インタビュー

PRのプロが選んだ「承継起業」という道。メディアを承継し、1年でロールアップM&Aへ|アングルクリエイト

PRのプロが選んだ「承継起業」という道。メディアを承継し、1年でロールアップM&Aへ|アングルクリエイト

「起業」ではなく「買収」で経営者になる——。株式会社アングルクリエイト代表取締役の飯島隼人氏は、ロケットスターが運営するサーチファンドのサーチャー第1号として、2025年1月にBtoBウェブメディア「Business Journal」を運営する会社を事業承継しました。承継からわずか1年あまりで業績を大きく伸ばし、2026年3月には動画制作事業のロールアップM&Aも実行。本記事では、大手PR会社の執行役員というキャリアを手放してまで「承継起業家」の道を選んだ理由と、承継後に実際に何が起きたのか、そのリアルを伺いました。

まず、自己紹介をお願いします。

株式会社アングルクリエイト代表取締役の飯島隼人です。福島県いわき市出身で、横浜国立大学を卒業後、2014年に株式会社ベクトルに入社し、子会社でBtoB企業のPRに強みを持つ株式会社アンティルに出向しました。約10年間、BtoB企業のコミュニケーション戦略の立案・実行に携わりながら営業部署を管掌し、2023年度には執行役員に就任。グループのスタートアップ投資や新規事業領域にも関わってきました。

その後、ロケットスターのサーチファンドプログラムに参画し、2024年にサーチ活動のための会社を立ち上げ、2025年1月にBtoBウェブメディア「Business Journal」を運営する会社を事業承継して、株式会社アングルクリエイトの代表取締役に就任しました。現在は、ウェブメディア、動画制作・YouTube運営、展示会支援、PR・AIO対策という4つの事業を展開する、BtoB特化型のコンテンツマーケティング会社を経営しています。

インタビューに答える株式会社アングルクリエイト代表取締役の飯島隼人さん

大手PR会社の執行役員というキャリアを捨ててまで、なぜ「サーチャー」という道を選んだのですか。

実は、私は「サーチャーになりたい」と思ってファンドを比較検討したわけではないんです。ご縁のあった経営者の方がサーチファンドを立ち上げるという話があり、その方から「サーチャーになってみないか」と声をかけていただいたのがきっかけでした。

当時はサーチファンドの知名度がまだ低く、前職で「サーチファンドのサーチャーになります」と伝えても、転職理由がまったく伝わらず苦労しました(笑)。それでも飛び込んだのは、ゼロからの起業とは違う形で、自分のこれまでの経験を経営にぶつけてみたかったからです。私は0→1よりも、既にあるものを1→10、10→100に伸ばすことに自分の強みがあると感じていました。既に事業と顧客と社員がいる会社を承継し、そこに自分の知見を注ぎ込んで成長させる。承継起業は、まさに自分に合った挑戦の形だと思えたんです。

承継先はどのように探したのですか。「Business Journal」との出会いを教えてください。

最初から「メディアを買おう」と決めていたわけではありません。福島出身なので、地元のローカル紙を承継できたら地域とつながる事業ができるのでは、と考えていた時期もありました。ただ実際に動いてみると、地方メディアは株主構成が複雑で、長い歴史ゆえに資本関係以外の力学も働いており、M&Aのハードルは高かった。

そこで改めて「自分は何がやりたいのか」を整理したとき、自分はビジネスそのものが好きで、PR会社時代の人脈やリソースを最も活かせるのはビジネスメディアだと気づき、スコープを絞り込みました。とはいえ、ビジネスメディアは絶対数が少ない領域です。自分でリストアップしても候補は20〜30社ほどで、そのうち7割は規模的に手が届かない。実質的に検討できるのは数社という世界でした。

だからこそ、業界に近い会食の場に足を運び、人づてにご縁を手繰り寄せる「地道な戦い方」をしました。最終的には会食で出会った方からのご紹介で、仲介会社やFAを介さず、売り手企業と直接お話しして承継に至りました。狭い選択肢に集中できたことが、むしろ良かったのだと思います。

承継後、会社はどう変わりましたか。実際にやったことを教えてください。

承継したBusiness Journalは2012年から続くメディアで、多くの読者基盤という大きな資産がありました。一方で、ウェブメディア業界全体が、AI検索の普及によるPV減少やアドネットワーク依存からの脱却という構造転換の真っ只中にあります。メディアの広告収益だけに頼るモデルのままでは、先細りは避けられません。

そこで取り組んだのが、メディアを中核に据えた事業の多角化です。Business Journalというメディアブランドの下に、クライアント企業向けのソリューションを積み上げていく。具体的には、BtoBマーケティングの仕組みを新たに構築してクライアントへの直接提案を始め、展示会支援サービスを立ち上げ、AI検索時代に対応する「AIO(AI検索最適化)」支援も新事業として開始しました。前職で培ったPR・BtoBコミュニケーションの知見を、承継した会社のメディア資産と掛け合わせた形です。

結果として、承継直後から複数社のご発注をいただき、業績は大きく伸びました。事業承継される会社は「業績が踊り場にある」ケースが多く、守りに入りがちです。しかし私の場合は「ここから成長させる」という第二創業のフェーズ。それまでとは真逆の方向に思い切り舵を切ることを意識しました。

