インタビュー

「父に会社を閉じさせたくなかった」老舗企業の六代目が挑む、圧力に頼らない組織づくり|CocoroManagements

「父に会社を閉じさせたくなかった」老舗企業の六代目が挑む、圧力に頼らない組織づくり|CocoroManagements

1877年創業の文具卸売会社をルーツに持つ、CocoroManagements(ココロマネジメンツ)株式会社。六代目の岩出優氏が事業を承継した時、かつての主力だった文具卸売事業はすでに終了していました。それでも「父に会社を閉じさせたくなかった」と会社を引き継ぎ、現在は心理学の知見を生かした人材定着・組織づくりの支援を展開しています。岩出氏自身も、前職では所属組織の離職率が100%になる経験をし、その立て直しに奔走しました。事業承継において先代のマネジメントをどう受け継ぎ、何を変えるべきなのか。岩出氏に伺いました。

まず、岩出さんのこれまでの経歴と、CocoroManagements株式会社について教えてください。

CocoroManagements株式会社を経営している岩出優(いわでゆう)と申します。私は六代目にあたり、もともとの会社は「イワデ株式会社」という、苗字を冠した会社でした。

創業は1877年で、長く文房具の卸売業を営んできた会社です。三代目の祖父の頃には、売上規模が50億円ほど、社員も100人を超える規模まで成長したと聞いています。

ただ、その後は通信販売やインターネット販売などが普及していく中で、従来型の文具卸というビジネス自体が厳しくなっていきました。五代目である父の代には文具事業を畳み、会社としては保有している不動産を貸して継続している状態になっていました。

そこから私が会社を継ぐか、継がないかという話になりました。

私は当時、会計事務所内の社会保険労務士法人に勤めていました。

その経験を生かし、2019年1月1日に事業承継して、現在は人材定着を中心とした組織コンサルティングを行っています。

すでに文具卸売事業がなくなっていた中で、それでも会社を継ごうと思ったのはなぜでしょうか?

やはり、これだけ長く続いてきた会社を途絶えさせるのは忍びなかったんです。

もっと率直に言うと、「父親に会社を閉じさせるのが嫌だった」という気持ちが大きかったですね。

それなら自分が継いで、もう一度会社を盛り立てることができれば、みんなにとって良いことなんじゃないかと思いました。

ただ、継いだとはいっても、それまでの文具卸の事業をそのまま引き継いだわけではありません。事業として残っていたものは限られていたので、感覚としてはゼロから新しい仕事を立ち上げる事業承継でした。

一般的な事業承継というと、既存の事業や取引先、従業員を引き継ぐイメージが強いかもしれません。私の場合は「会社そのものと歴史を受け継ぎ、事業は新しくつくる」という承継でした。

「イワデ株式会社」から「CocoroManagements株式会社」へ社名も変更されています。どのような思いがあったのでしょうか?

一つはマーケティングの観点です。

「イワデ株式会社」と聞いても、何をしている会社なのか分からないですよね。昔は創業者や経営者の苗字をそのまま会社名にするケースも多かったと思います。

当時は社名が事業に及ぼす影響は大きくなかったのかもしれませんが、お客様が求めているものを提供しなければ選ばれない現代においては、社名を見ただけでも「何をしている会社なのか」が想像できる名前に変えた方がいいと思いました。

私たちは、人の心理をベースにした組織コンサルティングを行っています。そこで「こころ」と、組織運営を意味する「マネジメント」を組み合わせて、現在の社名にしました。

ただ、社名を変えるまでには葛藤がありました。

初代から五代目まで受け継がれてきた「イワデ株式会社」という名前を、自分の代で変えてしまって本当にいいのだろうか、と。そこで一時期は「イワデ株式会社CocoroManagements」という、両方の名前をつなげた社名にしていました。

