地域で承継支援を自走させる|京都府事業承継・引継ぎ支援センター
京都府事業承継・引継ぎ支援センターは、京都府内の中小企業・小規模事業者を対象に、親族内承継、従業員承継、第三者承継など、事業承継に関する相談を受ける公的支援機関です。相談無料、秘密厳守、公正中立の立場で、経営者や後継者が抱える課題に向き合っています。
同センターが新たに取り組んでいるのが、「事業承継計画策定支援人材養成事業」、通称「BSプランナー養成事業」です。特徴は、単なる座学の講座ではなく、講座、認定試験、実案件への伴走支援までを一体化していること。地域の商工団体、金融機関、士業などが、実際に事業承継計画を策定できる人材となり、地域の中で承継支援を進められる体制づくりを目指しています。
なぜ今、支援人材の育成が必要なのか。事業承継支援に求められる力とは何か。そして、公的支援機関の役割は今後どのように変わっていくのか。京都府事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者の梅原克彦氏に、お話を伺いました。
事業承継支援人材の育成に取り組む背景を教えてください。

今回の取り組みは、後継者がいる企業への支援を、地域の中で解決できるようにしたいという考えが出発点です。
第三者承継(M&A)は譲り受ける相手を探すため、専門的な支援や情報ネットワークが必要になります。一方、親族や従業員など後継者が決まっている場合は、承継相手を探す必要がないため、承継後の経営体制や成長戦略など、次の打ち手を計画しやすい点が特徴です。
京都府内を見ても、京都市内には士業の先生方が多くいらっしゃいますが、北部や南部の地域では、京都市内と比べると専門家に相談できる機会や選択肢が限られる場合もあります。また農業の承継など、地域ごとに異なる課題もあります。そうした現場で、普段から事業者と接点を持つ商工団体や金融機関の方々が支援できるようになれば、より早く、継続的な支援につながります。
センターがすべてを担うのではなく、地域に事業承継支援の担い手を増やしていく。それが、今回の事業に込めた大きな狙いです。
支援者にとって、事業承継支援の壁はどこにありますか。
一番の壁は、事業承継支援の全体像が見えにくいことだと思います。
事業承継では、株式、税務、法務、資金繰り、後継者教育、組織づくりなど、さまざまな論点が出てきます。ただし、支援者一人がすべての専門知識を持つ必要はありません。たとえば税務の詳しい計算は税理士に、契約書など法的な論点は弁護士に相談すればいい。大事なのは、どの論点に誰の力が必要なのかを見極め、全体をコーディネートする力です。
もう一つ、土台として欠かせないのが、経営者に寄り添って傾聴する力です。経営者自身が気づいていない真のニーズを拾い上げ、何に困っているのか、どこに不安があるのかを丁寧に整理する。そこができて初めて、計画づくりや専門家連携に進めます。
知識だけでは、事業承継支援は進みません。経営者や後継者と信頼関係を築き、必要な人を巻き込みながら前に進める力が求められるのです。
BSプランナー養成事業は、どのような仕組みなのでしょうか。
今回の事業では、講座、認定試験、実務経験を組み合わせています。講座で知識を学び、認定試験で一定の理解を確認し、さらに実際の案件で事業承継計画の策定に関わる。そこまで経験していただくことで、初めて現場で動ける人材に近づいていくと考えています。
私自身、過去に他県のセンターでM&A支援人材の養成講座に関わったことがあります。当時は講座を中心とした育成でしたが、受講後に実際の支援をお願いすると、「経験がないので難しいです」と断られてしまうことが少なくありませんでした。知識は身に付いていても、最初の一歩を踏み出すことへの不安は大きい。座学だけでは実践につながらないという課題を実感した経験が、今回のプログラム設計にも活かされています。
事業承継計画を作る機会は、講座や試験、実務経験を含めて複数回あります。センターのサブマネージャー等が見守りつつ何度も記載することで、自信を持って支援できるようになってもらうことが重要です。
ただし、計画を作ること自体が目的ではありません。大切なのは、経営者交代と引き継ぎを実現することです。計画はあくまでシナリオであり、その後の伴走があってこそ意味を持ちます。地域の支援者であれば、計画策定後も事業者の近くで継続的に関わることができます。そこに、この仕組みの大きな価値があります。
センターの役割は、今後どのように変わっていくと考えていますか。
後継者がいる企業の支援については、将来的には地域の商工団体や金融機関が担っていく形が望ましいと考えています。事業承継は、事業を継続させるために経営者を交代することです。資金繰り、収益力、人手不足と同じように、事業継続のための経営課題の一つとして向き合えばいいのです。
もちろん、センターの役割がなくなるわけではありません。後継者がいない企業の第三者承継や、個人事業主など民間業者が扱いづらい案件、市場の健全性を守る役割など、公的支援機関だからこそ担える領域はあります。
一方で、後継者がいる企業の承継までセンターがすべて対応し続けるよりも、地域の支援者が自走できる状態をつくる方が、事業者にとってもメリットが大きいはずです。遠方から専門家が来て計画を作るより、地元で顔の見える支援者が関わり、その後も伴走する方が自然だと考えるからです。
今回の講座も、いずれは必要なくなるくらい、地域内で支援のノウハウが広がっていくことが理想です。認定を受けた人が、自分の組織の中で知識と経験を伝え、次の担い手を育てていく。その循環ができれば、地域の自走化に近づいていくと思います。
支援において大切にしている姿勢は何ですか。
センターは、公正中立の立場で支援を行います。経営者と後継者、どちらか一方に肩入れするのではなく、真ん中に立って判断することが大切です。
そのうえで、言うべきことをきちんと伝える姿勢も必要です。相手が経験豊富な経営者であっても、遠慮して大事なことを言わなければ、後で後悔する場面も出てきます。支援者は、相手のためになると思えば、時には厳しいことも伝えなければなりません。
商工団体や金融機関は、日頃から事業者と深い信頼関係を築いているからこそ、継続的に寄り添える強みがあります。一方で、その関係性ゆえに踏み込みにくい場面があることも事実です。だからこそ、センターのような第三者が中立の立場で関わる意義があります。
それぞれの支援機関が持つ強みを活かしながら連携し、事業者にとって最適な支援につなげていくことが大切だと考えています。
最後に、地域の事業者や支援者へのメッセージをお願いします。

中小企業は、日本の企業数の大多数を占めています。だからこそ、さまざまな専門家や支援機関が、それぞれの立場で力を発揮し、中小企業を支えていく必要があります。
ただし、本当に盛り上がるべきなのは支援者ではなく、事業者です。経営者や後継者が、わからないことを気軽に相談でき、自社の価値を高めていけるようになることが何より大切です。
事業承継によって経営者が代わることは、単に世代交代を意味するものではありません。次の世代が新しい挑戦や価値を生み出し、会社をさらに発展させていく。その積み重ねが地域経済の活性化にもつながります。事業承継は、会社を未来へつなぐための大切な転換点なのです。
京都の地域で、事業承継支援が当たり前に行われる状態をつくる。その一部を担えるのであれば、それがセンターとしての大きな役割だと考えています。
梅原 克彦 Umehara Katsuhiko
公認会計士梅原会計事務所代表。1994年に監査法人トーマツへ入所し、会社監査、株式上場支援、ベンチャー支援に携わる。2009年に公認会計士梅原会計事務所を開業。京都府中小企業再生支援協議会サブマネージャー、滋賀県事業引継ぎ支援センター統括責任者を歴任し、中小企業の再生支援、事業承継、M&A支援を経験。中小企業を中心に、創業から株式上場まで経営課題の解決に向けた支援を行う。2026年4月より現職。