26歳起業家、北海道発の事業承継ベンチャーの挑戦|クリエイピア株式会社
北海道を拠点に、小規模事業者のM&A・事業承継・事業再生に取り組むクリエイピア株式会社。代表取締役の藤井優さんは、ゲームクリエイター、MIXIでのエンジニア・CVC業務を経て、地元北海道で挑戦できる雇用を生み出すために起業した。 第一号案件として札幌市東区のパソコン教室を承継し、設備・集客・カリキュラムを刷新。赤字や後継者不足に悩む地方事業を、再び成長の場へ変える挑戦について伺った。
まず、藤井さんご自身のこれまでの歩みについて教えてください。
私は1999年生まれで、北海道江別市で生まれ育ちました。高校卒業まで北海道で過ごし、大学進学を機に東京へ出ました。大学在学中には、個人事業としてゲーム開発を始め、企画から開発、販売までを一人で行っていました。自分で予算を決め、作品を作り、販売までやり切る経験をしたことで、単にゲームを作るだけではなく、事業全体を動かすことに面白さを感じるようになりました。
その後、新卒でMIXIに入社し、最初の1年間はゲームプログラマーとして海外向けゲームの開発に携わりました。ただ、会社の中でエンジニアとして働く中で、自分が本当に好きなのは「ゲームを作ること」だけではなく、「裁量を持って事業をつくること」なのではないかと感じるようになりました。
そこで2年目からはCVC部門に移り、スタートアップ投資や投資先の支援に関わるようになりました。起業家や事業と向き合う中で、自分自身も投資する側ではなく、事業を動かす側に立ちたいという思いが強くなり、独立を考えるようになりました。
CVCでの経験から、なぜ事業承継という領域にたどり着いたのでしょうか。
CVCでは、これから10倍、100倍に伸びるかもしれないスタートアップに投資する世界を見ていました。ただ、自分の中では、まだ実体が定まっていないものに大きなお金を投じることに、どこか腑に落ちない感覚がありました。
一方で、世の中にはすでにお客さんがいて、地域に根づいていて、一定の価値があるにもかかわらず、赤字や後継者不足を理由に評価されない事業がたくさんあります。そうした事業は、見方を変えれば、すでにPMFしている状態に近いとも言えます。ゼロから新規事業を立ち上げるよりも、すでに存在する事業を引き継ぎ、再生する方が、自分の経験や強みを活かせるのではないかと考えました。
実際、独立前には自分でもいくつか新規事業に挑戦しました。クリエイターとファンをつなぐプラットフォームや、古物商、EC事業など、さまざまな事業を模索しました。しかし、ゲーム事業ではうまくいった一方で、他の新規事業は思うように伸びませんでした。その経験から、ゼロからPMFさせる難しさを強く実感しました。
そこに、CVCで見てきた事業再生や経営改善の経験が重なりました。赤字でも、課題を見極めて改善すれば、再び価値を生み出せる事業はある。そう考えたことが、事業承継・事業再生に向かう大きな転機でした。
北海道で起業しようと思った背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。
東京で働きながら、将来のキャリアを考えたときに、北海道で転職先を探したことがありました。ところが、東京と比べると選択肢が圧倒的に少ないと感じました。特に、ITや投資、スタートアップのような領域で、若い人が大きな裁量を持って挑戦できる環境は限られていました。
北海道は生活環境としてはとても魅力的な場所です。自然もあり、暮らしやすく、人の温かさもあります。しかし、挑戦できる仕事が少ないことで、若い人が外に出ていってしまう現実があります。
それなら、自分が会社を作り、北海道で若い人が責任を持って挑戦できる環境をつくりたいと思いました。MIXIのように、若い人が裁量を持ち、事業を動かせる会社を北海道につくりたい。その思いが、クリエイピア創業の原点です。
第一号案件として、なぜ札幌市東区のパソコン教室を承継されたのでしょうか。