それを2、3年続けたのですが、やはりごちゃごちゃして違和感がありました。最終的に父へ「社名を変えていい?」と聞いたところ、「いいよ」とあっさり言われました。

自分が思っていた以上に、先代は気にしていなかったんですよね。

傍から見れば大した話ではないのですが、社名は会社の顔であり、歴史であり、私にとっては大きな問題だったのです。

事業承継では、後継者自身が「先代や先祖が大切にしてきたものを変えてはいけない」という想いもあるのではと思います。私自身、「先代たちへの敬意」という要素が影響し、社名一つを変えるにも数年の時間がかかりました。

こういったことにも、正論だけでは表現しきれない「こころの動き」が生まれるのです。

現在行っている「人材定着支援」とは、具体的にどのようなものでしょうか?

「人が定着する会社とは何か?」をすごく簡単に言えば、「いい会社に人は定着する」ですよね。

ですから、人材定着コンサルティングと打ち出していますが、実際には組織づくり全般のコンサルティングです。「人材定着」という言葉にしているのは、その方が経営者の悩みとして分かりやすいからです。

人が会社を辞める理由は、大きく三つに整理できます。

  • 信頼できない
  • 不安、不満、不十分といった「不」の感情がある
  • 働きがいがない

まず、土台となる重要な要素が信頼です。

私の考える信頼とは、未来の予測可能性のことです。「この人と関わっても嫌なことをされないだろう」「この人といれば良いことがありそうだ」と思えることです。

約束を破る、言っていることと行動が一致しない、感情的・突発的に行動するといったことが続けば、信頼は失われます。

信頼を確保する、という観点では、ハラスメントの予防なども重要な支援の一つです。

不満や不安については、社員アンケートとヒアリングを実施します。給与や残業といった労働条件だけではなく、人間関係の問題が出てくることも多いです。そこで不満足要因を見つけて一つずつ改善していきます。

働きがいについては「成長」や「承認」「貢献」という観点から考えていきます。

別の切り口では、組織づくりを「人材力×仕組み×ココロ」という三つに分けています。人材力であれば採用導線づくり。仕組みであれば理念や人事評価制度、就業規則。ココロの部分では理念浸透やコミュニケーションなどです。

どれか一つだけではなく、この三つを合わせて組織をつくっていくことが重要だと考えています。

岩出さんが「人の心理」を軸にした組織づくりに取り組むようになった原体験について教えてください。

前職の経験が非常に大きいです。

かなりトップダウンの強い職場でした。トップが「右」と言えば全員が右を向く。逆にトップが最初に意見を言わないと、みんな「何と言えばいいんだろう」と困ってしまうような組織でした。

会議でも、まずトップが話し、その後に役職者たちが「代表のおっしゃる通りです」と続いていく。

そうした組織では、建前と本音のギャップが大きくなってしまいます。

本当は「こうした方がいい」と思っていても言えない。成果が出たことは報告しても、問題が発生したことは表に出しづらい。非常に窮屈な環境でした。

私が入社した頃には、先輩社員が次々と辞めてしまい、5人の組織で5人が退職する、離職率100%という状態も経験しました。

私自身もかなりつらかったです。

「隠し事をしたり、嘘をついたりするのではなく、正直に働ける組織にできないのだろうか」と考えるようになりました。正直に、素直に働くことができれば、人も定着するのではないかと。

入社から9カ月ほどで所長になったのですが、所長といっても最初は私しかいませんでした。そこから新しいメンバーを迎える中で、以前とは組織のつくり方を変えていきました。

できるだけ圧力を使わず、信頼関係をベースに組織を動かすことを大切にしました。

結果として、私が在任していた間に辞めた社員は一人で、その社員も私が退職を伝えたことをきっかけに「辞める」と言い出したものでした。

すべてが完璧だったとは思いませんが、人が「ここで働き続けよう」と思える組織には近づけたのではないかと思っています。

離職率100%だった環境から、具体的に何を変えていったのでしょうか?

