インタビュー

一族の会社から、社員が継ぐ会社へ。約100年企業が選んだ事業承継|ニュースタンダード

一族の会社から、社員が継ぐ会社へ。約100年企業が選んだ事業承継|ニュースタンダード

茨城県日立市に本社を置き、自然素材を使った高性能住宅を手がける株式会社ニュースタンダード。その原点は、1925年頃に創業した森材木店にある。

約100年にわたり地域の住まいづくりを支えてきた同社は、2021年に「株式会社モリハウジング」から現在の社名へ変更。そして2025年1月、創業家出身の森大輔氏から、社員として入社した白井辰典氏へ代表のバトンが渡された。

家族経営が多い住宅業界において、親族ではなく社員へ会社を託した背景には、どのような考えがあったのか。現場監督から営業、設計、集客まで幅広く携わり、代表となった白井氏に、承継までの道のりと今後の展望を伺った。

森材木店からモリハウジングを経て、ニュースタンダードへ社名を変更した背景を教えてください。

私が入社して10年ほど経った頃、当時の代表だった森から「将来的に会社を承継したい」という話がありました。まず取締役に就任し、5年ほど準備期間を設けたうえで代表を引き継ぐという流れです。

当時の社名は、創業家の名前が入った「モリハウジング」でした。森が代表であれば自然ですが、私が引き継いだ後も「モリハウジングの白井さん」と呼ばれるのは、少し違和感があります。そこで、私が取締役へ就任するタイミングに合わせて社名を変更しました。

新しい社名を考えるうえで大切にしたのが、「スタンダード」という言葉です。

私たちは、断熱性や気密性にこだわり、自然素材とデザイン性を両立させた、質の高い住宅をつくり続けてきました。当時は特別に見える家づくりでも、いつか世の中の標準になってほしい。その思いから「新しい標準」を意味するニュースタンダードという名前になりました。

社名変更には、事業承継に向けて創業家の名前を外すことと、自分たちの家づくりを新たな標準にすること。その二つの意味が込められています。

白井さんが後継者として選ばれた理由を、どのように捉えていますか。

入社して間もない頃に結婚し、守るものができたことで、仕事への向き合い方が変わりました。

それまでは嫌なことがあれば転職することもありました。しかし、転職すれば、また一からのスタートです。だからこそ、今いる会社で成功するために、自分には何ができるのかを考えるようになりました。

言われた仕事をこなすだけでなく、「会社の売上を伸ばすために何ができるか」「社長や会社にどう貢献できるか」を常に考えていました。

その一つが、Instagramによる情報発信です。当時は会社の公式アカウントがなかったため、自分から立ち上げました。自費でカメラも購入し、施工事例などの写真を撮影して発信を続けました。

自宅を建てた後は個人のアカウントでも家づくりを発信し、フォロワーは約2,500人まで増えました。私の投稿を見て、当時のモリハウジングを知ってくださる方も現れました。

会社から与えられた役割だけを見るのではなく、会社全体にとって何がプラスになるかを考えて行動してきたことが、評価された一つの理由だと思います。

入社後は、どのような仕事を経験されたのでしょうか。

最初は現場監督として入社しました。その後、営業を任され、設計にも関わるようになりました。

営業ではトップの実績を出すだけでなく、どうすればお客様に会社を知ってもらえるのか、どのようにブランドを高めていくのかという集客の部分にも取り組みました。

各部署で成果を出すことはもちろんですが、数字には表れにくい部分でも会社に貢献してきたつもりです。また、周囲を引っ張る役割も担うようになりました。

私は、良いところは褒めますが、改善すべきところは明確に伝えるタイプです。森はどちらかといえば柔らかく見守るタイプだったので、リーダーシップの取り方には違いがありました。

社員が増えていくなかで、スタッフに近い立場で会社を引っ張る存在が、森から私へ少しずつ移っていったのだと思います。森からは、「白井さんがいることで、自分のやることがなくなった」と言われたこともありました。

