケースや、「自社では使えないだろう」と思い込んでいるケースがあります。

制度が複雑なので、本当は対象になる可能性があるのに、要件を勘違いして諦めてしまうこともあります。

M&Aでは仲介手数料やデュー・ディリジェンスなど、さまざまな費用が発生します。条件が合えば、それらに補助制度を使える可能性があります。

税制についても同様です。

もちろんすべての会社が使えるわけではありませんし、制度ごとに要件があります。ただ、「知らなかった」というだけで選択肢から外してしまうのは非常にもったいない。

補助金や税制は、知っているかどうかで資金繰りに差が出ることがあります。

特にM&Aを考えている買い手企業には、一度制度を確認していただきたいと思っています。

これから事業承継を考える売り手側の経営者に、一番伝えたいことは何でしょうか?

とにかく、早く準備を始めてほしいです。

書店の前に並ぶ河村裕司さんと支援先の経営者

最低でも5年、理想を言えば10年ぐらいかけて、「自分はどのような出口を目指すのか」を考えてほしいと思っています。

実際に事業承継を進めた経営者の多くが、「もっと早くやっておけばよかった」とおっしゃいます。

ところが、いざ「事業承継の準備をしてください」と言われても、「何から始めればいいのか分からない」という方がほとんどだと思います。

まずは自社の現在地を把握することです。

会社にはどんな課題があるのか。今後何を改善しなければいけないのか。親族内承継なのか、従業員承継なのか、第三者承継なのか。仮にM&Aをするなら、会社がどの程度の価値として評価される可能性があるのか。

そうしたことを一つずつ整理していくことが大切です。

私たちも、数分程度の入力から会社の現在地や課題、今後必要なアクションなどを整理する「事業承継診断レポート」の提供を始めています。現在、期間限定でレポート提供を無料で行っていますので、本記事をご覧の方も事業承継の検討を開始された方はぜひご利用をいただけたらと思います。

重要なのは、いきなり会社を売ることではありません。

5年後、10年後に自分がどうなっていたいのか。そのとき会社をどうしていたいのか。

まずそこから考えてほしいですね。

最後に、これから会社や事業を「譲る側」「譲り受ける側」の双方へメッセージをお願いします。

売り手の方には、やはり「早く準備してください」ということを一番お伝えしたいです。

事業承継は、会社を引き渡した瞬間だけの話ではありません。それまでに会社をどう整えるのか、誰に継ぐのか、そして自分自身がその後どんな人生を送りたいのかまで考える必要があります。

準備に時間をかけられるほど、選べる選択肢は増えていきます。

一方、買い手の方には、M&Aそのものだけでなく、その周辺にある補助金や税制などにも目を向けてほしいと思います。

制度を知っていることで、これまで予算的に難しいと思っていたM&Aが成立する可能性もあります。

事業承継にもM&Aにも、一つの正解があるわけではありません。

親族に継ぐ方がいい会社もあれば、第三者に譲ることで成長できる会社もあります。今すぐ承継するのではなく、数年間会社を磨き上げてから次の世代へ渡した方がいい会社もあります。

だからこそ、最初から手段を決めるのではなく、「会社をどうしたいのか」「自分はどう生きたいのか」というところから考えることが重要です。

M&Aも補助金も融資も、そのための手段の一つにすぎません。

経営者と会社の双方にとって、一番良い未来につながる選択肢を一緒に考えていきたいと思っています。

支援先の飲食店の前で、経営者とスタッフとともに並ぶ河村裕司さん

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河村 裕司のプロフィール写真
プロフィール

河村 裕司 Kawamura Yuji

株式会社YKフューチャーコンサルティング 代表取締役

1978年、山口県防府市生まれ。電子楽器メーカーで商品企画・新規事業開発に従事し、グローバル向けに150以上のプロダクトを世に送り出した。会社員時代から副業として経営コンサルティングを手がけ、相談の増加を受けて独立。その後、株式会社YKフューチャーコンサルティングとして組織化した。補助金がまだ一般的でなかった時期にいち早く申請支援に着目し、現在は融資、補助金、経営改善、事業再生、新規事業、事業承継、M&Aを組み合わせ、中長期の成長戦略の立案から資金調達、事業承継支援までを一貫して提供する。M&Aを出口として前提化せず、親族内承継や会社の磨き上げも含めて最適な道を探る姿勢を貫き、製造業を中心に支援実績を重ねる。経済産業大臣登録中小企業診断士(415177号)、認定経営革新等支援機関(106013003310号)。専門人材育成のプラットフォーム「ProHub」の運営も手がける。趣味はジョギング、登山、海外旅行。

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