中小企業の事業承継で「株式の問題」が必ず起きる理由|典型パターンと対処の入口
事業承継の相談を受けていると、業種や規模が違っても、必ずと言っていいほど同じ壁にぶつかります。それが自社株(自社の株式)の問題です。「株をどう後継者に渡すか」「株が分散して困っている」「株主総会をまとめられない」。こうした悩みは、たまたま起きるのではなく、中小企業の成り立ちから見て起きるべくして起きています。この記事では、現経営者と後継者の双方に向けて、なぜ株式の問題が必ず出るのかと、その入口の対処を整理します。
この記事でわかること
- 事業承継で株式の問題が「必ず」起きる、3つの構造的な原因
- 相続が起きたとき、株式がいったんどういう状態になるのか
- よくある悩み5パターンと、その根っこにある共通点
- 相談に行く前に、自分で揃えておける3つの資料
なぜ事業承継では「必ず」株式の問題が出るのか?
株式は会社の所有権そのものだからです。社長の座を引き継いでも、株が後継者の手に集まっていなければ、重要な決定を自由に下せません。
後継者を誰にするか、取引先とどう関係をつなぐか。承継にはさまざまなテーマがありますが、そのなかで最後まで残り、最も根が深いのが株式の問題です。だからこそ、承継の実務では株式の扱いが避けて通れないテーマになります。
株式の問題が起きる3つの構造的な原因
株式の問題は、次の3つの原因が重なって生まれます。

- 相続のたびに株式が分かれていく:先代・先々代の相続で、株式が複数の相続人へ少しずつ分散する。世代を重ねるほど株主の数は増える
- 過去の名残が残っている:かつて設立要件を満たすために親族や役員へ株を分けたり、名義だけ借りた名義株が、そのまま放置されている
- 現状を把握していない:「今、誰が何株持っているか」を正確に言える経営者は多くない
このどれもが、日々の経営では表面化しません。承継や相続という節目で初めて牙をむくのが厄介なところです。
なぜ相続で、株式は「必ず」分かれるのか?
民法が、相続人それぞれに相続分を認めているからです。遺言や生前贈与といった手当てをしていなければ、株式も他の財産と同じように相続人の間で分けられる対象になります。
会社を継ぐ長男に全株を集めたいと思っていても、何もしなければ他の相続人にも取り分があります。しかも株式は、預金のように簡単に分けられる財産ではありません。「会社を動かす力」と「財産としての価値」が一体になっているため、公平に分けようとすると経営が不安定になり、経営を優先すると他の相続人が納得しない。この板挟みが、承継における相続の難しさです。
株式が「共有」になると、どうなるのか?
相続が起きた瞬間から遺産分割が終わるまで、株式は相続人全員の準共有という状態になります。ここが実務でつまずきやすい点です。
共有状態の株式は、そのままでは議決権を行使できません。相続人の中から権利を行使する人を1人決めて、会社に通知する必要があります。この人選が相続人の間でまとまらないと、その株式の議決権が宙に浮き、株主総会が成立しなくなることさえあります。
先代が発行済株式の大半を持っていた会社で相続が起きると、この問題は一気に深刻になります。会社の意思決定が、遺産分割協議の進み具合に人質に取られてしまうのです。
よくある株式の悩み5パターン
実際の相談で出てくる悩みを整理すると、大きく次の5つに分かれます。
| 悩みのパターン | 何が問題か |
|---|---|
| 株を後継者にどう渡せばよいか | 贈与・相続・売買で税金や手続きが変わり、判断に迷う |
| 株が分散して集められない | 株主総会の重要決議に必要な賛成を集めにくい |
| 名義株が残っている | 名義人と実際の持ち主が食い違い、権利関係が不安定 |
| 疎遠な株主・問題株主がいる | 協力を得られず、意思決定が滞る恐れがある |
| 株価が高くて渡しにくい | 贈与税・相続税の負担が大きくなる |
これらは別々の問題に見えて、根っこは「株式が後継者に集まっていない」という一点でつながっています。
株式の問題を放置するとどうなるか

世代が変わるほど株主の数は増え、会社とのつながりが薄い株主も増えていきます。創業者が全株を持っていても、その相続で子3人に分かれ、さらに次の代でそれぞれの子へ分かれれば、2世代で株主は数人から十人規模に膨らみます。会ったこともない親戚が株主になっている、という状況も珍しくありません。
関係が良いうちは問題なくても、代替わりや相続をきっかけに意見が対立すると、会社の重要な決定が止まってしまうことがあります。株を買い戻そうにも、株主が増えてからでは交渉相手も増え、価格の折り合いも難しくなります。動くなら早いほど、選べる手段は多くなります。
なぜ日常の経営では表面化しないのか?
中小企業では、株主総会が形式的に済まされていることが多いからです。社長がすべてを決め、書類上だけ総会を開いたことにしている会社は珍しくありません。その状態では、株主が誰であろうと日々の経営に支障は出ません。
問題が見えるのは、株主の同意が実際に必要になったときです。事業承継、金融機関からの要請、M&A、組織再編。こうした場面で初めて「株主名簿を出してください」と言われ、そこで初めて自社の株主構成が分からないことに気づく。平時には見えず、いざというときに動けなくなる。これが株式問題の最も厄介な性質です。
まず何から手をつけるか
いきなり難しい対策に飛びつく必要はありません。最初の一歩は、現状を正確に知ることです。
- 株主名簿を最新にする:誰が何株持っているかを洗い出し、名義株の有無も確認する
- 議決権ベースの持株比率を出す:後継者が過半数・3分の2にどれだけ足りていないかを把握する
- 分散の「芽」を見つける:高齢の少数株主や疎遠な親族など、次の相続でさらに分散しそうな株を早めに把握する
相談する前に、これだけは揃えておく
専門家に相談するとき、次の資料があるかないかで、初回の打ち合わせの密度がまったく変わります。
| 資料 | どこにあるか | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 株主名簿 | 会社の本店 | 現在の株主構成 |
| 法人税申告書の別表二 | 顧問税理士 | 株主名簿がなくても株主構成を推定できる |
| 定款 | 本店・公証役場・司法書士 | 譲渡制限や機関設計の現状 |
| 過去の株主総会議事録 | 会社の保管書類 | 株式の異動の経緯 |
| 登記事項証明書 | 法務局 | 役員構成、発行済株式総数 |
まとめ
- 中小企業の承継で株式の問題が必ず起きるのは、相続による分散・過去の名残・現状の未把握という構造があるから。
- 相続が起きると、株式は遺産分割まで準共有になり、権利行使者を決めないと議決権を行使できない。
- よくある悩みは5パターンあるが、根っこは「株式が後継者に集まっていない」の一点。
- 放置するほど株主は増え、解決は難しくなる。動くなら早いほうが有利。
- 最初の一歩は、株主名簿・別表二・定款を揃えて現状を把握すること。
株式の共有と権利行使者の指定、法定相続分と遺言の関係は、中小企業診断士試験の「経営法務」で会社法と民法をまたいで問われる論点です。相続は必ず起きるのに、株式は分けにくい。この構造を理解しておくことが、承継の設計の出発点になります。
株式の問題は、正体が見えれば怖くありません。まずは自社の株が今どうなっているかを確かめるところから始めてください。
よくある質問
- 相続人が複数いる場合、株式は自動的に人数分に分かれるのですか?
- 自動的には分かれません。遺産分割が終わるまで、株式は相続人全員の準共有という状態になります。この間は権利行使者を1人決めて会社に通知しなければ議決権を行使できず(会社法106条)、相続人の意見が割れると株主総会が開けなくなることもあります。
- 相続で株式が分かれるのを防ぐ方法はありますか?
- あります。生前贈与で先に後継者へ渡す、遺言で承継先を指定する、定款に相続人等に対する売渡請求を定めておく、種類株式を使うなど複数の手があります。いずれも生前でなければ打てない手なので、早めの検討が必要です。
- 株主名簿がない会社は違法ですか?
- 会社法121条は株主名簿の作成を義務づけているため、ないままの状態は望ましくありません。ただし実際には作られていない中小企業も多くあります。法人税申告書の別表二や過去の議事録から復元し、この機会に整備してください。
- 少数株主が1人いるだけでも問題になりますか?
- 持株比率と関係性によります。3分の1超を持たれると特別決議を止められますし、3%以上なら帳簿の閲覧を請求できます。数パーセントでも、次の相続でさらに分かれることを考えると、関係が良いうちに手を打つ価値はあります。