一番大きかったのは、札幌市東区という立地です。北海道内のM&A案件を見ると、地方部にある事業も多いのですが、今回の教室は札幌市内、それも人口が増えているエリアにありました。加えて、赤字ではあったものの、一定数の生徒さんが通っており、15年間運営されてきた実績がありました。
また、私自身にとって東区は土地勘のある場所でした。高校時代に札幌東高校に通っていたこともあり、地域の雰囲気や生活感覚がある程度わかっていました。さらに、パソコンやITに関しては自分の強みを活かせる領域でもあります。
事業承継では、単に安く買えるかどうかではなく、自分が再生できる可能性があるかが重要だと思っています。その意味で、このパソコン教室は、立地、既存顧客、地域での実績、自分のスキルとの相性が揃っていました。だからこそ、第一号案件として承継する意味があると判断しました。
承継後、最初に取り組んだ改革は何でしたか。
まず着手したのは、教室環境の刷新です。承継した当初、教室には古い什器やパソコンがそのまま残っていました。必要最低限の設備があり、そのまま運営することもできますが、ここで顧客に提供できる本当の価値とは何かを見つめ直しました。
そこで、パソコンや周辺機器の入れ替え、教室内のレイアウト変更、内装のリフォームなどを進めました。まずは「札幌で一番きれいなパソコン教室」を目指し、学びに来る人が前向きな気持ちになれる環境を整えることから始めました。
次に取り組んだのが、集客導線の見直しです。以前はネット集客がほとんど活用されておらず、看板を見て来る方や、既存のつながりで来る方が中心でした。そこでGoogle広告やYahoo!広告を活用し、Web経由で新しい生徒さんに届く仕組みを作りました。
その結果、これまで多かった年配層に加え、若い世代や社会人の方など、新しい層の問い合わせが増えていきました。設備を整え、集客を変え、教室に新しい流れを作ることが、再生の第一歩になったと感じています。
カリキュラム面では、どのようなアップデートを行ったのでしょうか。
大きな変化の一つが、AIカリキュラムの導入です。以前のパソコン教室では、WordやExcelなどの基礎的な内容が中心でした。もちろんそれらも大切ですが、令和の時代にパソコン教室がAIを教えていないのは、時代に合っていないと感じました。
そこで、自分自身でAIに関する教材を開発し、生徒さんに提供し始めました。ChatGPTなどの生成AIをどう使うのか、日常や仕事にどう活かすのかを、初心者でも学べる形に落とし込んでいきました。
嬉しかったのは、その教材を多くの生徒さんが実際に受講してくれたことです。自分が作った教材を必要としてくれる人がいて、学びたいと言ってくれる。その反応を見たときに、この教室にはまだまだ伸びる余地があると実感しました。
単に古い教室をきれいにするだけではなく、学ぶ内容そのものを時代に合わせて変えていく。それが、パソコン教室を地域のIT人材育成拠点にしていくために重要だと考えています。
事業再生を進めるうえで、藤井さんが大切にしていることはありますか。
大切にしているのは、現場に対して隠さず向き合うことです。生徒さんにも、今この教室は事業再生の途中であり、より良い場所にするために変えていく必要があるということを、できるだけ率直に伝えるようにしています。
パソコン教室は、先生と生徒という関係性がある場所です。だからこそ、ただ丁寧に接するだけではなく、学びの場として一定の緊張感や信頼関係をつくることも大切です。年齢だけで見れば、私より20歳、30歳上の生徒さんも多くいらっしゃいます。それでも、教える立場として、きちんと責任を持ち、ルールを守ってもらい、成果につながる学びを提供する必要があります。
事業再生は、数字だけを見ていても進みません。通ってくださる生徒さん、運営する側、地域にとって、どうすれば良い状態になるのかを考え続ける必要があります。前の形をただ守るのではなく、必要なものは残しながら、変えるべきところはしっかり変える。その姿勢を大切にしています。
