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「業績は悪いのに株価は高い」逆転が起きる理由|自社株評価の落とし穴

「業績は悪いのに株価は高い」逆転が起きる理由|自社株評価の落とし穴

「ここ数年は赤字続きで、社長の給料も下げているのに、自社株の評価額を聞いて腰を抜かした」。事業承継の相談では、こうした声をよく耳にします。業績が悪いのだから株価も低いはず、という感覚は自然なものですが、実際には逆転が起こります。この記事では、なぜそんなことが起きるのか、そして承継のタイミングにどう活かすかを、現経営者と後継者に向けて解説します。

この記事でわかること

  • 赤字なのに自社株の評価額が高くなる、そのしくみ
  • 逆転を生む三つの原因(内部留保・土地の含み益・未支給の役員退職金)
  • 逆に、業績好調でも株価が低くなる会社の特徴
  • 評価が下がるタイミングをとらえて株を移すという考え方

なぜ「赤字なのに株価が高い」が起きるのか?

株価の計算が、「今期どれだけ儲かったか」ではなく「創業以来どれだけためてきたか」を見ているからです。1年や2年の赤字では、何十年分の蓄積はほとんど削れません。

創業50年の会社が、近年は売上が落ち込み、直近は赤字。社長は「今なら株価も安いだろう」と考えて税理士に評価を依頼したところ、1株あたりの評価額は驚くほど高く、全株を後継者に渡すと数千万円の贈与税がかかると告げられた。これは決して珍しい話ではなく、長く続いてきた会社ほど起こりやすい現象です。

株価が見ているのは「今期の成績」ではない

自社株の評価には純資産価額方式が使われます。これは、今この会社をたたんだら、いくら残るかという発想の計算です。ここで見られているのは、会社が創業以来ためこんできた財産の総量であり、今期の損益はその蓄積をわずかに増減させるにすぎません。

業績と株価がずれるしくみを示す図。左の損益計算書は1年間の成績を表すフローで赤字を示し、右の貸借対照表は創業からの蓄積を表すストックとして積み上がった純資産を示す。株価が見ているのは右側であり、1年の赤字では何十年分の蓄積は減らないことを表している。

つまり、業績はその年の成績、株価は会社の体重のようなものです。一度食事を抜いても体重がすぐには落ちないのと同じで、少々の赤字では蓄積は減りません。ここに、感覚とのずれが生まれます。

この逆転を生む原因は、大きく三つあります。

原因何が株価を押し上げているか打てる手の方向性
長年の内部留保配当せず会社に残してきた利益の蓄積時間をかけた計画的な移転
土地の含み益帳簿価額と相続税評価額の差資産構成の見直し
未支給の役員退職金これから起きる支出が未反映支給と株式移転の順番

原因①:長年の内部留保

もっとも大きな原因が、内部留保です。利益が出るたびに税金を払い、残りを配当せずに会社に残してきた。堅実な経営の証しですが、その積み重ねが会社の純資産を厚くし、株価を押し上げます。

無借金で堅実な優良企業ほど、株価が高くなるという皮肉な結果が生じます。借金をせず、贅沢もせず、こつこつためてきた会社の社長が、承継の段になって最も重い税負担に直面する。この構図を、多くの経営者は事前に知らされていません。

たとえば、毎年1,000万円の利益を出し、税引後に600万円ずつ会社に残してきた会社があるとします。30年続ければ、それだけで1億8,000万円の蓄積です。ここ数年が赤字で年間500万円ずつ目減りしたとしても、3年で1,500万円減るだけ。蓄積のほとんどはそのまま残ります。赤字で株価が下がるには、何年もかかるのです。

原因②:土地の含み益

二つ目が、土地の含み益です。昔から本社や工場を自社で持っている会社では、帳簿の金額と評価額が大きく食い違います。

数十年前に取得した土地が、帳簿では当時の金額のまま、評価では現在の価値で計算される。その差額がまるごと会社の価値に乗ってきます。通帳の残高は1円も増えていないのに、株価だけが上がっている。この状態が、赤字の年にも変わらず続くのです。

土地を売って現金化しない限り、この含み益は帳簿にも損益にも現れませんが、株価にはしっかり反映されます。ここでも、フローではなくストックが効いているわけです。

原因③:役員退職金をまだ出していない

三つ目は、これから起きる支出がまだ反映されていないことです。現経営者が長年働いてきた会社では、退任にあたって役員退職慰労金を支給するのが一般的で、その金額は数千万円から億単位になることもあります。

支給すればその年は大幅な赤字となり、純資産も一気に目減りします。ところが、まだ支給していない段階では、その将来の支出は株価に一切反映されていません。つまり退職金を出す前の株価は、いわば「これから起きる価値の目減りを織り込む前」の高い状態なのです。

順番を変えるだけで結果が変わる、というのがここでの要点です。退職金を支給してから株を渡すのか、渡してから支給するのか。同じ顔ぶれ、同じ会社でありながら、負担する税額は大きく違ってきます。

業績が好調なのに株価が低い会社もある?