承継から約1年で、動画制作事業のロールアップM&Aも実行されました。なぜそのスピード感で動けるのですか。

2026年3月に、YouTube運用を得意とする動画制作会社の事業を追加でM&Aしました。メディア運営とタイアップ動画やオリジナル番組の制作を掛け合わせることで、企画から撮影・編集・チャンネル運営まで一気通貫で提供できる体制を作るのが狙いです。

2社目・3社目をロールアップしていく方針は、実は最初からファンドと共有していた前提でした。ただ、動画事業のM&Aそのものは「実際に経営してみたら見えてきたチャンス」です。元々の戦略と現場での気づきがうまく重なった結果ですね。

スピード感を支えているのは、ファンドとの連携の密度です。ロケットスターのメンバーとは毎週必ずミーティングをしていて、多い週は3回ほどやり取りします。ファンドも含めてひとつのマネジメントチームとして企業価値向上に取り組んでいる感覚です。焦っているわけではありませんが、時間が無限にあるわけではない。だからこそ意思決定のスピードは常に意識しています。

順調に見えますが、承継後の苦労や、いま直面している課題はありますか。

一番大きいのは「採用」です。事業が急成長すると、既存のリソースだけでは回らなくなり、次の成長を支える人材が必要になります。前職では整備された仕組みや大企業のブランドという採用アセットがありましたが、今は違うやり方で仲間を集めなければならない。第二創業期ならではの悩みだと思います。

一方で、サーチャーという立場そのものが採用にプラスに働く面もあります。実際に自分で会社を経営していた方が「M&Aでなくてもジョインしていいですか」と声をかけてくださることもある。この挑戦自体に期待感を持ってもらえているのだと感じます。

それから、プレッシャーは常にあります。ファンドから支援を受けて経営している以上、結果を出す責任がある。どこまでいっても「人から預かっている会社」という感覚が消えることはなくて、だからこそ偉そうに振る舞うことはできないし、誰よりも自分が一番働いている自負があります(笑)。

今年の夏には、一般社団法人日本サーチファンド協会のカンファレンスにも登壇されました。サーチファンドというカテゴリの熱量は、年々上がっていると感じますか。

はい、体感として明らかに上がっています。私がこの世界に入った2年ほど前は「サーチファンドって何?」という反応がほとんどで、前職に転職理由を説明しても伝わらないくらいでした。それが今では、7月に早稲田大学で「JAPAN SEARCH FUND CONFERENCE 2026」という専門カンファレンスが開かれ、国内外の第一線のプレイヤーが一堂に会するまでになりました。経営者の高齢化と後継者不在が進み、親族外への承継が当たり前になりつつある時代背景を考えると、この流れはまだ加速すると思います。

登壇のお話をいただいたのは、承継から約1年半で、事業を伸ばしながらロールアップM&Aまで実行している「実践中のサーチャー」という立場が、これから挑戦する人の参考になると考えていただけたからだと思います。当日は、サーチファンドで承継した”その後”に実際何が起きるのか——きれいごとだけではないリアルな手触りをお話ししました。承継してからが本番であること、ファンドと一枚岩で動く経営の実際、そして苦労も含めた等身大の話です。会場の熱気からも、経営者というキャリアへの関心の高まりを肌で感じました。

最後に、事業承継を考えているオーナー経営者や、承継起業に関心のある読者へメッセージをお願いします。

まず、後継者がいないことに悩むオーナー経営者の方へ。第三者承継は、会社を「手放す」ことではなく、育ててきた事業に新しい成長のエンジンを載せる選択肢だと、承継した側の立場から実感しています。私自身、前のオーナーが築いてきたメディアと読者という資産があったからこそ、そこに自分の知見を掛け合わせて成長を実現できました。承継とは、資産と想いを引き継ぎながら、次の時代に合わせて事業を進化させることだと思います。

そして、経営者というキャリアに関心のある方へ。キャリアは直線ではなく、螺旋階段のように少しずつ軸をずらしながら上がっていくものだ、という考え方に私は共感しています。起業だけが挑戦の形ではありません。アントレプレナーシップを持つすべての人が起業家になるわけではない。既にある会社を承継し、経営者として価値を高めていくサーチャーという道は、「人と違う挑戦をしたい」と思う人にとって、新しい時代の選択肢になり得ると思います。私自身がその実例になれるよう、これからも挑戦を続けていきます。

飯島 隼人のプロフィール写真
プロフィール

飯島 隼人 Iijima Hayato

株式会社アングルクリエイト 代表取締役

福島県いわき市出身。横浜国立大学卒業後、2014年に株式会社ベクトルへ入社し、子会社の株式会社アンティルに出向。BtoB企業のコミュニケーション戦略立案・実行を強みに多数のクライアント業務に従事しながら営業部署を管掌し、2023年度に同社執行役員に就任。ロケットスターのサーチファンドプログラムに参画し、2025年1月、BtoBウェブメディア「Business Journal」を運営する株式会社アングルクリエイト代表取締役に就任。2026年3月には動画制作事業のロールアップM&Aを実行し、メディア・動画・展示会・PR/AIOの4事業を展開するBtoB特化型コンテンツマーケティング会社として成長を牽引している。

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