インタビュー

社員の半数が入れ替わった一年を「次世代型の町工場」への飛躍の契機に|岡田商会

社員の半数が入れ替わった一年を「次世代型の町工場」への飛躍の契機に|岡田商会

2026年11月6日、株式会社岡田商会の岡山耕二郎さんが代表取締役に就任します。この一年、17名の社員のうち10名が入れ替わるという、会社にとって大きな転換期を迎えました。自ら現場に入り、仲間とともに会社を根本からアップデートした濃密な一年と、事業承継にかける思いを伺いました。

前回2025年9月にインタビューをしましたが、この一年は大きな変化があったそうですね。

はい、2025年の秋からの一年間は、弊社にとって一つの時代の区切りとも言えるタイミングでした。

長年、B2Bの材料卸事業を牽引してくれていた部長が退職することになったのです。それに伴いEC部門の店長をはじめ、出荷業務やネット通販の受注を担当してくれていたスタッフたちも、それぞれの新しい道へ進むことになりました。当時の社員17名のうち、社歴10年ほどの業務に慣れた中堅層を中心に、過半数の10名が入れ替わることになったのです。

これだけ多くの方が一度に抜けるとなると、さすがに「現場が回らなくなるのでは」という強い危機感がありました。

ただ、私たちにとって非常にありがたかったのは、これまで地道に続けてきたPRの力がここで活きたことです。過去にテレビ番組等で紹介されたこともあり、採用募集をかけると、トータルで350名もの方が応募してくださったんです。「テレビを見て興味を持った」「こんな面白い取り組みをしている会社があると知った」と集まってくださった新しい方々のおかげで、17名という体制を維持することができました。

体制が変わる中、岡山さんご自身も現場の最前線に入られたと伺いました。

はい。業務の引き継ぎも兼ねて、私自身がネット通販の受注処理や出荷の現場に入りました。そこで実際に手を動かしてみて初めて、いつの間にか、業務がものすごく複雑で属人的な状態になっていたことに気づかされたんです。

一例を挙げると、商品ごとに違う出荷日をスタッフが記憶して帳票に記入しなければならなかったり、製造や出荷スタッフが仕事しやすいように注意点を手書きで記入していたり。長年積み重なった非効率を何とか人間が頑張って成り立っている状態でした。実際に新しく入ってきてくれた方々があまりに複雑なルールを覚えきれず、入られてすぐに辞められたケースもいくつかありました。根本から仕組みを変えなければと痛感したのが、去年の6月でした。

そこから、どのように「会社の仕組み」を作り直していったのでしょうか?

私一人ではどうにもならないと思い、AIコンサルタントをしている友人と、AIを活用したシステム構築や業務効率化を得意とする友人に会社を立て直したいので力を貸して欲しいと依頼しました。そこから、私を含めた「三位一体のチーム」による改革が始まりました。

そこで取り組んだ改革は大きく3つに分けられます。

1つ目は、「受注業務の脱・属人化」です。これまでは商品ごとの複雑な出荷日などをベテランのスタッフが頭の中で記憶していましたが、特別な知識がなくてもシステムが自動判別し、注意すべきポイントには赤字で警告が出る「受注帳票作成システム」を構築しました。これにより、新人でも迷わず即戦力として動けるようになりました。

2つ目は、「手作業と例外処理の徹底的な自動化」です。例えば、別々で処理が煩雑だったECサイト6店舗分の受注や、特殊なデータ加工が必要だった個別のお客様経由の注文処理を専用システムを構築し一元化しました。毎朝CSVを取り込んだり、ボタンを数回押したりするだけで終わり、例外対応のスキルが不要になりました。

さらに、繁忙期の膨大な受注を受け止める専用のチェックツールも導入しました。従来はベテラン2人で1日かかっていた作業をシステムが自動判別することで、スポット雇用のスタッフ1人でも午前中で完了できるようになりました。また他にも小さな改善を繰り返した結果、通常のルーチンワークも3時間の時間短縮を実現しました。また、出荷後のステータス変更も、帳票のバーコードをスキャナで読み取るだけの一括処理に変え、ここでも1日30分〜1時間以上の短縮に成功しています。

3つ目は、デジタルの外側である「物理的な作業環境の改善」です。出荷部屋のレイアウトが10年以上も変わっておらず、動線が混線して「やればやるほど効率が落ちる」状態でした。そこでピックアップから梱包、出荷準備までの動線を整理し、仕事していただきやすい環境を整えました。

