自社株の評価方法|純資産価額方式と類似業種比準方式の違いをやさしく解説
「うちの会社の株は、結局いくらなんですか」。後継者へ株式を渡す話になると、必ずこの疑問にぶつかります。ところが自社株には市場価格がなく、相続税・贈与税の計算では、まったく発想の違う二つの物差しが使われます。純資産価額方式と類似業種比準方式です。この記事では、二つの考え方の違い、金額に差が出る理由、そして株価が高いときにどこを見ればよいかまでを、現経営者と後継者に向けて解説します。
この記事でわかること
- 相続税・贈与税で自社株を評価する二つの方法が、それぞれ何を測っているのか
- 「儲かっていないのに株価だけが高い」という逆転が起きるしくみ
- 二つを組み合わせる併用方式と、会社の規模でその割合が変わること
- 株価が高いとき、原因がどこにあるのかを見極める手順
自社株の評価に、なぜ二つの計算方法があるのか?
後継者のように会社を支配する立場で株式を受け取る人は、原則的評価方式という方法で株価を計算します。その中身が、純資産価額方式と類似業種比準方式の二つです。前者は「会社が持っている財産」から、後者は「同業の上場企業との比較」から株価を導きます。
- 純資産価額方式:会社が持っている財産をもとに、1株あたりの価値を計算する方法
- 類似業種比準方式:同じ業種の上場企業の株価をもとに、自社の株価を推し量る方法
会社の規模などに応じて、どちらを使うか、あるいはどう組み合わせるかが決まります。

なぜ国は、二つも物差しを用意したのか?
一つの方法にまとめなかったのは、中小企業の実態が会社によって大きく違うからです。財産で測るのがふさわしい会社もあれば、稼ぐ力で測るのがふさわしい会社もあります。
小さな会社は、上場企業と比べようにも事業の性格が違いすぎます。こうした会社は「持っている財産がいくらか」で測るほうが実態に近いといえます。
一方、規模が大きく、従業員も多く、事業も安定している会社は、上場企業に近い性格を持ちます。それなら、同業の上場企業と比べて評価するほうが実態に合う。だから類似業種比準方式が使えるわけです。
つまり、会社の実態に近い物差しを当てるために、二つが用意されているのです。この発想は、企業価値評価の考え方そのものでもあります。会社の価値を測る方法には、財産に着目するもの、収益力に着目するもの、似た会社と比べるものがあり、相続税の評価は、そのうち財産に着目する方法と比較による方法を定型化したものだと理解すると、全体像がつかみやすくなります。
純資産価額方式とは? 会社をたたんだら、いくら残るか
純資産価額方式は、今この会社を解散して、財産をすべて処分し、借金を返したら、いくら残るかという発想の計算方法です。残った金額を株式数で割れば、1株あたりの価値が出ます。
たとえば、会社の資産を評価し直した合計が5億円、負債が2億円あるとします。差し引き3億円が株主に残り、発行済株式が1万株なら、単純計算で1株あたり3万円です。
分かりやすい考え方ですが、ここで使う資産の金額は、帳簿に載っている金額そのままではありません。相続税の評価ルールで測り直した金額を使います。ここに大きな落とし穴があります。
なぜ「儲かっていないのに株価が高い」が起きるのか?
長く続いた会社ほど、この方式で株価が跳ね上がることがあります。原因の多くは、帳簿の金額と相続税評価額とのズレ、いわゆる含み益です。通帳の残高は増えていないのに、計算上の会社の価値だけが膨らみます。
たとえば、40年前に3,000万円で買った本社の土地が、今は1億5,000万円と評価されたとします。帳簿上は3,000万円のままですから、この時点で1億2,000万円もの含み益が浮かび上がります。会社の預金が増えたわけでも、儲かったわけでもないのに、株価の計算上は会社の価値がそれだけ上乗せされるのです。「うちは無借金でこつこつやってきただけなのに、なぜこんなに株価が高いのか」という相談の多くは、ここに理由があります。
なお、相続や贈与の直前に不動産を買って株価を下げるといった動きを防ぐため、取得から3年以内の土地・建物は、路線価などではなく通常の取引価額で評価するという決まりがあります。「土地を買えば株価が下がる」と単純には言えない点に注意が必要です。
類似業種比準方式とは? 同業の上場企業と比べる
もう一つの類似業種比準方式は、まったく別の発想です。同じ業種の上場企業の株価を持ってきて、自社と比べるという方法です。自社だけを見ていては値段が分からないので、外にある「値段が分かっているもの」を基準にします。
いわば、不動産の相場を調べるときに、近所の似た物件の売買価格を参考にするのと同じ考え方です。国税庁が業種ごとに上場企業の平均的な株価や財務数値を公表しており、それを基準として使います。
比べる三つのものさし
では、何をもって「比べる」のでしょうか。使われるのは、次の三つの要素です。
| 比べる要素 | 何を見ているか | 承継での意味 |
|---|---|---|
| 配当 | 1株あたりどれだけ配当を出しているか | 株主への還元の水準 |
| 利益 | 1株あたりどれだけ利益を上げているか | 会社の稼ぐ力 |
| 純資産 | 1株あたりどれだけ資産を蓄えているか | これまでの蓄積 |

この三つについて、自社の数値が上場企業の平均と比べてどうかを計算し、その比率を基準の株価に掛け合わせます。さらに、上場企業と中小企業では信用力も換金しやすさも違うため、会社の規模に応じた割合を掛けて金額を引き下げる調整も行われます。
ここで重要なのは、利益と配当が計算に効いてくるという点です。純資産価額方式では見えなかった「稼ぐ力」や「株主への還元」が、株価に反映されるのです。
二つを組み合わせる「併用方式」とは?
