「取締役」と「従業員」はここが違う|後継者が役員になる前に知っておくこと
事業承継では、後継者をどこかのタイミングで取締役に登用します。このとき見落とされがちなのが、「取締役」と「従業員」はまったく立場が違うという点です。同じ会社で働いていても、法律上の扱いは大きく異なります。この記事では、現経営者と後継者の双方に向けて、両者の違いを5つの観点から整理します。
取締役と従業員は「契約の種類」からして違う
まず根本的な違いは、会社との関係を結ぶ契約の種類です。
従業員は、会社に労働力を提供して賃金をもらう「雇用契約」を結んでいます。一方、取締役は、会社の経営を任される「委任契約」の関係にあります。取締役は会社に雇われているのではなく、経営を委ねられている立場なのです。

この違いが、以下のすべての差の出発点になります。「昇進して役員になる」と何となく捉えられがちですが、実際には働き方の延長ではなく、立場そのものが切り替わります。
5つの観点で違いを整理する
取締役と従業員の違いを、代表的な5つの観点でまとめます。
| 観点 | 従業員 | 取締役 |
|---|---|---|
| 契約の種類 | 雇用契約 | 委任契約 |
| 任期 | 定めなし(定年まで等) | 任期がある(原則2年など) |
| 報酬の決め方 | 就業規則・給与規程 | 株主総会の決議や定款で定める |
| 労働法の保護 | 労働時間・残業代・解雇規制など | 原則として適用されない |
| 会社への責任 | 通常の職務上の責任 | 重い法的責任を負う |
とくに大きい「労働法の保護」の差
後継者がまず知っておくべきは、労働法の保護がなくなるという点です。
従業員には、労働時間の上限や残業代、簡単には解雇されない保護など、労働法によるさまざまな守りがあります。ところが取締役は、こうした保護の対象から外れるのが原則です。役員になると「残業代」という考え方はなくなり、働き方は自分の裁量と責任に委ねられます。報酬も、労働の対価というより、経営を担うことへの対価という性格に変わります。
「任期」と「解任」のしくみも変わる
取締役には任期があります。任期が来れば、あらためて選び直す(再任する)手続きが必要です。
また、取締役は株主総会の決議で解任できますが、正当な理由なく任期の途中で解任すると、会社が損害賠償を求められることがあります。逆に言えば、この任期のしくみは、役員体制を計画的に入れ替える手段としても使えます。後継者の登用や古参役員の引退を、任期の節目に合わせて設計できるのです。
「使用人兼務役員」という中間の形もある
実務では、取締役でありながら、同時に「営業部長」などの従業員としての地位も持つ人がいます。これを使用人兼務役員と呼びます。
中小企業では、後継者が役員になった後も、現場の実務を兼ねて担うことが少なくありません。この形をとると、役員としての報酬と、従業員部分の給与を分けて扱えるなど、実務上のメリットが生じる場合があります。ただし、誰でも兼務役員にできるわけではなく、代表取締役などは対象になりません。後継者の登用の仕方によって、報酬や税務の扱いが変わるため、実際の設計は専門家に相談しながら進めるのが安心です。役員か従業員かは、白か黒かだけでなく、こうした中間の形もあることを知っておくと選択肢が広がります。
まとめ
- 取締役は会社に雇われるのではなく、経営を委ねられる立場(委任契約)。
- 従業員と違い、労働法の保護(残業代・解雇規制など)は原則適用されない。
- 報酬は株主総会の決議などで定め、任期があり、会社への責任も重い。
- 後継者の役員登用は「働き方の延長」ではなく「立場の切り替え」と捉える。
後継者が取締役になるということは、守られる側から会社を背負う側へ移るということです。登用の前に、この立場の違いを本人と共有しておきましょう。