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事業承継でまず押さえる「自社株」の基本|持株比率と議決権のしくみ

事業承継でまず押さえる「自社株」の基本|持株比率と議決権のしくみ

「会社を継ぐ・継がせる」と聞くと、社長の椅子や取引先との関係を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、事業承継で最初につまずきやすいのは、実は自社株(自社の株式)の扱いです。株式が誰の手にどれだけあるかによって、後継者が本当に会社を動かせるかどうかが決まります。この記事では、承継を考え始めた現経営者と後継者の双方に向けて、自社株の基本を整理します。

この記事でわかること

  • 事業承継の本丸が、肩書きではなく自社株の承継である理由
  • 株式がもつ二つの権利と、承継で問題になるのはどちらか
  • 持株比率で何ができるかの早見表と、「3分の2」「過半数」という二つの節目
  • 株式の分散が、放置するとなぜ加速度的に悪化するのか

そもそも「自社株」とは?

その会社が発行している株式のことです。株式は会社の所有権そのものであり、これが事業承継の本丸と呼ばれる理由です。中小企業では、社長個人やその家族が株式の大半を持っているケースがほとんどです。

社長という肩書きを引き継いでも、株式が先代や親族に散らばったままだと、後継者は重要な決定を自由に下せません。逆に言えば、株式さえきちんと後継者に集まっていれば、経営のかじ取りは格段にやりやすくなります。

つまり事業承継は、「肩書きの承継」と「株式(支配権)の承継」の二つをセットで進める必要がある、ということです。

自社株がもつ2つの権利とは?

株式は、大きく分けて2種類の権利を持っています。ここを押さえると、なぜ株式が重要なのかがすっきり理解できます。

  • 自益権(お金の権利):配当を受け取る、会社が解散したときに残った財産の分配を受けるなど、経済的な利益に関わる権利
  • 共益権(経営の権利):株主総会で議決権を行使する、会社の重要事項に賛成・反対するなど、経営に参加する権利

覚え方はシンプルで、自益権はお金、共益権は経営です。事業承継でとくに問題になるのは後者の共益権、なかでも議決権です。

持株比率で何が変わるのか?

株主総会の決議には、賛成を集める必要のある割合が決められています。持株比率(議決権ベース)ごとに、単独でできることの目安をまとめました。

持株比率(議決権)単独でできることの目安
3分の2以上(約66.7%〜)定款変更・事業譲渡・合併など「特別決議」を単独で通せる
過半数(50%超)役員の選任・解任など「普通決議」を単独で通せる
3分の1超(約33.4%〜)特別決議を単独で「阻止」できる(拒否権に近い)
3%以上帳簿の閲覧請求、株主総会の招集請求などができる
1%以上株主提案(議案を出す)ができる

持株比率と株主の権利を示すピラミッド図。上から順に、3分の2以上で特別決議を単独可決、過半数で役員の選解任を単独可決、3分の1超で特別決議を単独阻止、3%以上で帳簿閲覧・総会招集の請求、1%以上で株主提案ができる。

こうして並べると、「3分の2」と「過半数」という二つのラインがとくに重要だと分かります。なお3%や1%といった少数株主の権利には、保有期間などの条件が付く場合があります。

なぜ「3分の2」と「過半数」が重要なのか?

過半数は日常の経営体制を握るライン、3分の2は会社の根幹を動かせるラインだからです。

過半数(50%超)を持っていれば、役員を選んだり外したりする普通決議を単独で通せます。会社の日常的な経営体制は、これで握れます。さらに3分の2以上を持っていれば、定款の変更や会社の合併・事業の売却といった、会社の根幹に関わる決定まで単独で通せます。

逆に、後継者の持ち分が3分の1以下だと、反対する株主が3分の1超を握った時点で重要決定を止められてしまいます。後継者に、できれば3分の2、少なくとも過半数を集める。 これが自社株承継の基本方針です。

なぜ会社法は、決議の重さを分けているのか?

決定の重さと、株主が受ける影響の大きさを釣り合わせるためです。ここが分かると、比率の数字も丸暗記ではなく理屈で覚えられます。

役員を誰にするかは、経営の日常的な判断です。株主が出資したときの前提そのものは変わりません。だから過半数で足ります。

一方、定款を変えたり会社を合併させたりする決定は、株主が出資したときの前提を根本から変えてしまいます。「この事業に投資したはずが、まったく別の会社になっていた」ということが起こりうる。そこで会社法は、より広い合意を求めて3分の2以上というハードルを課しました。

そして3分の1超を持つ株主に阻止する力を与えたのは、多数派の暴走から少数株主を守るためです。多数決で会社を動かせるようにしつつ、根幹を変えるときには少数派にも歯止めをかけさせる。この釣り合いの取り方は、会社法全体を貫く考え方です。

株式が分散すると何が起きるのか?