実務では、どちらか一方だけを使うとは限りません。多くの中小企業では、二つを一定の割合で組み合わせる併用方式が使われます。組み合わせの割合は、会社の規模が大きいほど類似業種比準の比重が高くなります。
架空の会社で見てみましょう。純資産価額方式で計算すると1株12,000円、類似業種比準方式では1株5,000円と出たとします。この会社の比重が、類似業種比準6割・純資産価額4割だとすると、次のようになります。
| 方式 | 1株あたり | 比重 | 計算結果 |
|---|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 5,000円 | 0.6 | 3,000円 |
| 純資産価額方式 | 12,000円 | 0.4 | 4,800円 |
| 併用方式による株価 | 7,800円 |
同じ会社なのに、方式によって5,000円から12,000円まで開きが出ます。仮に後継者へ1万株を渡すなら5,000万円と1億2,000万円の差になり、贈与税や相続税の負担はまったく違うものになります。
どちらの方式が低く出るのか?
一般に、類似業種比準方式のほうが低く出やすい傾向があります。上場企業との規模の違いを踏まえた斟酌率による引き下げが入るためです。だからこそ、含み益を多く抱えた会社では、類似業種比準方式をどれだけ使えるかが株価を大きく左右します。
ただし「必ず低い」わけではありません。同業の上場企業と比べて利益や配当が高い会社では、逆に高く出ることもあるため、両方を試算して比べることが欠かせません。
また、資産の中身によっては、そもそも類似業種比準方式が使えなくなる場合があります。総資産に占める株式や土地の割合が一定以上の会社は、事業を営む会社というより資産を保有する会社に近いとみなされ、純資産価額方式による評価が原則となります。「本業とは関係のない不動産を会社で持ち続けている」という状態が、思わぬ形で株価に効いてくるのです。
株価が高いとき、どこを見ればよいか
「株価が高くて渡せない」と悩む会社は少なくありません。大切なのは、どこが効いて高くなっているのかを見極めることです。原因によって打つ手はまったく変わります。次の順で確認していきましょう。
- 両方式で試算する:純資産価額方式と類似業種比準方式の金額を出し、どちらがどれだけ高いかを把握する
- 含み益を洗い出す:土地や有価証券、保険積立金など、帳簿と評価額が大きく離れている資産を特定する
- 利益と配当の水準を見る:類似業種比準方式で高く出ているなら、直近の利益や配当が押し上げている可能性がある
- 会社規模の判定を確認する:従業員数や総資産、取引金額によって、使える方式の組み合わせが変わる
- 資産の構成を確認する:株式や土地の保有割合が高すぎて、純資産価額方式に縛られていないかを見る
この5つを押さえるだけで、税理士や専門家との打ち合わせの密度は大きく変わります。「株価を下げたい」と漠然と相談するのと、「含み益が原因だと分かっている」と相談するのとでは、出てくる選択肢が違うからです。
なお、株価の引き下げだけが答えではありません。事業承継税制を使って納税を猶予する、生前贈与を計画的に重ねる、後継者への集約を段階的に進めるなど、株価と向き合う道筋はいくつもあります。
まとめ
- 相続税・贈与税の原則的評価には、純資産価額方式と類似業種比準方式の二つがある。
- 純資産価額方式は、会社をたたんだら残る財産で測る。土地などの含み益で株価が跳ね上がりやすい。
- 類似業種比準方式は、同業の上場企業と配当・利益・純資産で比べて測る。稼ぐ力が株価に反映される。
- 多くの中小企業では、二つを組み合わせた併用方式で計算し、その比重は会社規模で決まる。
- 一般に類似業種比準のほうが低く出るため、どちらをどれだけ使えるかが株価を大きく左右する。
- 株価が高いときは、含み益・利益・会社規模・資産構成のどこが効いているかを切り分ける。
自社株の評価は、中小企業診断士試験でも「財務・会計」の企業価値評価、「経営法務」の事業承継として問われる分野です。財産で測るか、似た会社と比べて測るかという発想の違いを押さえておくと、税理士との会話も、事業承継の設計も、格段に進めやすくなります。
次回は、その使い分けを決める「会社規模の判定」を取り上げます。従業員数や総資産で株価が変わるしくみを見ていきましょう。
よくある質問
- 純資産価額方式と類似業種比準方式は、自分で有利なほうを選べますか?
- 原則として選べません。従業員数・総資産価額・取引金額による会社規模の判定で、どちらをどの割合で使うかが決まります。ただし小会社が純資産価額方式に代えて併用方式を選ぶなど、限られた範囲で選択が認められる場面はあります。
- 類似業種比準方式のほうが必ず株価は低くなりますか?
- 一般には低く出やすい傾向がありますが、必ずではありません。利益や配当が同業の上場企業と比べて高い会社では、類似業種比準方式のほうが高く出ることもあります。両方を試算して比べることが大切です。
- 会社で土地を持っていると、自社株の株価は必ず高くなりますか?
- 含み益がある土地を持っていれば、純資産価額方式では株価が上がりやすくなります。ただし含み益に対しては法人税相当額を差し引く調整があり、また取得から3年以内の土地・建物は通常の取引価額で評価するなど、扱いが異なる場合もあります。
- 後継者ではない少数株主が株式を受け取る場合も、同じ計算になりますか?
- いいえ。会社を支配する立場にない少数株主が受け取る場合は、配当還元方式という別の方法で評価され、一般に原則的評価方式よりかなり低い金額になります。同じ1株でも、誰が受け取るかで評価額は変わります。