ものすごく難しいことをしたように聞こえるかもしれませんが、行ったことは「後輩の話を聞くこと」です。

当時は入社9カ月ですから、社労士としての実務経験もまだ十分ではありませんでした。肩書きは所長でも、自分が一番仕事を知っているわけではありません。

だから、「今、何に悩んでいるのか」「これからどうしていきたいのか」を聞きました。その上で「組織として今こういう状態だから、ここを一緒に改善していこう」と対話をしていきました。

同時に、業務の合理化も徹底しました。

当時は社会保険手続きなど利益率の低い業務に多くの時間を取られ、残業をしなければ仕事が終わらない状態でした。

そこで、業務を一つずつ標準化していきました。

例えば社会保険の説明一つを取っても、それまでは年金事務所ごとに異なるさまざまな資料を持ってお客様のところへ行っていました。その結果、説明不足やミス、漏れなどが多く発生していました。それを「社会保険に加入する条件」「保険料」「メリット」「必要な手続き」「必要な情報」といった共通項に整理して、一枚の資料にまとめました。

そうすると、その一枚を持っていけば誰でも一定水準の説明ができるようになりました。仕事の手順が標準化されたことで、説明漏れやミスも減っていったのです。

こうした資料を一週間に一枚ほどのペースで、コツコツとつくっていきました。

さらに、空いた時間で人材定着やオンボーディング、世代による価値観の違いと対策など、より付加価値の高いコンサルティング業務へ仕事を変えていきました。

単純に「人に優しくすれば組織が良くなる」という話ではありません。対話を増やす一方で、業務を仕組み化し、利益を出せる組織へ変えていく。対話と仕組み化の両方のアプローチが必要でした。

その経験から、なぜ心理学を学ぶ必要があると感じたのでしょうか?

社会保険労務士と中小企業診断士の資格を取得して、周囲からは「それなら独立できるのでは」と言われることもありました。

ただ、自分では「何かが足りない」と感じていたんです。

それが心理の部分でした。

経営学や法律だけでは、人がなぜ動くのかを完全には説明できません。そこに心理学が加わることで、仕事の再現性や精度が大きく高まった感覚がありました。

企業活動は、お金、時間、法律といった「正論」で動いています。それらを追求することは当然重要です。

一方で、人間は生まれながらに感情を持っています。

正しいか間違っているかだけではなく、「快か不快か」「好きか嫌いか」「納得できるかできないか」という別の軸でも動いているわけです。

経営では、この感情の軸が盲点になりやすい。

「正しいことを言っているのに、なぜ社員が動かないんだろう」と悩む経営者は多いと思います。でも、「正しい」と「納得できる」は別なんです。

心理学を学んだことで、その部分を補完できるようになりました。それが現在の「こころ」をベースにしたコンサルティングにつながっています。

事業承継では、先代のマネジメント方法を後継者が無意識に引き継いでしまうこともあるのでしょうか?

あると思います。

人は、自分が経験してきたことを無意識に繰り返してしまうことがあります。

組織マネジメントでも、先代から圧力によるマネジメントを受けた経験しかなければ、自分が経営者になった時にも同じ方法を使ってしまう可能性があります。

ただ、特に注意した方がいいのは、先代と後継者ではタイプが違うということです。

先代が非常にカリスマ性のある経営者で、「俺がやれと言っているんだからやれ」という圧力で組織を動かせたとしても、後継者に同じカリスマ性があるとは限りません。

それなのに無理をして先代のように振る舞い、圧力で人を動かそうとすると、自分自身の強みも発揮できなくなります。

また、時代そのものも変わっています。

高成長の時代から低成長の時代へ変わり、働き手も不足し、労働者側の立場は相対的に強くなっています。ハラスメントへの意識も大きく変化しました。

そうした環境の中で、昔と同じように圧力だけで人を動かす方法はフィットしにくくなっています。

だからこそ、後継者は先代と同じ経営者になろうとするのではなく、自分なりの方法を考えていく必要があります。ここで出てくるのが、カリスマ性ではなく、信頼関係を土台にして組織を動かすという選択肢です。

圧力型の組織から信頼型の組織へ変えていく場合、古参社員などから反発が起きることはありませんか?

