町の電気屋として独立し、65年続く旅館を承継。北海道・白老で挑む地域の担い手|こんのでんき
北海道白老町で「町の電気屋さん」として歩む合同会社こんのでんき。代表の金野大輔氏は、16年勤めた会社を経て2022年に独立し、2025年には地域で65年続く旅館の承継にも踏み切りました。電気工事の技術を活かして旅館を支えながら、外部パートナーとともに新しい使い方も模索しています。独立と承継の経緯、そして地域とともに歩む経営観について、お話を伺いました。
まず、金野さんのご経歴と、独立の背景を教えてください。
独立する前は、16年ほど勤めた会社で店長をしていました。その会社がM&Aで、より規模の大きなところに買収されることになったんです。
実はそれ以前から、会社には「いずれ独立したい」という話はしていました。当時の社長が「独立するならこういう形がいい」「お金のことが一番大変だ」とアドバイスをくれていたんです。
事業承継の後は、「自分の希望を受け入れてもらえるなら残りますが、そうでなければ辞めます」という条件を伝えて、継続雇用となりました。しかし、自身の今後のキャリアや待遇に関する要望が通らなかったことを機に、独立することになりました。2022年4月のことです。
「町の電気屋さん」として、どのような思いで事業をされているのですか。
やっていること自体はいろいろありますが、位置づけとしては「町の電気屋さん」です。自分のミッションは、お客さんの困りごとを解決すること。電気屋という仕事は、お客さんに細やかに寄り添って、フォローアップができる仕事だと思っています。
白老町も高齢化が進んでいますから、こうした困りごとに応える需要はあるはずだと考えて、独立に踏み切りました。
2025年には、65年続く旅館の承継にも踏み切られました。どのような経緯だったのでしょうか。
その旅館とは、前職の頃から仕事で細々と関わりがありました。エアコンの取り付けなどで出入りしていたんです。
きっかけは偶然でした。飲み屋のママさんから「あそこを売るらしい」という話を耳にしたんです。つい2〜3日前に仕事で伺ったばかりで、そんな素振りはまったくなかった。それが、売りに出されているというんです。
旅館をやめて、建物を売ってしまうという話でした。そうなると、地域に長く愛されてきた宿がなくなってしまう。それなら、知らないところに買われるよりは自分が引き受けようと、名乗りを上げました。

承継を決めてから、どのように進めたのですか。
地域に必要な施設だと考え、商工会や金融機関に相談しながら短期間で意思決定しました。そこから、中小企業向けの相談先である商工会に相談して、承継の流れについてアドバイスをもらい、1か月ほどかけて進めました。
譲り受けたというより、建物を売買する形だったので、融資が下りるかどうかという問題がありましたが、事業として成立する可能性を検討したうえで、金融機関からも評価をいただきました。
正直に言うと、投資額に対して回収していくのは簡単なことではありません。売上高はそれなりにありますが、承継したのが、ちょうど閑散期に差しかかる時期で、しかも暖房費など光熱費が一年で最も膨らむタイミングでもありました。ですから、最初はハラハラしながらやっていました。
それでも今は、売上が少しずつ伸びてきています。いろいろと仕掛けてみて、大きな反響とまではいかなくても反応はあるので、良い方向に向かっていると信じたいですね。
電気事業と旅館には、どのような相乗効果がありますか。
「相乗効果」と呼べるかはわかりませんが、旅館の設備で古くなって傷んでいる部分の改修工事を、ほぼ原価でできるという利点はあります。
たとえば、近年は暑い日が増えてきて、冷房がないと泊まってもらいにくくなっています。電気屋ですからエアコンの設置は自分でできる。本来なら相応の設備投資が必要なところを、自社施工で費用を抑えて、スピード感を持って導入できました。床のリフォームやフロアの張り替えもそうです。玄関周りが暗いと言われていたところには照明を足して、高級旅館とまではいかなくても、それに近い雰囲気にすることができました。
それから、何かトラブルがあっても、宿泊者の方を困らせることなくすぐ対応できる。これは町の電気屋ならではの対応の早さで、安心して泊まっていただけることにつながると思っています。
加えて、外部パートナーからの提案もあり、地域住民と旅行者が交流できるコワーキングスペースを設置しました。地域の人と旅に来た人の接点を作り、町の人にも旅館を身近に使ってもらうことで、相乗効果が生まれればと考えています。

白老町の魅力について教えてください。
食材が豊富なところは、白老の魅力の一つです。ブランド牛の白老牛は人気が高まっていますし、虎杖浜のタラコも知られています。一部の地域では蛇口をひねると温泉が出る場所もあるんですよ。海、山、川、沼と自然が豊かで、時には熊や鹿、リスが姿を見せることもあります。
2020年には国立アイヌ民族博物館(ウポポイ)ができて、それを目当てに来られる方も増えています。新千歳空港から40分ほどで、隣には登別温泉もある。観光地としても魅力のある場所だと思います。
暮らしと観光のどちらにも貢献できる事業を、焦らず一つひとつ育てていきたい。そうして、白老町に必要とされる会社になっていければと思っています。

金野 大輔 Konno Daisuke
北海道白老町を拠点に「町の電気屋さん」として歩む合同会社こんのでんき代表。16年勤めた電気店で店長を務めたのち、勤務先のM&Aを機に2022年4月に独立。地域の困りごとに細やかに応える事業を続けるなか、2025年には地域で65年続く旅館「おぎた」を第三者承継した。電気工事の技術を活かした自社施工で設備を刷新し、地域住民と旅行者が交流できるコワーキングスペースも設置するなど、暮らしと観光の両面から白老町に必要とされる事業を育てている。