「資産を渡すだけでは、事業承継ではない」家業の危機を継いだ税理士が説く、三代続く賃貸経営|Knees bee税理士法人
「大家さん専門」の税理士法人として、賃貸経営の事業計画や承継を支援するKnees bee税理士法人。代表の渡邊浩滋さん自身も、もともとは家業を継ぐつもりがなかった後継者の一人だった。ある日、両親から告げられたのは「固定資産税が払えない」という一言。資産はあるのに、手元に現金がない。ゼロから経営を学びながら再建に奔走したその経験から、単に不動産という「資産」を渡すだけでは、事業承継にはならないと語る。後継者に何を引き継ぎ、いつから準備すべきなのか。自身の経験と数多くの大家を支援してきた視点から伺った。
まず、現在の事業内容について教えてください。
Knees bee税理士法人は、大家さんに99%専門特化している税理士法人です。かなり珍しい税理士事務所だと思います。
一般的な税理士業務では、確定申告書を作ることが中心になりがちです。ただ、大家さんの経営を見ると、申告書だけでは実際にどれだけお金が残っているのか、いわゆるキャッシュフローが見えないんですね。
例えば、多くの大家さんは借り入れをして賃貸経営をしています。確定申告書には借入金の利息は経費として出てきますが、元本の返済部分は出てきません。そのため、申告上は黒字で順調に見えていても、実際には返済によって手元にお金が残っていないということがあります。
そこで私たちは、確定申告をするだけでなく、事業計画を重視しています。現在のキャッシュフローだけではなく、2年後、3年後にどう推移していくのかまで数字に落とし込み、経営上の問題がないかを一緒に確認していくことを特徴としています。
「Knees bee」という名前には、どのような意味が込められているのでしょうか?
もともとは「Knees」という名前でした。膝を突き合わせるように、大家さん一人ひとりときちんと向き合いたいという意味を込めていたんです。
ただ、英語の表現を調べる中で、「knees」には別のニュアンスもあることが分かりました。一方で、「bee’s knees」というスラングには「最高のもの」「うってつけのもの」といった意味があります。
それなら後ろに「bee」を付けようと。それがKnees beeという名前になりました。
大家さんと膝を突き合わせるように向き合い、その方にとって最適な存在になる。そんな想いを込めています。
渡邊さんご自身も、実家の賃貸経営を引き継いだ経験があるそうですね。もともと家業を継ぐつもりだったのでしょうか?
全くありませんでした。
私は次男なので、子どもの頃から「長男である兄が引き継ぐものだ」と勝手に思い込んでいたんです。実家のことにも全く興味がなくて、自分は自分の力で生きていこうと思っていました。
もともとは司法書士を目指し、その後、税理士の勉強をするために会社を辞めて実家に戻っていました。その頃、親から言われたのが「固定資産税が払えない」という一言でした。
耳を疑いました。実家は、祖父が相続対策で建てたアパートが5棟86戸あるのです。毎月それだけの家賃収入があるはずなのに、なぜ税金が払えないのか。
実際に通帳などの数字を見てみると、本当にお金がありませんでした。家賃収入がまるごと生活費に消えていて、預金残高はほぼゼロ。このままでは破産も時間の問題という状態でした。
当時、顧問税理士にも資金繰りの相談をしました。でも返ってきたのは「売却すれば借入金は返済できますよ」という答えだけだったんです。
経営をどう立て直すかという話にはならなかった。このとき、大家さんは本当に相談できる相手がいないんだと痛感しました。
大家さんというと、世間では「地主だからお金を持っている」「富裕層だ」というイメージを持たれやすいと思います。でも実態は全く違った。そこで初めて、賃貸経営もきちんとお金を管理して経営しなければ成り立たない事業なのだと実感しました。
実家が大変な状態だと分かったとき、まず兄に「引き継ぐ気があるなら、今からちゃんとやってほしい」と話しました。
ただ、兄は当時エアロビクスのインストラクターをしていて、自分の仕事に集中したい時期だった。「やりたいなら自分でやってくれ」と言われたので、「じゃあ自分がやる」と。それが私が実家の賃貸経営に関わり始めたきっかけです。
ただ、父は今も健在ですから、そういう意味では事業承継そのものが完全に終わったわけではありません。今後どうしていくのかという問題は、私自身にもまだ残っています。
実際に経営を引き継いだ当時は、どのような状況だったのでしょうか?
最初は絶望しましたね。
自分自身、賃貸経営をやった経験がありませんでしたし、「なぜ自分がこんなことをやらなければいけないんだ」「なぜこんなマイナスの状態からスタートしなければいけないんだ」と思っていました。
先も見えないですし、夜も眠れないくらい追い詰められていました。
だから、まずは勉強するしかないと思いました。賃貸経営に関する本を読み漁って、おそらく1年間で100冊くらい読んだと思います。セミナーにもたくさん参加しました。
そうしているうちに、相談に乗ってくれる方や管理会社の方など、助けてくれる人たちが少しずつ現れて、希望が見えてきました。
本やセミナーで学んだことも、とにかく片っ端から実践しました。
当時は空室が20室ほどありました。そこで、近隣の不動産会社に自分でチラシを持って営業に行き、「この物件をお願いします」と回りました。
すると、不動産会社の方から「こんないい物件があったんですね」と言われたんです。
築20年ほど経っている物件なのに、存在そのものを知られていなかった。それで、「空室なのは物件が悪いからではなく、単純に知られていないだけなのではないか」と気づきました。
実際に営業を続けることで、3カ月ほどで満室にすることができました。
同時に、支出も見直しました。当時はお金がないにもかかわらず、生活水準が下がらず、家計からどんどんお金が出ていく状況もありました。収入を増やすだけではなく、出ていくお金を減らすことにも取り組みました。
リフォーム資金の借り入れ、管理会社の変更、節税、法人化といった対策を重ねて、預金残高0円だったところから1,400万円を残せるところまで改善できました。
税理士として考えることと、経営者・後継者として考えることには違いがありましたか?
ありましたね。
税理士はどうしても「税金」に目が向きます。お金がないと言われると、まず節税を考える。でも、自分で経営を経験すると、それだけではないと分かりました。
節税は、経営改善の選択肢の一つにすぎません。
私は、手元にお金を残す方法は大きく三つしかないと思っています。
- 収入を上げる
- 支出を抑える
- 節税する
この三つの中で、今の状況なら何をやるべきなのかを考えなければいけません。
大家さんから「お金が残らないんです」と相談されて、「なぜだと思いますか」と聞くと、多くの方が「税金が高いからです」と答えます。
でも数字を見ると、空室がたくさんあったり、必要以上に経費を使っていたりすることがある。そこで「まずこっちではないですか」と切り込んでいく。
税金だけを見るのではなく、経営そのものを見る。それは、自分自身が大家として経営を経験したからこその視点だと思います。
賃貸経営では、なぜ経営者としての意識が持たれにくいのでしょうか?
一つは、主体性の問題だと思います。
地主さんの場合、「自分は賃貸経営をやるんだ」と決めて始めた人は、実はそれほど多くありません。不動産会社に勧められた、銀行に勧められた、税理士に勧められたという形で始めた方も多い。
そうすると、「次にどうすればいいか」ということまで誰かに依存してしまって、自分で考えなくなる場合があります。
私は大家さんを助けたいと思っていますが、私たちに依存してほしいとは思っていません。
最終的には、自分で考えて、自分で経営できるようになってほしい。賃貸経営をきちんと「事業」として捉えてもらうことが大切だと思っています。
一般企業の事業承継と比較したとき、賃貸経営の承継にはどのような課題がありますか?
一番大きな問題は、賃貸経営の承継を「事業承継」だと認識している人が少ないことです。
多くの場合、「資産承継」として考えられています。
「不動産を子どもに引き継げば終わり」「遺言書を書いておけばいい」と考えられている。でも、私はそこが違うと思っています。
一般の会社だったら、会社の株式や資産だけを渡せば、それで経営できるとは誰も思わないですよね。誰がどのように経営するのか、仕事をどう引き継ぐのかということまで考えるはずです。
賃貸経営も同じです。
不動産という「箱」だけを渡されても、後継者はどう経営していいか分かりません。
生前から「賃貸経営とはこういうものだ」「こうやって判断するんだ」ということを伝えていかなければ、相続した瞬間に「もうやりたくない」となり、売却して終わってしまうかもしれません。
資産を承継するだけではなく、経営まで承継する。その発想を持ってもらうことが重要だと考えています。
具体的には、後継者をどのように賃貸経営へ巻き込んでいくのでしょうか?
まず、現在の状況を整理して、お子さん自身が賃貸経営に興味を持っているかどうかを確認します。
興味があるのであれば、私は早い段階から巻き込んだ方がいいと思っています。
一つの方法として、法人化して賃貸経営を会社経営にし、お子さんに役員として入ってもらうことを提案することがあります。
私は「まず責任を持つこと」が大切だと考えています。
責任があるから、「自分が何とかしなければ」と自覚が生まれる。
これは自分自身も同じでした。
家業に関わり始めた当初は、「自分がつくった借金ではないし、自分が建てた物件でもない」と、どこか人ごとだったんです。
でも、それでは何も変わりませんでした。
あるとき腹をくくって、「全部自分が責任を持ってやろう」と決めました。会社の代表も父から自分に代わり、責任を背負うことにした。
すると、不思議なくらい気持ちがすっきりして、経営が楽しくなったんです。
部屋の設備を良くしたり、エントランスに花壇を置いたりすると、入居者の方に喜んでもらえる。自分がやったことの結果がダイレクトに返ってくる。
「経営ってこういうことなのか」と、そこで初めて分かり始めました。
後継者にも、そういう経験をしてもらう必要があると思っています。
後継者には、どのような力を身につけてもらう必要がありますか?
一番大事なのは、判断や決断をする経験だと思います。
賃貸経営では、多くの業務を外部に任せられます。入居者の募集や日常の管理は、管理会社にお願いできます。
でも絶対に他人に任せられないものがあります。
それが「判断」と「決断」です。
例えば、大規模修繕をするのか、いくらかけるのか、どの会社に頼むのか。最終的にはオーナー自身が決めなければいけません。
ところが、そうした決断に慣れていない人にとっては、それ自体が大きな苦痛になります。
だから、親が元気なうちから少しずつ判断を任せる。会社に入ってもらって、一緒に経営を経験する。そうした準備が必要だと思います。
後継者から「家業を継ぎたくない」と言われた場合は、どう考えるべきでしょうか?
まず、「なぜ継ぎたくないのか」をきちんと聞くべきだと思います。
ただ、理由はある程度分かることも多いです。
築30年、40年で建物はボロボロ。家賃も下がっている。借入金もまだ残っている。
そんな状態の物件を渡されて、「継いでほしい」と言われても、誰が引き継ぎたいと思うのか、という話ですよね。
ここでも、資産承継の発想になってしまっています。
「不動産という箱さえあれば、子どもは喜んで引き継ぐだろう」と考えてしまう。でも、その箱がどんな状態なのかが重要です。
親の世代で、後継者が「これなら引き継ぎたい」と思える状態に仕上げておかなければいけません。
必要であれば大規模修繕をして見た目を整える。キャッシュフローを改善して、きちんとお金が残る経営にする。
事業承継というのは、ただ渡す相手を決めることではなく、「引き継ぎたいと思える事業」にして渡すことでもあると思います。
不動産やお金以外に、次の世代へ承継すべきものは何でしょうか?
私は「思い入れ」が非常に大事だと思っています。
後継者からすると、「自分が建てた物件ではない」「自分が借りたお金ではない」となりやすい。そこに思い入れがないんですよね。
だから、例えば建て替えをするのであれば、親子で一緒にやってほしいと伝えています。
大規模修繕でも同じです。
親子で一緒に業者と話をして、悩んで、判断する。そうした苦労を一緒に経験することによって、「自分もこの物件に関わった」という思い入れが生まれます。
何の経験もなく、ある日突然「今日からあなたのものです」と渡されても、思い入れは生まれません。
承継する前から一緒に経営することが大切だと思います。
事業承継の準備は、いつ頃から始めるのが理想でしょうか?
できる限り早い方がいいと思います。
親御さんが70代になってから相続や承継を考え始めると、お子さんは40代、50代になっています。
40代、50代は会社員としても非常に忙しい時期です。仕事でも重要な役割を任されていて、家庭もある。その状態で「実家の賃貸経営も引き継いで」と言われても、なかなか余裕がありません。
できれば大学生や20代など、もっと早い時期から経営に触れてもらう。
最初から全てを任せる必要はありません。少しずつ経験を積ませていくことが重要です。
物件の売却や建て替え、法人化など、承継に関する大きな経営判断は何を基準に考えるべきですか?
一つは、相続税を払えるのか、今の資産をそのまま維持できるのかという点です。
加えて、現在の物件を今後も維持できるのか、建て替えるべきなのかといった事業面の検討も必要になります。
ですから私は、事業計画と相続のシミュレーションをセットで考えることを勧めています。
相続だけを見てもいけないですし、目先の賃貸経営だけを見てもいけない。
将来の数字を見ながら、どのタイミングで何をすべきなのか、道筋を整えていくことが必要です。
人口減少や空き家の増加が進む中で、今後は賃貸経営の事業承継も難しくなっていくのでしょうか?
難易度は上がると思います。特に地方は厳しくなっていくでしょう。
実際、「地方だからもう先がないのではないか」「こんな物件を子どもに引き継いでいいのだろうか」と悩んでいる方も多くいます。
ただ、私はやり方次第だと思っています。
地方の地主さんが悩んでいる一方で、地方で物件を買い増している不動産投資家もいます。
彼らに話を聞くと、「地方はむしろ競争相手が少ない」「少し工夫するだけで、その地域の中で一番になれる」と考えている人もいる。
つまり、「地方だから無理」と決まっているわけではありません。
まだやれることをやっていないケースも多いと思います。
もちろん、全員が生き残れるとは思いません。ただ、これからは行動する人とそうでない人が、よりはっきり分かれていくのではないでしょうか。
Knees beeでは「三代継続する賃貸経営」を掲げています。なぜ「三代」なのでしょうか?
昔から「地主は三代で不動産がなくなる」と言われることがあります。
相続を繰り返す中で、相続税などによって資産が徐々に減っていくことを表した言葉です。
私たちは、それを逆手に取りたいと思っています。
「だったら、三代継続させよう」と。
相続税があったとしても、きちんと経営を続けられる状態をつくる。それが私たちのミッションです。
賃貸経営には、他の事業と比べて将来の数字を予測しやすいという特徴があります。
例えば飲食店で「3年後の売上はいくらですか」と聞かれても、正確に答えるのは難しいですよね。でも賃貸経営は、現在の家賃や入居状況、経費、借入返済などから、将来のキャッシュフローを比較的計画しやすい。
だからこそ、きちんと数字を見て改善していけば、長く続く賃貸経営をつくることは可能だと思っています。
そして、それを私一人が支援するのではなく、組織として提供できるようにしたい。
将来、私がいなくなったとしても、Knees beeという組織として大家さんを支え続けられる状態をつくる。それが目指しているところです。
最後に、今後実現していきたいことを教えてください。
全国展開を考えています。
ありがたいことに全国からお問い合わせをいただいていますが、まだまだ地方の地主さん、大家さんには私たちのサービスが届いていないと思っています。
全国各地でセミナーをさせていただくと、地方の大家さんから本当に多くの相談を受けます。
そして、よく言われるのが「相談する人がいない」ということです。
「先生みたいな人がこの地域にはいない」と言われることもあります。
だからこそ、地域の中に相談できる相手がいることが重要だと思っています。
今後は全国に拠点を展開しながら、地域の地主さんや大家さんの近くで支援できる体制をつくっていきたいですね。
渡邊 浩滋 Watanabe Koji
Knees bee税理士法人 代表。大家業に99%専門特化した税理士法人を率いる。次男であり家業を継ぐつもりはなく、司法書士を目指したのち、税理士試験の勉強のために会社を辞めて実家へ戻る。その矢先、両親から「固定資産税が払えない」と告げられた。祖父が相続対策で建てたアパート5棟86戸を持ちながら、家賃収入は生活費に消え、預金残高はほぼゼロ。1年で賃貸経営の本を約100冊読み込み、空室20室を自ら不動産会社へ営業して3カ月で満室化。管理会社の変更や法人化などの対策を重ね、預金残高0円から1,400万円を残す経営へ立て直した。この経験から、確定申告にとどまらず事業計画を重視する支援を行い、「三代継続する賃貸経営」をミッションに掲げる。