違和感は出ると思います。

「先代はもっと決断力があって、ビシビシ組織を動かしていた。それに比べて新しい社長は物静かで頼りない」と見られることもあるでしょう。

カリスマ型の経営では、細かな仕組みがなくても「社長がやれと言ったからやる」で物事が進む場合があります。

それが使えなくなれば、その分、ルールや仕組みなどの論理によって組織を動かす必要が出てきます。

特にベテラン社員は、これまでのやり方の中で長く働いてきた人たちです。その環境に大きな不満がなかったからこそ、長く会社に残っているとも考えられます。

ですから、突然「今日からやり方を変えます」と言えば反発が起こるのは当然です。

重要なのは、「なぜ変えるのか」を説明することです。

その時に、「あなたたちの考え方は古い」と否定してはいけません。これまでの功績や会社を支えてきたことへの敬意を示した上で、「時代が変化している。その変化に会社として適応するために、これからはこうしていきたい」と伝えるのです。

事業承継では、変えることだけでなく、これまでを尊重しながら変えるプロセスが非常に重要だと思います。

社員との関係に悩んでいる後継者が、明日からできることはありますか?

すごくシンプルですが、「プラスの感情を生む関わりができていますか?」ということだと思います。

例えば、朝出社して社員と顔を合わせる場面を想像してください。

このような場面で、自分から挨拶をしない経営者がいたりします。

経営者の中には、「部下から先に挨拶するのが当たり前だろう」と考えているのかもしれません。

一見、ただの挨拶の話ですが、この経営者の行動には「トップダウンの圧力で人を動かす」という考え方の癖が表れているのかもしれません。

人を動かす方法は、大きく三つに分類できます。

  • 承認する、感謝するといったプラスの感情を生む関わり(↑)
  • 指摘や叱責といったマイナスの感情を生む関わり(↓)
  • ルールや連絡事項によって動かす方法。特別の感情を生むことの少ない関わり(→)

経営者の中には、指摘とルール(↓と→)ばかりを使い、相手を承認したり感謝を伝えたりすること(↑)がほとんどない人がいます。

それでは関係性が構築できなくて当然です。

社員からすれば、否定されるかルールを押し付けられるだけの相手とは、必要以上に関わりたいとは思いません。

その結果として社員との距離が遠くなっているのに、「経営者は孤独だ」と言っているケースもあります。「いや、原因は自分自身ですよ」と。

最近は社員の感情を考えず、正論だけで社員を動かす組織マネジメント法もあるようですが、私は正論だけでなく感情論も踏まえて考えることは避けられないことだと思います。

お金、時間、ルールなどの「正論」は、人間が後天的に作った社会基準に過ぎず、人間が先天的に持つ「感情」の影響力を超えることは難しいと思います。

まずは挨拶する。感謝を伝える。相手の話を聞く。

本当に基本的なことですが、相手にプラスの感情を生む関わりが出来ているかを振り返ることが重要です。

現代では、経営者一人が正解を持っていて、それを上から下へ伝えれば会社が成長する、という時代ではなくなっています。正解が分からないからこそ、さまざまな人の意見を聞き、多様な可能性を試していく必要があります。

私たちの支援でも、エゴグラムを使い、組織のメンバーそれぞれの価値観の違いなど、組織の多様性を可視化することがあります。

同じ出来事でも、価値観が異なれば捉え方はまったく違います。

そうした違いに触れてもらい、「自分の考えが常に正しい」という感覚を少しずつ緩めていきます。

事業承継においても、先代の正解をそのまま引き継ぐのでも、自分の正解を社員に押し付けるのでもなく、お互いの違いを理解しながら、その会社なりの新しい組織をつくっていくことが大切なのではないでしょうか。

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