運営を継ぐのは序の口〜銭湯10軒を50年残すのに40億円【後編】|ゆとなみ社
店を引き継ぎ、黒字にする。それは序の口だと湊三次郎氏は言い切る。借りて営業している銭湯は、オーナーの相続でいつ失われてもおかしくない。10軒すべてを買い取り建て替えるには数十億円。承継の現実と、それでも人を送り出す理由を聞いた。
まず、銭湯はあと何年残るとお考えでしょうか。

このままのペースであれば、単純計算をしてしまうと、10年後に全国で200軒程度になります。私が銭湯を始めた2015年には、一般公衆浴場の組合加盟が2,800軒ほどありました。それがこの11年で1,500軒を切っている。1,300軒近くが消えた計算です。
そうなると、この10年が継業のラストチャンスです。10年後には、残るべくして残った銭湯しか残っていない。若い経営者が代替わりしているとか、新築や大規模修繕を終えて経営的にうまくいっているとか、そういうところしか残らない。今すでに高齢で経営も苦しいというところは、この10年で本当に淘汰されます。だからこそ、いかにこの10年で銭湯を引き継げるかが業界の課題になっています。
運営を継ぐのは序の口だとおっしゃいますが、その先には何が待っているのでしょうか。
引き継いで営業を始めることは、ハードルが低いからです。その先に、はるかに大きな山が待っています。何もすごくないというのが、今の私の結論です。
弊社は基本的に賃貸でやっています。ということは、いずれ高齢のオーナーからご家族などへ承継される際、この物件も引き継がれることになる。お子さんや親族のご意向で、同じ条件で貸してくれるとは限らない。お金にして分けたい、売りたいということになったとき、うちが買わなければもう終わりなんです。
そこでまず、買えるかどうかというハードルがある。買ったとしても、建物がすでにかなり老朽化している。少なくともあと30年続けるためには建て替えなければならず、それで4億、5億かかるという話になってくる。
10店舗ある中で、去年ようやく梅湯を購入できました。これを他の9店舗すべてで行い、その上で新築までしなければいけない。1店舗1億円か2億円で買ったとして、銭湯の新築は今4億円と言われています。それだけでも40億円から60億円は調達しなければならない。たったこんな小さな銭湯を50年続けようと思うだけで、です。
それまでは調子に乗って、どんどん継業して、どこかですごいだろうと思っていました。でも、そのハードルを考えると相当渋いんです。
銭湯の経営は、実際にどれくらいの数字なのでしょうか。
梅湯の1年目の売上は、年間の平均で月84万円ほどでした。それが今は月1100万円くらいになっています。ただ、それでも足りません。
梅湯は特殊な例で、売上は10倍以上に伸びました。他の店舗は2〜5倍というところです。それでも足りません。月の売上が300万円前後だと、新築や土地の購入を前提とした借り入れが難しいんです。できれば600万円、700万円くらいまでは持っていきたい。
結局のところ、借り入れをいかにできるかが鍵です。それを全店舗で、しかも急ピッチにやらなければいけない。買い取りと建て替えに耐えられる収支には、頑張り次第で持っていけると思っています。ただ、時間との勝負です。
数字を伸ばす手段は、自分たちでコツコツ集客を伸ばすしかない。加えて弊社は、利益率の高いアパレルや、企業から広告を取ってくる広告事業も動かしています。ただ、これは他ではなかなか真似できません。銭湯だけを始めた人がやるとなると、少し苦しいと思います。
行政の支援等はどこまで頼りになりますか。
地域によって、支援の厚さがまったく違います。東京都はかなり手厚いですが、それ以外の地域には同じような制度がありません。
東京都では、組合が担い手講習というものをやっています。講習を受けて認定を持っている方に、都内の銭湯の継業の話が行く。
東京都以外には、担い手講習制度がまったくありません。京都の設備補助金は、京都府が100万円以上の工事に対して15%で上限150万円。かなり渋いですね。
国や自治体に望むことがあれば教えてください。
助成金をくださいということではありません。銭湯が担っている役割を、いまの時代に合わせて再評価してほしい。それだけです。
そもそも銭湯の存在意義は、市民の公衆衛生の維持にあります。ただ、風呂なしの家が多かった時代は不衛生だからという理由で必要とされた。今はみんなが家に風呂を持っている。その中で公衆衛生とは何なのかというところが、旧態依然としたままなんです。
最近もSNSで、ある市議の方が、今の時代どこにでも風呂がある中で銭湯にそこまでする必要があるのか、という趣旨のことを書いていました。批判があるのは仕方がない。ただ、その理解は風呂で綺麗になればいいでしょう、というところで止まっている。精神的に健康であるかどうかも、公衆衛生に関わってくるはずです。
銭湯は「コミュニティの場所だからみんな来てください」というスペースではありません。風呂に入るという用事のある場所として機能していて、その結果としてコミュニティの一員になっている感覚を与える場所です。そういう場所は一から作ろうと思っても難しい。昔からその場所にあって、なんとなくみんなが知っていて、お風呂に行くという用事がある。その絶妙なバランスがいい。
ただ、再評価したから助成金をくれという話ではありません。銭湯業界の悪かったところの一つに、助成金依存の体質があった。経営者と話すと助成金の話になる。その前にもっと自分たちで経営努力をしないと、とはすごく思います。なくても続けられる強い商売にしなければいけない。
店舗を増やすのではなく、独立する人を増やそうとされているのはなぜでしょうか。

組織を一気に大きくしてみて、マネジメントが難しいという課題に直面したからです。無限に広げていくことは、経費的にもマネジメント的にも負担が大きい。
今、弊社は直営10店舗を経営していて、各銭湯に店長がいて、エリアマネージャーが3名、事務方が何名かいます。店舗数と従業員数が増えるにつれて、店舗の外でマネジメントをする役職が必要になり、彼らにはそれなりの経歴とスキルが求められる。
だとすれば、個人事業でやってくれる人を増やすほうがやりやすい。その補助として、弊社がサポーターとして仕事で伴走していく。その形が一番合理的なのかなと考えています。
フランチャイズにするメリットも、あまりないんです。そんなに儲かる商売ではないので、ロイヤリティを月3万円取ったとして相手が苦しくなるかもしれない。私たちは銭湯を残すことを一点に置いているので、必要なら単発の仕事としてコンサルをやります、くらいのほうがいい。
実際、うちで店長をしていた人間が独立して、今は個人事業として店主をやっています。それとは別に、自分で物件を見つけて独立した人間も2名います。うちが養成所的な存在になればいいなと思っています。
銭湯以外の事業を別会社にされた狙いを教えてください。
ゆとなみ社らしさを守るためです。うちは自分たちをインディーレーベルだと言っているのですが、その性質のままメジャー化させようとすると、いろいろなお金が入ってきて、らしさが薄まっていく。とはいえ事業を発展させようと思えば、お金の受け皿は必要になる。
そこで設備の会社を別に立ち上げました。設備、建築、不動産、金融といった領域に、インディーっぽさはまったく要らない。そこはビジネスに寄せていい。極論、どこかに吸収される、一緒にやる、というのも積極的にやる受け皿です。将来的にはこの地盤づくりで、うちから独立した人たちが新築や購入をできるようにしたい。
独立を志望して入ってくる方に、まず何を伝えていらっしゃいますか。
もう詰んでるよ、という話をします。そのうえで、それでもやるんだったらどうぞ、と伝えています。
銭湯を購入して新築までやらないといけない。建物も、あと20年、30年で終わりというものが多い。30歳で始めて50歳で店が潰れたらどうするんですか、という話になる。しかもそれで、すごい財産が築けるほど儲かるわけでもない。
ゆとなみ社もいつまで続けられるか分からないから身の振りは考えてほしい、とも言っています。そうなったとき、ただ風呂掃除と番台をしていました、では採用の場面でコンビニでアルバイトをしていましたとあまり変わらない。自分で電気工事士の資格を取るとか、弊社の中でデザインの仕事をしてポートフォリオを作れるレベルになるとか、そういうことをしておいてね、と伝えています。
独立志望の方たちは、社員とは別の枠組みで、無期雇用ではなく1年ごとの雇用にしています。難しいという方は満了で終了しますと伝えていて、これまでに10人くらいが去っています。
なぜそこまで厳しくするのか。何でもできるよと言ってやらせて、2,000万円くらい借金をして案の定だめでした、となれば、その人自身が路頭に迷ってしまう。そして、託してくれた銭湯のオーナーに申し訳ない。よく分からない若者が、うちで修業したというだけでやりますと言って、信用して任せたら運営がまったくうまくいかない。40年、50年、100年ある歴史が、よく分からない形で終わってしまう。それなら、やってきた方が綺麗に終わらせたほうがいい。そこまでして残す必要はないと思っています。ロマンだけで人を送り出すのは、本当に無責任です。
最後に、後継者が見つからない経営者へ伝えたいことをお願いします。
自分たちを開示できていないだけだと思っています。もっと自己評価が高くていい。
うちでも継業できない銭湯はあります。そういうときは、M&Aのマッチングサイトに出してみたらどうですか、SNSで発信してみたらどうですか、と伝えます。タダでできることなのに、やらないんですよね。
こんなので大丈夫なのかな、という方が多いんですけど、意外と銭湯を探している人はいて、本当にご縁があることもあるんです。だから、30年、50年と人生をかけてやってきたものを誰かに続けてもらいたいと思っているのであれば、恥ずかしがらずに手を挙げてもいい。もちろん、自分の代できっちり終わらせたいという方もいらっしゃる。それはそれでいいと思っています。
銭湯に限らず、日本のすごい技術や歴史が、そのまま消えてなくなってしまうわけです。消えたら再現することも不可能だし、知っている人もいないという最悪の状況になる。結局、日本が豊かじゃなくなっていく、負けていってしまうというところに繋がる。だからこそ、自信を持ってほしいですね。
よくある質問
- 銭湯の軒数はどれくらいのペースで減っているのですか?
- 湊氏によれば、組合加盟ベースで2015年に約2,800軒あった一般公衆浴場が、11年で1,500軒を切りました。厚生労働省「衛生行政報告例」の営業許可ベースでは2024年度末で全国2,730施設、前年度から117施設(4.1%)の減少です。集計基準は異なりますが、年4%前後で減り続けている点は共通しています。
- 事業を引き継いで黒字にすれば、承継は完了と言えますか?
- 湊氏は「運営を継ぐのは序の口」と語ります。賃貸で営業している場合、オーナーの相続や売却の意向によって物件を失う可能性が残るためです。ゆとなみ社では10店舗の買い取りと建て替えに40億〜60億円が必要になると試算しています。
- 銭湯の承継に、行政の支援は使えますか?
- 地域差が大きいのが実情です。東京都では公衆浴場組合が担い手講習を実施し、修了者に都内の継業案件が紹介されます。一方、東京都以外に同様の担い手講習制度はなく、京都府の設備補助金は100万円以上の工事に対して15%・上限150万円にとどまります。
- 承継した事業で店舗を増やすのと、独立する人を増やすのはどちらがよいのですか?
- ゆとなみ社は後者を選んでいます。直営10店舗まで拡大した結果、店舗数と従業員数の増加に伴って店舗外のマネジメント人材が必要になり、経費とマネジメントの負担が大きくなったためです。現在は個人事業として独立する人を増やし、同社が伴走する形をとっています。
- 後継者が見つからない経営者は、まず何をすればよいですか?
- 湊氏は「自分たちを開示できていないだけ」だと指摘します。M&Aのマッチングサイトに登録する、SNSで発信するなど、費用をかけずにできることをやっていない事業者が多い。探している人は意外にいるため、恥ずかしがらずに手を挙げてよいという考えです。
湊 三次郎 Sanjiro Minato
1990年、静岡県浜松市生まれ。大学進学を機に京都で暮らし始め、在学中に銭湯サークルを立ち上げて約700軒の銭湯を巡る。学生時代にアルバイトをしていた京都・下京区の銭湯が廃業すると聞き、勤務していたアパレル会社を退職。2015年5月、24歳で「サウナの梅湯」を継承する。以後、源湯(京都)、容輝湯(滋賀)、人参湯(愛知)、みやの湯(大阪)、一乃湯(三重)、鴨川湯(京都)、湊河湯(兵庫)、パール温泉・扇温泉(大阪)を承継し、直営10店舗を運営。2021年に株式会社ゆとなみ社を設立。「銭湯を日本から消さない」を掲げ、銭湯の継業・運営のほか、アパレル、広告、設備の各事業を手がける。