インタビュー

「事業承継は、気合と根性で成功するものではない」失敗を知る2代目が、地方の中小企業を次代へつなぐ|株式会社高橋

「事業承継は、気合と根性で成功するものではない」失敗を知る2代目が、地方の中小企業を次代へつなぐ|株式会社高橋

株式会社高橋の代表取締役を務めるほか、一般社団法人次世代経営協会を立ち上げ、全国の経営者や後継者が学び合う場を運営している、中小企業診断士の高橋秀仁氏。自身の失敗を、次の後継者が同じ失敗をしないための知恵に変えてきた高橋さんに、家業を継いだ経緯や親子間の葛藤、事業転換、そして事業承継に必要な準備について伺った。

現在の事業内容について教えてください。

株式会社高橋では、中小企業向けの経営コンサルティングと、事務・経理・労務などのアウトソーシングを行っています。私は中小企業診断士ですので、中小企業経営を幅広く支援していますが、特に力を入れているのが事業承継です。

また、一般社団法人次世代経営協会では、後継者や後継社長が経営を学び、互いの経験や課題を共有できる場をつくっています。株式会社高橋が個別企業を支援する場だとすれば、協会は業種や地域を超えて、みんなで学び合う場という位置づけです。

株式会社高橋は、もともと現在と同じ事業を行っていたのでしょうか。

いいえ。私が家業に入った20代後半の頃は、飲食店やアパレルの小売店を複数運営していました。今とはまったく違う会社です。

そもそも私は、子どもの頃から家業を継ぐと決めていたわけではありません。親から「継いでほしい」と言われたこともなく、好きにすればよいという家庭でした。大学卒業後は高級寝具の販売会社で営業を経験し、その後は飲食店でも働きました。

家業に関わるきっかけは、子どもが生まれるタイミングでした。飲食店は長時間労働だったため転職を考えていたところ、家の会社から「少し大変だから手伝ってほしい」と声をかけられたのです。

当初は、少し手伝いながら次の仕事を探すつもりでした。強い覚悟を持って入社したというより、流れの中で家業に入り、そのまま経営に関わるようになりました。

家業に入って、最初に任された仕事は何でしたか。

大赤字だったイタリアンレストランの立て直しです。ただ、すでに簡単に立て直せる状況ではありませんでした。何とかしようと取り組みましたが、最終的には3年半ほどで店を閉じることになりました。当然、社員は全員クビになるので、全員に囲まれて、何時間も叱責をうけ、最後には包丁で脅されるなど、事業をやめることの本当の怖さを知りました。

当時は経営が何なのか、ほとんど分かっていませんでした。売上をどうつくるのか、人をどう動かすのか、資金をどう管理するのか。知識も経験も不十分でした。気合と根性で売上アップを目指す限界を感じて、経営にはマネジメント知識が必要と骨身にしみました。

一方、もう一つの事業であるアパレル小売は、当時まだ伸ばせるチャンスがありました。学んだ経営知識をマーケティングや店舗運営に実践すると、成果が出るようになり、店舗数を最大4店舗まで増やしました。ただ、その後15年が経過すると、小売業を取り巻く環境が激変し、このまま続ければ会社そのものが立ち行かなくなると感じました。

そこで、テナント契約の更新時期に合わせて、一店舗ずつ閉じていきました。ある日突然すべてをやめ、コンサルティングに切り替えたわけではありません。小売事業を少しずつ縮小しながら、コンサルティングやアウトソーシングの仕事を増やしていった結果、現在の事業が残ったというのが実態です。

ほかにもさまざまな事業に挑戦しましたが、うまくいかなかったものの方が多かったですね。

先代であるお父さまとは、経営方針をめぐって衝突することもありましたか。

家業に入った当初は、まったく話が合いませんでした。格好よく言えば「経営方針の違い」ですが、今振り返れば、知識も経験も常識も違う親子が、お店をどうするか話していたわけです。意見が合わないのは当然だったと思います。

普通の会社であれば、社長の判断に対して部下は一定の線を引けます。しかし、親子だと遠慮がありません。若かった私は言いたいことをそのまま口にし、父も「経験も知識もない人の意見は採用できない」と返す。大げんかを繰り返していました。

ただ、経験の差だけを理由にされたら、いつまでたっても父には追いつけません。そこで見つけたのが、中小企業診断士という資格でした。

「経営のプロとして認められる資格なら、話を聞いてもらえるかもしれない」と考え、飲食店で働きながら、平日の夜や休日に予備校へ通いました。取得まで3年ほどかかりました。

資格の取得後、親子関係は変わりましたか。

経営を体系的に学んだことで、むしろ自分の至らなさに気づきました。父のやり方には改善すべき点もありましたが、「こういう意図があったのか」「この部分には良さがあったのか」と理解できるようになったのです。

そこで一度、父と腹を割って話しました。それまでの自分の態度を謝り、「資格も取ったので、これから会社を良くするために頑張りたい」と伝えました。初めて、親子としてではなく、経営について話し合えた瞬間だったと思います。

