継ぐことと続けることは別物〜銭湯11軒を継いで見えた事業承継の分かれ目【前編】|ゆとなみ社
継ぐのは、契約を交わせば済む。しかし続けられるかどうかは、まったく別の話だ。24歳で京都の銭湯「サウナの梅湯」を引き継ぎ、10年で11軒を「継業」してきた株式会社ゆとなみ社代表・湊三次郎氏。事業を引き受ける側の条件を、現場の内側から聞いた。
まず、湊様にとって銭湯を継ぐとは、何を継ぐことなのか教えてください。
これまで何十年と続いてきた流れを、うまく次につなぐことです。建物や設備を引き受けているという感覚ではありません。
銭湯というのは、代々やってきて三代目、四代目まで来ているところがある。浅くない、100年近く続いている銭湯があって、そこにはご家族の思いだったり、地域の方がずっと使ってきたという事実があります。それを引き継ぐわけです。
うちのこだわりで言うと、屋号はそのまま引き継いでいます。地域の人にずっと馴染みがあるものなので、変えずにそのまま使う。もちろん、がらっと変えてやっているお店もありますし、変えられるところは実際多いんですけどね。
もう一つ、変えないものがあります。銭湯というのは、そもそもビジネスをやっているという感覚があまりないんです。ビジネスに寄せていくと、接客が人間味のないものになってしまう。チェーン店みたいにはしたくない。町に溶け込んだような空気感、それに合った接客というものがあって、そこはなるべく消えないように意識してやっています。
「継ぐこと」と「続けること」は、どう違うのですか。
まったくの別物です。継ぐこと自体は、言ってしまえば最初に契約を結ぶかどうかという話でしかない。その中で何を大切にして続けられるかで、本当に継いだのかどうかが言えるのだと思っています。
続けることは、継ぐかどうかに関係なく難しい。商売を始めて続けること自体が難しいわけです。逆に、継ぐメリットも多いとは思いますよ。ゼロから立ち上げるより、続ける上では有利な部分がある。
ただ、そもそも別の人がずっとやってきたものだからこそ、少し重荷になることもあります。その流れの中で常連さんを大事にしなければいけないとか。そういうところは、続けるうえで大変ですね。
3年できればいいと思って始められたそうですね。何が湊様を続けさせたのでしょうか。
本当に気合だけです。ただそれに伴って、利益がちゃんと出るようになったことも大きい。そうならなかったら、やっぱり続けられない。
正直、自分自身が最初に始めたときは、3年くらいとりあえずできればいいくらいに思っていました。そこから変わったのはこの売り上げがあればいけると思えたときです。お客さんから喜ばれるとか、こういうメディアで取り上げられるとか、そういうことはたくさんあった。
でも、それよりも通帳残高にどれだけ残るかというのも本音では大きかった。応援されるだけでは続けられないんですよ。
銭湯という業態の性質上、ビジネスの顔をあまり前に出したくはありません。それでもやっているのは商売であって、ボランティアではない。そこは無視できないところです。
利益が出るようになると、モチベーションが上がります。逆に出なければ、どれだけ意義のある仕事でもモチベーションは上がらない。気合で乗り切れる期間には限りがあって、その期間のうちに数字を作れるかどうかが、続くかどうかの分かれ目になります。
梅湯の成功は特殊例ではない、と確信したのはいつですか。

2、3、4号店をほぼ一気に開いて、それをマネジメントし始めたときです。決め手は、それぞれの店に人が集まってくれたことでした。
梅湯はやはり運営が特殊な扱われ方を最初からしていたので、これが横展開できるかどうかは自分でもわからなかった。ところが新しく開けた店に、どこも一応、そこをマネジメントしてくれる人が集まってくれた。銭湯にすごく興味を持っていて、自分たちの銭湯を守っていきたいという、当時20代の人たちがいたんです。それが一番大きかった。
店長を任せてスタッフを置き、自分は複数店舗の運営を見る側に回ってみて、それでもじわじわと集客は伸びていった。人が集まる。お客さんもそうだし、一緒に運営してくれる人たちも集まる。これなら展開できると思いました。
売上についても、日々コツコツ清掃してやっていることで次第に上がるんだと、そこではっきりわかりました。これは今でも通用します。だいたいどこの銭湯も、引き継いでしっかりやればお客様は増える。立地やハードの内容は必要ですけどね。
というのも、これまで家族経営で高齢の方がやっていて、行き届いていなかった。それだけの話なんです。みんなが来ない場所なのかというと、まったくそうではない。実際、一部の銭湯にはすごく若い人たちも集まっていて、需要はある。それに対して銭湯の側がちゃんとアプローチできていなかっただけです。
これはうちに限った話でもありません。弊社以外でも、継業した銭湯はだいたいうまくいっている。少なくとも集客面に関しては、そう言えます。だから、ちゃんと継げば増やせるという自信はすごくあります。
24歳で梅湯を継いだ当時に戻れるとしたら、何を変えたいと思われますか。
言うことなしですね。当時はそういう苦しみも味わいつつ、楽しめていたと思うので。あれがなかったら、多分今のように展開できていません。
最初にあれだけぶつかっておいたのが良かった。今後どこかの店舗で起こりうるような問題を、もう最初に全部ぶつけて、ぶつかった。しかもそうなるだろうと分かったうえで梅湯を始めているので、本当に良かったんじゃないかと思います。
強いて言えば、健康には気をつけろ、くらいでしょうか。若さでなんとかやれてしまって、そこで体調を崩した。自分はこれ以上は頑張れないんだな、というところが分かった。もし今、仕事がたくさん入ってきているなかで、それが分からないままバッと突っ走っていたら、本当に死ぬなと思うんです。若いうちにちょっと無理しておいてよかったな、という感覚です。
承継する銭湯を、どのような判断基準で選んでいるのですか。

オーナーとの相性です。人として、バイブスが合うかどうか。ビジネス的に美味しいからという理由では、うちはやりません。
今お付き合いしているオーナーの方々は、だいたいが同じ方向を向いています。自分たちではもう銭湯を残していけない、けれど残したい。その気持ちに対して、我々が絶対に応えたいと思えるかどうか。そこでやれるかどうかです。
この人がずっとやってきた商売が途絶えてしまうのは惜しい、できれば残していきたい。そうおっしゃっているのなら、我々がやることにすごく意義があると感じる。逆に、ビジネス的にうまくいくだろうという話は、別にうちでやらなくてもいいじゃないかと思うんです。
その人とその事業者の思いを、自分たちの力で次に続けられるか。そこはかなり大切にしています。
11軒やってきて、オーナーとの間で歩幅が合わなかったということは、あまりないですね。合わない場合は、契約前の段階、賃料や条件の話をするところで分かるので、そこで別れる。うちが継いで残っていくことに対してすごく喜んで、感謝してくださる方と組んでいるので、ミスマッチは起きにくい。最初の段階で、美味しいからという理由で選んでいないからだと思います。
逆に言えば、条件交渉の段階で折り合わない相手とは、無理に進めないほうがいい。そこで見えている温度差は、引き継いだ後に消えるものではないからです。
引き継ぐ前に、オーナーへ必ず伝えていることを教えてください。
これまで通りにはやれない部分がある、ということです。そこを最初に説明して、了承していただいてから引き受けます。
具体的には、常連さんであっても我々の判断で難しい方はお断りする場合があります、ということをご了承くださいと伝えます。そのうえで、めちゃくちゃにがらっと変えるようなこともしませんと。
そうすると、そうだよねと信頼していただける。だから引き継いだ後は、結構お任せしていただいています。最初の段階で認識をすり合わせているので、あとからごちゃごちゃ言われることがないんです。
継ぐ側からすると、ここを曖昧にしたまま引き受けたくなる気持ちは分かります。でも、言いにくいことを先に言っておかないと、後で必ず揉める。承継の交渉というのは、条件の話をする場であると同時に、お互いが何を譲れないかを確認する場でもあると思っています。
これから事業を引き受けようとする人には、どのようなマインドが必要でしょうか。

気合を入れてやるしかない、という一点です。継ぐというのは、そもそも一番ハードな選択肢だと思っています。
固定給をもらって暮らしたいのであれば、公務員になればいい。継ぐというのは、どうなるか分からない人生を選ぶことです。いろいろな苦労があるだろうし、大変です。
だから、その大変さ自体を楽しめるようなマインドでないと、なかなか事業承継は難しい。苦難も、難しいことも楽しめる。そう割り切らないと前に進まないと思います。
感覚としては、バンドマンや芸人になるくらいの覚悟に近い。これで本当に食っていくぞ、という道です。うまくいかないことも多いとは思いますが、その覚悟があるかどうか。そこに尽きると思っています。
その覚悟がないまま、やりたいという気持ちだけで引き受けてしまうと、本人も苦しいし、託した側にも申し訳ないことになる。だからこそ、入口のところで自分に問うておいたほうがいい。
よくある質問
- 継業(けいぎょう)とは何ですか?
- 親族外の第三者が、既存の店や事業を引き継いで続けることです。M&Aのように企業の株式や資産をまとめて取得するのではなく、営業権や設備の使用権を引き受けて、屋号や顧客との関係ごと事業を継続する形が多く、銭湯や商店、宿など地域に根ざした小規模事業でよく用いられます。
- 事業を継ぐことと、続けることは何が違うのですか?
- 湊氏は「まったくの別物」と語ります。継ぐこと自体は最初に契約を結ぶかどうかという話でしかなく、その中で何を大切にして続けられるかで、本当に継いだのかどうかが決まるという考え方です。
- 承継する事業は、どのような基準で選んでいるのですか?
- ゆとなみ社が最も重視しているのはオーナーとの相性です。「ビジネス的に美味しいから」という理由では引き受けません。自分たちではもう残していけないが残したい、というオーナーの気持ちに応えたいと思えるかどうかで判断しています。
- 引き継ぐ前に、オーナーへ何を伝えるべきですか?
- 「これまで通りにはやれない部分がある」という点です。ゆとなみ社では、常連客であっても運営側の判断でお断りする場合があることを事前に説明し、了承を得てから引き受けます。言いにくいことを先に伝えておかないと、引き継いだ後に必ず揉めるためです。
- 事業を引き受ける側に必要なマインドは何ですか?
- 湊氏は「継ぐことはそもそも一番ハードな選択肢」だとしたうえで、その大変さ自体を楽しめるマインドが必要だと語ります。固定給を得たいなら別の道があり、継ぐとはどうなるか分からない人生を選ぶことだという整理です。
湊 三次郎 Sanjiro Minato
1990年、静岡県浜松市生まれ。大学進学を機に京都で暮らし始め、在学中に銭湯サークルを立ち上げて約700軒の銭湯を巡る。学生時代にアルバイトをしていた京都・下京区の銭湯が廃業すると聞き、勤務していたアパレル会社を退職。2015年5月、24歳で「サウナの梅湯」を継承する。以後、源湯(京都)、容輝湯(滋賀)、人参湯(愛知)、みやの湯(大阪)、一乃湯(三重)、鴨川湯(京都)、湊河湯(兵庫)、パール温泉・扇温泉(大阪)を承継し、直営10店舗を運営。2021年に株式会社ゆとなみ社を設立。「銭湯を日本から消さない」を掲げ、銭湯の継業・運営のほか、アパレル、広告、設備の各事業を手がける。