後継者が重要な決定をするたびに、他の株主の協力が必要になります。 関係が良いうちは問題なくても、代替わりや相続をきっかけに意見が対立すると、会社の意思決定が止まってしまいます。

創業から時間が経った会社ほど、株式は少しずつ散らばりがちです。よくある原因は次のようなものです。

  • 相続のたびに、株式が複数の相続人へ分かれていった
  • 過去に役員や親族、取引先へ株式を分けて持たせた
  • 名義だけ他人になっている「名義株」が残っている

事業承継における株式の持ち方の対比図。左は「分散」で株式が後継者・親族・第三者・元役員に分かれ意思決定が止まる様子、右は「集約」で株式が後継者に集まり意思決定がスムーズになる様子を示す。

なぜ分散は、放置すると悪化するのか?

相続が起きるたびに、株主の数が増えていくからです。しかも一方通行で、自然に元へ戻ることはありません。

たとえば、いま少数株式を持つ高齢の親族が1人いるとします。その方に相続が起きて子3人が引き継げば、株主は1人から3人になります。次の代でさらに分かれれば、10人近くになることもあります。株主の数が増えるほど、全員と交渉して買い取るのは難しくなり、所在が分からない株主も出てきます。

つまり、分散対策は早いほど安く、遅いほど高くつくのです。株主が1人のうちに話をつけるのと、相続で3人に分かれてから交渉するのとでは、手間もコストもまったく違います。

承継を始める前に確認したい3つのこと

現経営者・後継者がまず取りかかるべき確認ポイントは、次の3つです。

  1. 株主名簿を最新にする:誰が何株持っているのかを正確に洗い出す。名義株の有無もここで確認する
  2. 議決権ベースの持株比率を計算する:後継者が、過半数・3分の2にどれだけ足りていないかを把握する
  3. 分散の「芽」を早めに見つける:高齢の少数株主や、疎遠になった親族が株式を持っていないか

株式を集めるには、どんな方法があるのか?

現状把握ができたら、次は集約の方法です。大きく次の3つのルートがあります。

買い取る主体特徴
会社が買い取る(自己株式)会社の資金で買い取る。分配可能額などの財源ルールに従う
後継者が買い取る後継者個人が買い取り、議決権を直接集める。買取資金の準備が要る
持株会社が買い取る持株会社を受け皿にして株式を集める。規模の大きいケース向き

どのルートが向くかは、会社の資金余力や後継者の状況によって変わります。それぞれ税務上の扱いも異なるため、専門家と一緒に選ぶのが安心です。

まとめ

  • 事業承継の本丸は、肩書きだけでなく自社株(支配権)の承継にある。
  • 株式には自益権(お金)と共益権(経営)の二つの権利があり、承継で重要なのは議決権。
  • 目標は後継者にできれば3分の2、少なくとも過半数を集めること。
  • 決議の重さが分かれているのは、決定の重さと株主が受ける影響を釣り合わせるため。
  • 分散は相続のたびに一方通行で進む。早く動くほど安く、遅いほど高くつく。
  • まずは株主名簿・持株比率・分散の芽の3点を確認するところから始める。

株主の権利の分類、決議要件、株主名簿の意義は、中小企業診断士試験の「経営法務」で最初に問われる基礎です。数字を丸暗記するのではなく、「なぜその重さなのか」という理屈で押さえておくと、実務での判断にもそのまま使えます。

自社株の集約は、時間をかけるほど選べる手段が増えます。「まだ先のこと」と思わず、現状把握から一歩を踏み出してみてください。

よくある質問

社長を交代すれば、会社を継いだことになりますか?
肩書きの承継だけでは不十分です。株式が先代や親族に散らばったままだと、後継者は重要な決定を自由に下せません。事業承継は「肩書きの承継」と「株式(支配権)の承継」の二つをセットで進める必要があります。
後継者には、何パーセント集めれば安心ですか?
できれば3分の2以上、少なくとも過半数です。過半数があれば役員の選解任などの普通決議を単独で通せ、3分の2以上あれば定款変更などの特別決議まで単独で通せます。3分の1超を反対派に握られると、重要な決定を止められます。
株主名簿が見当たりません。どうすればよいですか?
法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)や、過去の株主総会議事録、設立時の資料などから株主構成を復元していきます。会社は株主名簿を作成し備え置く義務があるため(会社法121条)、この機会に整備してください。
すでに分散してしまった株式は、今からでも集められますか?
集められます。会社が買い取る、後継者が買い取る、持株会社を受け皿にするなど複数の方法があります。ただし交渉が必要なため時間がかかります。株主が高齢の場合、次の相続でさらに分散するため、早く着手するほど選べる手段は多くなります。

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