ITやAIの活用だけでなく、事業のコスト構造や体質改善も行われたそうですね。

はい。システムの連携などを見直すことで、無駄な固定費も大きく削れました。例えば、複数に分かれていたECサイトの基幹システム連携を1店舗分に集約して月額コストを圧縮したり、業者に委託していたBtoB向け印材卸のWEBサイトを自社管理に切り替え、月額2万3000円の管理費をサーバー代の500円程度に削減したりしています。さらに現在、このBtoB向け印材卸のサイトは、自社で更新でき受注データとも連携できる「生きたカタログ」としてリニューアルを進めています。

こうした多角的な改善の結果、最も大きな成果だったのは「新しいスタッフが定着していること」です。膨大な商品知識を覚えるプレッシャーがなくなり、新人研修の負担が激減しました。繁忙期特有の「どうにもならないバタバタ感」も消え、今回入社してくれた方々は一人も辞めずに第一線で活躍してくれています。

お父様との間では、今回の代表交代に向けてどのようなドラマがあったのでしょうか?

父は1980年の法人化以来、第一線で会社を引っ張ってきた、まさに職人気質の経営者です。今年で85歳になりますが体も元気で生涯現役でいることを生きがいにしているような人で、「息子にはまだまだ負けられない」という感覚もあったと思います。

ですが時代が変わり、ワンマンで引っ張るやり方が少しずつ難しいものになってきたこと、そして信頼を置いていた部長の退職は、父にとっても大きな出来事だったはずです。

そんな折に、私と友人たちがチームを組み、途上ではありますが会社がずっと抱えていた属人化の課題を解決し、新しい仕組みを回し始めた。それを見た父の中で、「自分たちが第一線から引いても、この人たちでやっていけるのではないか」という安心感や手応えが生まれたのだと思います。去年の秋頃から「そろそろかな」とこぼすようになり、この11月、私が代表権を引き継ぐことになりました。

とはいえ、印章業界での経験という点では父には全く及びません。卸の得意先からの信頼も厚く、相談できる人が身近にいてくれることは、私にとっても非常に心強いことです。

社長に就任されてから、次に取り組むのはどのようなことですか?

直近の大きな挑戦は「経理の電子化」です。実は、母が40年以上ずっと紙の帳簿で経理を守ってきてくれていました。これも町工場あるあるですが、恥ずかしながら私も含めてデジタルに強い人がいないため、古い会計ソフトと紙でなんとか回し続けていたんです。この秋からはそれをアップデートし、経理もデジタルへと移行します。

そして、日々の売上や広告運用、顧客レビューなどのデータをAIに分析させ、データに基づいた経営判断ができる体制へと舵を切ります。まずは私が経営しやすく、社員が働きやすい、無駄のないスマートな土台をしっかりと固めきるフェーズですね。

はんこという商品の価値、そして4年後の50周年に向けたビジョンをお聞かせください。

ソファに腰かけ、手を組んで前方を見つめる岡田商会の岡山耕二郎氏

製造の現場は私たちの強みであり、数千年も昔から時代と共に役割を変えて人の生活に寄り添ってきたハンコは弊社にとって切り離せないもの。デジタル全盛の時代だからこそ、人間同士のコミュニケーションの場面で活用したり、アニメやキャラクターのIPを使ったコラボ商品など、はんこの新たな価値を感じていただける提案はまだまだできます。

これまでの1年は、過去の課題を解決し、土台を作り直すための期間でした。でもこれからは、自分が本当に「ワクワクできる会社づくり」に挑戦していく段階です。はんこの町工場だけど、中身は驚くほどスマートで無駄がなく、次々と面白い提案を生み出せる。そんな会社にしたいんです。

50周年に向けての目標は、オフィスを移転すること。今はマンションの別々の部屋で作業していて連携に無駄があるので、一つの大きなフロアに集まり、皆でコミュニケーションを取りやすい環境を作りたい。この一年を共に乗り越えてくれた仲間たち、そして新しく集まってくれたメンバー全員が、「この会社にいてよかった」と思える場所を作ること。それが、新しい代表としての私の大きな目標です。

お問い合わせ

事業承継・取材・執筆のご相談など、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム