取締役の任期を使った役員の入れ替え|「解任」に頼らない世代交代の進め方
事業承継では、後継者を役員に迎える一方で、古参の役員に退いてもらう場面も出てきます。このとき「解任」という強い手段に頼ると、思わぬトラブルを招くことがあります。そこで知っておきたいのが、取締役の「任期」を使った、角の立ちにくい入れ替えのしくみです。この記事では、現経営者と後継者の双方に向けて、任期を使った世代交代の進め方を整理します。
なぜ「解任」は使いにくいのか
取締役は、株主総会の決議で解任することができます。しかし、正当な理由がないのに任期の途中で解任すると、その取締役から会社が損害賠償を求められることがあります。

残りの任期に対する報酬などが賠償の対象になり得るため、解任は金銭的にも人間関係の面でも負担が大きい手段です。長年会社に貢献してきた古参役員が相手なら、なおさら慎重になりたいところです。
「任期満了で再任しない」という穏やかな方法
ここで役立つのが、取締役の任期です。取締役には任期があり、任期が来るたびに、あらためて選び直す(再任する)手続きが必要になります。
裏を返せば、任期が満了したときに再任しなければ、その役員は自然に退任することになります。解任のように途中で強制的に外すわけではないため、損害賠償のリスクが低く、角も立ちにくいのが特徴です。世代交代を、任期という節目に合わせて穏やかに進められます。
非公開会社は任期を「最長10年」まで伸ばせる
多くの中小企業のような、株式に譲渡制限を付けている非公開会社では、定款を変えることで取締役の任期を最長10年まで伸ばせます。
任期を長くするか短くするかは、承継の状況によって使い分けられます。
- 任期を長くする:役員を選び直す手続きの手間を減らせます。安定した体制を長く保ちたいときに向きます。
- 任期を短くする:数年ごとに見直せるため、役員体制を機動的に入れ替えたいときに向きます。承継期には、こちらが便利な場面もあります。
承継での使い方:計画的に節目をつくる
任期のしくみは、承継のスケジュールに組み込むと効果的です。
たとえば、後継者を取締役に登用するタイミングと、古参役員の任期満了を重ねておけば、無理な解任をせずに、自然な流れで役員構成を若返らせることができます。任期を短めに設定しておけば、その節目も数年おきに訪れます。「いつ・誰を・どう入れ替えるか」を、任期という時間軸で設計するわけです。
ただし、任期の変更や運用は定款や登記に関わるため、実際に進める際は専門家に相談しながら整えるのが安心です。
よくあるケースで考えてみる
たとえば、創業を支えてきた古参の取締役が数名いて、後継者への代替わりを5年ほどかけて進めたい会社を考えてみましょう。
ここで全員を一度に解任すれば、反発も損害賠償のリスクも大きくなります。そこで、取締役の任期を短めに設定しておき、任期満了のたびに、退任してもらう役員は再任せず、後継者や次世代の幹部を新たに選任していきます。こうすれば、数年かけて少しずつ、角を立てずに役員構成を入れ替えることができます。
古参役員にとっても、任期満了という区切りは受け入れやすく、花を持たせた引退の形をとりやすくなります。力ずくの解任と違い、時間をかけて合意を積み重ねられるのが、この方法の利点です。
まとめ
- 正当な理由のない途中解任は、損害賠償のリスクがあり使いにくい。
- 任期満了で再任しない方法なら、角が立ちにくく穏やかに退任してもらえる。
- 非公開会社は、定款で取締役の任期を最長10年まで調整できる。
- 承継では、後継者の登用と古参役員の任期満了を重ね、時間軸で役員構成を設計する。
役員の入れ替えは、力ずくよりも時間を味方につけるほうがうまくいきます。任期のしくみを、計画的な世代交代に活かしてください。