それ以降、大げんかをすることはなくなりました。資金管理や採用など、任される仕事も徐々に増え、最終的には39歳で代表を引き継ぎました。

事業承継にあたり、社長が交代したと社内外にわかるように、社長交代式を大阪のホテルで開催しました。事業承継の知識が増えるにつれて、「誰」が社長であるかを明確にすることが大切とわかっていたので、父親に無理を言って、費用もかけて、開催しました。そこから私が本当に「社長」と呼ばれるようになり、社内もまとまるようになりました。

高橋さんの事業承継支援には、どのような特徴がありますか。

自分自身が後継者として事業承継を経験し、店舗の閉店や親子げんか、事業転換も経験していること。そして、中小企業診断士として経営を理論的に捉えられること。この両方を持っている点は強みだと思います。

後継者が直面する問題は、大きく「ヒト・カネ・ビジネスモデル」に分けられます。

「ヒト」では、先代の頃から働くベテラン社員や幹部とどう関係を築くか、若手をどう採用し育てるかが課題になります。

「ビジネスモデル」では、既存事業をさらに深めるのか、周辺領域へ広げるのか、私たちの会社のように業種そのものを変えるのかを考えなければなりません。

「カネ」では、後継者自身の財務力を高める教育に加え、自社株への対策も必要です。

事業承継は、単に社長の椅子を譲ることではありません。経営そのものを引き継ぐため、準備すべきことは多岐にわたります。その一つひとつを後継者の状況に合わせて整理し、実践できるよう支援しています。

著書『がんばらない2代目が成功する、事業「勝」継の極意 ~7つの戦略で乗っ取らせていただきます~』には、どのような思いを込めましたか。

これから会社を引き継ぐ後継者や、すでに引き継いだ後継社長に、スムーズに承継し、その後も長く経営を続けてもらうために書きました。

「2代目」としていますが、3代目でも4代目でも、引き継ぐという行為の本質は同じです。

本の中では、事業承継に向けて準備すべき七つのテーマを紹介しています。それらをきちんと準備すれば、承継の成功確率を高められるという考えです。出版から年月がたった今も、後継者に伝えたい思いは変わっていません。

「頑張らない」という言葉は、何もしなくてよいという意味ではありません。後継者が一人で抱え込み、気合と根性だけで乗り越えようとしないこと。すでにある知識や方法を学び、周囲の力を借りながら準備することが大切です。

一般社団法人次世代経営協会を立ち上げた理由を教えてください。

個別のコンサルティングだけでなく、後継者や後継社長が学び、実践したことを共有できる場が必要だと考えたからです。

協会には現在、業種や地域の異なる約30人の仲間がいます。毎月の定例会では、「新しい事業を始めたい」「取り組みがうまくいかない」といった身近な課題を持ち寄り、互いに意見を交わします。

最近であればAIの活用、以前であればカスタマーハラスメントへの対応など、その時々の経営課題も扱います。本質的な経営の話と、現場で直面する具体的なテーマの両方を話せる場です。

私は一方的に教えるのではなく、参加者同士が話しやすいように場を整えることを意識しています。後継社長専用の経営が学べる寺子屋のようなものです。

また、経営者や後継者だけでなく、事業承継を支援できる専門家の育成にも取り組んでいます。私一人で支援できる企業には限りがあるため、正しい事業承継の知識を伝えられる人を増やすことも大切だと考えています。

一般社団法人次世代経営協会のバナー

事業承継を控える経営者や後継者へ、伝えたいことはありますか。

私はセミナーで、事業承継を結婚式に例えることがあります。

結婚式は多くの人にとって一生に一度で、失敗したくないものです。だから、情報を集め、段取りを知り、準備をします。何も調べず、「自分たちらしさと想いだけでうまくいく」という人はほとんどいないでしょう。

事業承継も同じで、失敗したくありません。結婚式の失敗なら後から笑い話にできますが、事業承継の失敗はとりかえしがつきません。

うまく進めるための方法があるのに、それを知らず、準備もしないのは、経営者として大きなリスクです。

私は、地域の中小企業は日本の宝だと思っています。先の世代が残してくれた会社を、私たちの世代で途絶えさせたくありません。

今は少し厳しい状況にある会社でも、次の世代が立て直せる可能性があります。特に地方の中小企業をできる限り残し、そこにある仕事、夢、希望を次代につないでいきたいです。

世の中で悩んでいる2代目、3代目を支え、その人たちが会社をさらに次の世代へ残していく。そのために、これからも自分の経験と知識を伝え続けていきたいと思っています。

高橋 秀仁のプロフィール写真
プロフィール

高橋 秀仁

株式会社高橋 代表取締役

株式会社高橋 代表取締役/中小企業診断士。一般社団法人次世代経営協会を立ち上げ、全国の経営者・後継者が業種や地域を超えて学び合う場を運営している。自身も2代目として家業に入り、飲食店やアパレル小売事業を経て、経営コンサルティングと事務・経理・労務のアウトソーシングへと事業を転換。店舗の閉店や親子の衝突といった数々の失敗を経験し、中小企業診断士として体系的に学んだ知識と自らの経験を掛け合わせて、後継者の事業承継を支援している。著書に『がんばらない2代目が成功する、事業「勝」継の極意 ~7つの戦略で乗っ取らせていただきます~』。

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