クリエイピアM&Aでは、どのような支援を行っているのでしょうか。
クリエイピアM&Aでは、小規模な事業のM&Aや事業承継を支援しています。大手のM&A仲介会社では扱いにくい小さな案件や、プラットフォームに掲載してもなかなか問い合わせが来ない案件に対して、私自身の経験やネットワークを活かして支援していきたいと考えています。
私自身、ゲーム事業の売却を経験していますし、今回のように自己勘定で事業を買い、再生に取り組んだ経験もあります。だからこそ、売る側と買う側の両方の気持ちがわかります。
M&Aというと、大きな会社同士の取引をイメージされる方も多いと思います。しかし実際には、小さな店舗や個人事業にも、引き継がれるべき価値があります。大切なのは、その価値を見つけ、次の担い手につなぐことです。小さな事業でも売れる、買える、再生できる。その可能性を広げていきたいです。
社名である「クリエイピア」には、どのような意味が込められているのでしょうか。
もともと「クリエイピア」という名前は、最初に取り組んでいたクリエイターとファンをつなぐプラットフォームの名称でした。「クリエイターの天国」のような意味を込めて、クリエイトとユートピアのような響きを合わせて名付けました。
そのプラットフォーム自体は、力不足もありうまくいきませんでした。ただ、社名はそのまま残しました。なぜなら、私の原点には今でもクリエイター支援への思いがあるからです。
現在は事業承継・事業再生に集中していますが、将来的に店舗経営や事業再生でしっかりキャッシュを生み出せるようになれば、その資金を使って、もう一度ゲーム開発やクリエイター支援の領域にも挑戦したいと考えています。事業再生とクリエイター支援。一見別の領域に見えるかもしれませんが、どちらも「埋もれている価値を見つけ、もう一度世の中に届ける」という意味ではつながっています。
今後、どのような事業承継に挑戦していきたいですか。
今取り組んでいるパソコン教室の再生は、私の中では「地上戦」だと捉えています。現場に入り、設備を変え、集客を変え、カリキュラムを変え、事業を一つひとつ立て直していく。その経験は非常に重要です。
ただ、地方の事業承継問題を本気で解決しようとすると、一店舗ずつ承継していくだけではスピードが足りません。2号案件、3号案件を自己資金や融資だけで買い進めていくと、次の承継までに数年かかってしまう可能性があります。それでは、救える事業の数に限界があります。
だからこそ、今後はエクイティ調達も視野に入れています。出資を受け、その資金をもとに金融機関からの融資も組み合わせ、レバレッジをかけながら事業を買い進めていく。事業再生を半年から1年単位で進められるスピード感があるからこそ、資金面を強化できれば、より多くの事業を承継できると考えています。
その中でも、フランチャイズ本部の承継に注目されている理由を教えてください。
小さな店舗を一つひとつ買収していく方法には、どうしても限界があります。一方で、フランチャイズ本部を承継できれば、その先にある加盟店にも再生ノウハウを届けることができます。
学習塾、パソコン教室、飲食店、整骨院など、日本には多くのフランチャイズがあります。その中には、15年前、20年前のやり方をそのまま続けている本部も少なくありません。本部の仕組みや集客、教材、運営体制をアップデートできれば、加盟店全体に良い影響を広げることができます。
また、フランチャイズ本部は労働集約型になりにくいという特徴もあります。店舗数が増えても、本部の仕組みが整っていれば、効率よく収益を伸ばすことができます。上場を目指す事業として考えたときにも、フランチャイズ本部のロールアップは非常に相性が良いと考えています。
今回のパソコン教室の再生で得た知見を、今後はより広い範囲に展開していきたいです。地方に残る価値ある事業を、赤字や後継者不足を理由に終わらせるのではなく、もう一度成長できる形に変えていく。それが、クリエイピアとして挑戦していきたいことです。

