インタビュー

後継者不在の中小企業に、経営者と資金をセットで届ける〜サーチファンドという挑戦【前編】|ロケットスター

後継者不在の中小企業に、経営者と資金をセットで届ける〜サーチファンドという挑戦【前編】|ロケットスター

後継者不在は、いまや日本の中小企業の約6割が抱える課題です。株式会社ロケットスター代表取締役社長の荻原猛さんは、ソウルドアウト株式会社を創業して東証プライムへの上場・売却まで経験したのち、3度目の起業として「サーチファンド」に挑んでいます。後継者のいない会社へ、志ある次の経営者と資金をセットで届ける——。前編では、事業承継を考えるオーナーに向けて、後継者問題の実態と、荻原さんが中小企業支援に人生をかける原点を伺いました。

まず、自己紹介をお願いします。

株式会社ロケットスターの代表取締役社長の荻原猛です。1973年生まれ、栃木県宇都宮市出身。大学卒業後に起業するも失敗。2000年オプト入社しデジタルマーケティングを学び、2009年にソウルドアウト株式会社を創業しました。東証プライムへの上場を経て、2022年に博報堂DYホールディングスへ約200億円で譲渡しました。自ら会社を作り、上場させ、売却まで経験した経営者として、今度は事業承継という形で中小企業の経営に向き合っています。ロケットスターは50歳での3度目の起業です。

ロケットスターは、中小企業の経営グロース支援に強みを持つ投資会社です。マイクロキャップ領域の事業承継に特化したサーチファンドを運営しています。後継者不在で困っている中小企業に、志ある次の経営者と資金をセットで届けるモデルです。すでに1号ファンド(18億円)で5社の承継を完了し、全社で業績が成長しています。

振り返ってみると、ソウルドアウトの創業から一貫して、中小企業の成長を支えることが自分の仕事の核心にありました。手段は変わりましたが、「中小企業が咲き誇る国へ」という想いはずっと変わっていません。中小企業支援は、私にとって人生のテーマです。

後継者問題は今、実際どれほど深刻なのでしょうか。現場を見てきた荻原さんの実感を教えてください。

インタビューに答える株式会社ロケットスター代表取締役社長の荻原猛さん

数字から見ると、経営者の平均年齢は60.7歳(2024年)に達しており、60歳以上の経営者が全体の過半数を占めています。そして今なお2社に1社が後継者不在という状況です(帝国データバンク2025年)。2025年1月から10月だけで後継者難による倒産が425件発生しており、このうち約4割は後継者の選定が間に合わないまま代表者が活動できなくなる「不測の事態」型です。準備ができていない状態で経営者が倒れた途端、会社が立ち行かなくなる。その現実が毎年起きています。

もう一つ、時代の変化として注目しているデータがあります。2024年、内部昇格による承継が36.4%となり、初めて同族承継を上回りました。「子どもに継がせる」という前提が崩れ、社員や外部の人材に託す流れが加速しています。これはサーチファンドという仕組みへの追い風でもあります。

私がソウルドアウト時代に全国13拠点で見てきたのは、この数字の裏側にある現場の実態です。後継者問題を抱えた瞬間から、オーナーが積極投資に踏み出せなくなる。設備投資を控え、採用を絞り、新しい取引に踏み込まない。「自分の代で終わりかもしれない」という気持ちが、じわじわと会社の体力を奪っていく。数字以上に、その勿体なさが深刻だと感じています。

なぜ上場企業の創業者でありながら、中小企業の事業承継に人生をかけているのか。その原点を聞かせてください。

原点は10歳のときの体験です。父の会社が倒産しました。あの日から「将来は経営者になる」と心に誓いました。中小企業の経営がどれほど重く、どれほど尊いものかは、子供の頃から骨身にしみています。

大学卒業後に大阪で起業しましたが、経営の未熟さから失敗して借金を背負いました。その後2000年にオプトに入社し、2009年に36歳でソウルドアウトを創業しました。ソウルドアウトで掲げたミッションは「中小・ベンチャー企業が咲き誇る国へ」。そして孤独な戦いをしている社長に寄り添いたいという想いから「ともに覚悟する。ともに挑む。」というコンセプトで事業展開してきました。創業当初から、外からのコンサルティングだけではなく、ハンズオン型のVCのように株式出資して資本に参画し、経営そのものに踏み込んでいきたいという構想がありました。そのため成長戦略として金融業への進出も視野に入れていましたが、パンデミックの時期とも重なってしまい、当時は実現できませんでした。

ただ、金融と経営を結びつけたいという想いはずっと持ち続けていました。だからこそ、サーチファンドという仕組みに出会ったとき、これは運命だと感じました。資本が現場に入り、経営者の覚悟と結びつく構造。中小企業支援、起業家の増加、事業承継、地方創生、販売力強化、すべてが私の中で1本の太い線でつながっていた。ロケットスターの設立は、自分の過去と未来が一致した必然の選択でした。

サーチファンドとはどんな仕組みで、ロケットスターにはどんな特徴があるのですか。一般的な事業承継の支援とは何が違うのでしょうか。

サーチファンドの仕組みについて語る荻原猛さん

サーチファンドとは、投資家から資金を集め、志ある個人経営者が中小企業を承継して社長として経営し、企業価値を高めたうえで売却するファンドの形態です。1984年にスタンフォード大学で生まれ、米国では30年以上の実績があります。日本ではまだ歴史は浅いですが、後継者問題の深刻化を背景に急速に注目が高まっています。