あります。借入が大きい会社や、創業から日の浅い会社です。逆転は一方向だけではありません。

直近の業績株価が高い株価が低い
不振蓄積の厚い老舗(この記事のテーマ)渡しやすいが、会社の体力にも注意
好調通常のパターン設備投資で借入が大きい成長企業

業績と株価の関係を4象限で示すマトリクス図。業績不振でも株価が高い長年の蓄積型の老舗、業績好調でも株価が低い設備投資で借入の大きい成長企業など、業績と株価が連動しないことを表している。

近年に大きな設備投資をして借入が膨らんでいる会社は、売上も利益も伸びていますが、資産に対して負債が大きいため差し引きの純資産は薄くなります。創業から日の浅い会社も同様で、稼ぐ力はあっても蓄積がまだ薄い。こうした会社にとっては、今こそが株を渡す好機ということになります。

なぜこの逆転が承継の壁になるのか?

税負担と支払い能力がかみ合わないからです。株価が高ければ後継者が背負う贈与税や相続税も高くなります。ところが会社は赤字で、手元の現金にも余裕がない。後継者個人にも数千万円を用意できる蓄えはない。「税金は高いのに、払う原資がない」という板挟みが生まれます。

しかも自社株は、上場株のように売って現金に換えることができません。払えないから売る、という逃げ道がないのです。ここが、事業承継における最大の難所と言われる理由です。

業績が落ちた時期は、実は渡すチャンス?

そのとおりです。株価は蓄積を映すとはいえ、赤字が続けば純資産は少しずつ削られます。また、類似業種比準方式では利益や配当も計算に効いてきますから、業績の落ち込みは株価を押し下げる方向に働きます。株価が下がりやすいのは、次のような場面です。

  1. 景気後退や一時的な業績不振の年:利益の要素が下がる
  2. 大きな設備投資を行った直後:借入が増え、純資産が相対的に薄くなる
  3. 役員退職金を支給した年:純資産と利益の両方が下がる
  4. 配当を出した直後:純資産がその分減る

「調子が悪いときに承継の話などしたくない」と感じるのは自然ですが、税務の観点では逆です。評価が下がっている時期をとらえて株を動かす。これが、承継の設計における基本の考え方になります。そのためには、平時から自社の評価額を把握しておくことが欠かせません。

ただし、株価が安いことだけを理由に決めないでください。株価が下がっている局面は、会社の体力が落ちている局面でもあります。後継者に渡した直後に資金繰りが行き詰まれば、税負担が軽くても承継そのものが失敗します。事業の見通し、後継者の準備、納税資金の目処。この三つが揃ったうえで、評価の低い時期を選ぶ。順番を取り違えないことが大切です。

まとめ

  • 株価は今期の業績ではなく、創業以来の蓄積(ストック)を映す。
  • 主な原因は、内部留保・土地の含み益・未支給の役員退職金の三つ。
  • 堅実で無借金の優良企業ほど、株価が高くなりやすい。
  • 逆に、借入が大きい会社や若い会社は株価が低く、渡しやすい。
  • 業績が落ちた時期こそ、株を移す好機になり得る。

フローとストックの違い、内部留保が現金とは限らないこと、役員退職金が純資産と利益の両方に効くこと。いずれも中小企業診断士試験の「財務・会計」で問われる基本の考え方です。決算書を読む力が、そのまま承継の設計力につながる分野だといえます。

次回からは、その株価を実際に下げるための考え方に入ります。まずは「会社の価値÷株式数」という基本の発想から見ていきましょう。

よくある質問

赤字が続けば、いずれ自社株の株価は下がりますか?
下がりますが、時間がかかります。株価が映しているのは創業以来の蓄積であり、1年や2年の赤字で削れる額は限られるためです。30年で1億8,000万円ためた会社が年500万円の赤字を出しても、3年で1,500万円減るだけです。
役員退職金を支給すると、株価はどれくらい下がりますか?
金額によりますが、影響は小さくありません。支給額がそのまま純資産を減らし、その期は大幅な赤字になるため、類似業種比準方式の利益の要素も下がります。純資産と利益の両方に効くのが特徴です。
業績が悪い時期に株を渡すのは、社内や家族に説明しづらいのですが。
税務の観点では、評価が下がっている時期に動かすのが定石です。「調子が悪いから逃げる」のではなく「負担の軽い時期に次の体制を整える」という説明であれば、周囲の納得も得やすくなります。
株価が高いと分かったら、まず何をすればよいですか?
原因の切り分けが先です。内部留保・土地の含み益・未支給の役員退職金のどれが効いているかで、打てる手はまったく変わります。原因を特定してから税理士に相談すると、出てくる選択肢が変わります。

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