最も大切にしているのは、承継した後に「誰が経営を担うのか」という部分です。私たちは承継起業家、つまり次の経営者を事前に決めたうえでオーナーに向き合います。承継した後の社長の顔が、最初から見えている。オーナーからすると、自分が育ててきた会社を誰に社長として任せるのかが明確にわかる。次の経営者の顔が最初から見えている点が、私たちの特徴です。そして承継起業家はすでに経営の修羅場を潜り抜けてきた実力者たちです。私たちはその方々と向き合い、この会社とこの人が合うかどうかを真剣に見極めます。

一言で言えば、「二重の目利きで選び、事業力で育てる」。これがロケットスターの投資哲学です。ロケットスターが最も重きを置いているのは、承継後の経営グロースです。特徴をもう少し具体的に言うと、一つは販売力強化を実現するデジタルマーケティングの深い知見、もう一つはAI活用を核にした経営改善のプレイブックを持っていることです。加えて500名超との面談を経て選び抜いた承継起業家が、常に次の承継に向けて待機している状態にあることです。コンペになっても選ばれ続けているのは、承継した後の経営者の顔と覚悟が伝わること、そして彼らの知見や提案に納得感があるからだと思っています。もちろん我々ロケットスターのメンバーも経営に携わり、新社長と一緒に成長を実現させていきます。単なる買い手ではなく、経営の継承者として認識していただけることが、私たちの最大の強みです。

承継後、実際に会社はどう変わりましたか。社長が交代することへの不安を持つオーナーに、具体的に教えてください。

1号ファンドでは5社を承継しましたが、全件ノーライトオフ、つまり一社も損失がない状態で、全社において売上・利益ともに成長しています。中小企業の価値向上において最も大切なのはトップラインを動かすことです。販売力の強化によって売上を伸ばすというモデルを、5社で実証することができました。つまり販売力強化というのは、営業やマーケティングの強化はもちろん、それをやるための人材採用、商品・サービス開発、アライアンスなども含めたものを指します。

具体的な例を一つ挙げると、承継起業家の飯島さんが社長を務める会社では、新サービスを立ち上げ、BtoBマーケティングの仕組みを新たに構築しました。直接クライアントへ営業し、投資直後から複数社の発注が入り業績が大きく伸びました。また北方さんが社長を務めるキャセリーニでは、ECの改革を進め、社長の知見を活かした商品開発も動き始め、EC売上が既に伸び始めています。社長が現場に出てハンズオンで動くと、事業改善のスピードが驚くほど上がります。

「社長が変わって、会社の文化や取引先との関係は大丈夫か」という不安は、多くのオーナーが持つ自然な感情だと思います。オーナーから経営を受け継いだ承継起業家は、オーナーが築いてきたものへの敬意を持って現場に入ることを、選定の前提条件にしています。加えて、ソーシングからDD、PMI、承継後の数字管理まで、AIを一気通貫で活用することで、属人的にならず再現性のある経営改善を実行できる体制を整えています。オーナーが育ててきた会社を、次の世代でさらに強くする。それが私たちの仕事です。

「会社を売ること」に罪悪感や後ろめたさを感じているオーナーに、どんな言葉をかけますか。

なるほど、その気持ちはメチャクチャわかります。私自身、ソウルドアウトを退任したとき、社員の皆さんに対してどこか申し訳ないという気持ちがありました。自分が作った会社を、自分がいなくなる。簡単に割り切れるものではありませんでした。でも振り返ってみると、その申し訳なさや後ろめたさは、会社のことを真剣に、大切に考え続けてきた証拠でもあると思うのです。無責任な人間には、そんな気持ちは生まれない。だからこそ私は、その感情を軽く見ることは絶対にしません。同じ経験をした人間として、その重さはわかっているつもりです。

一つ、こんな風に考えてみてほしいのです。経営は、一人でゴールを目指すマラソンではなく、タスキを繋ぐ駅伝かもしれない。オーナーが全力で走り切った区間があって、次の走者にタスキを渡すことで、ゴールまでのスピードはむしろ速くなる。タスキを渡すことは、レースを諦めることではありません。会社という物語を、次の章へと続けることです。オーナーが走った区間があったからこそ、次の走者が走り出せる。その誇りは、何も変わらないはずです。

経営とは、誰かに選んでもらうものではなく、自ら選び取るものです。次の経営者にタスキを渡すという決断もまた、オーナー自身が自ら選び取る、最後の、そして最も尊い経営判断だと思っています。

荻原 猛のプロフィール写真
プロフィール

荻原 猛

ロケットスター 代表取締役社長

1973年、栃木県宇都宮市生まれ。大学卒業後に起業するも失敗を経験し、2000年に株式会社オプトへ入社してデジタルマーケティングを学ぶ。2009年にソウルドアウト株式会社を創業し、東証プライム市場への上場を経て、2022年に博報堂DYホールディングスへ譲渡した。自ら会社を創業・上場・売却まで手がけた経営者として、2023年に3度目の起業となる株式会社ロケットスターを設立。後継者不在に悩む中小企業へ、志ある次の経営者と資金をセットで届けるサーチファンドを運営している。

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