実際に代表就任を告げられたときは、どのように感じましたか。

2020年に取締役へ就任した段階で、「将来的には代表になってもらいたい」と言われていました。ただし、具体的な時期までは決まっていませんでした。

正式に「来年1月から社長になってほしい」と言われたのは、代表就任の約1年前です。将来的に引き継ぐことは理解していましたが、突然だったので驚きました。

一方で、その頃には社員との関係や日々の実務など、会社の実質的な運営を私が担うようになっていました。そのため、社員や周囲の方々にとっては、代表交代に大きな違和感はなかったと思います。

経営者になるために、どのような準備をされましたか。

森から何かを一から教わるというより、自分で必要なことを学びました。

取締役ではありましたが、それまで決算には深く関わっていなかったため、代表就任が決まってから、貸借対照表や損益計算書などの財務知識を勉強しました。事業承継についても、インターネットや動画を通じて毎日のように情報を集めました。

人に教えてもらうだけでは、自分の中に落とし込めない部分があります。必要な知識を自ら学び、自分なりに解釈することを大切にしました。

承継後、守り続けているものと、変えたものを教えてください。

高性能住宅と自然素材へのこだわりは、私が入社した頃から会社に根付いているものです。これは今後も変わりません。

ただ、住宅業界全体で省エネ化が進み、高気密・高断熱住宅も増えています。同じことを続けているだけでは、ニュースタンダードならではの違いが伝わりにくくなります。

そこで私が強めたのが、「暮らし」の提案です。

勾配天井のリビングから続くウッドデッキと庭。室内と屋外がひと続きにつながっている

これまでは建物の間取りや外観を中心に考えていましたが、現在は庭や駐車場、植栽、ウッドデッキなどを含め、敷地全体をどのように使うかを重視しています。

建物と外構を別々に考えるのではなく、セットで提案する。窓の先に緑や景色をつくり、その景色に合わせて窓の大きさや光の入り方を考える。家の中だけでなく、外にも心地よい居場所をつくることが、暮らしの豊かさにつながると考えています。

暮らしに目を向けるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

約10年前に、自社で自宅を建てた経験が大きかったと思います。

家のデザインにはこだわりましたが、当初は庭をあまりつくり込んでいませんでした。ウッドデッキもありましたが、家の中と外が完全に別の空間になっていて、外に出ても心地よさを感じられなかったのです。

そこで庭に一本の木を植えてみました。すると、木越しに見える家の雰囲気が良くなりました。さらに植栽や塀を増やし、道路を歩く人や向かいの住宅など、見せたくないものを自然に隠していくと、ウッドデッキで過ごす時間が心地よくなりました。

植栽に囲まれたウッドデッキ。大きな開口部で室内と庭がつながる住まいの外観

外からの視線が気にならなくなると、日中はカーテンを開けて生活できるようになります。家の中から庭の緑が見え、室内と屋外につながりが生まれました。

その経験から、家の心地よさは建物だけでは完成しないと気づきました。

私が考える「家が好き」という感覚は、好きな居場所がたくさんあることです。開放的なダイニング、少し天井が低く落ち着ける場所、朝日が入り元気になれる場所。家の中にも外にも、それぞれ異なる心地よい居場所をつくることを意識しています。

この暮らしを実際に体感してもらうため、2026年2月には水戸市にコンセプトハウス「KURASHIBI」をオープンしました。見学だけでなく宿泊体験も受け入れ、ニュースタンダードが提案する暮らしを伝えています。

2025年には、つくばオフィスも開設されました。進出を決めた背景を教えてください。

日立・水戸を中心に事業を展開してきましたが、物価や建築費が上昇するなか、品質を落とさず、庭を含めた豊かな暮らしを提案することが難しくなっていました。

そうしたなか、つくば市のお客様が日立まで足を運び、当社を選んでくださいました。その住宅をつくば進出の足掛かりにできると考え、予定を早めてオフィスを開設しました。

もちろん、成功する保証はありません。ただ、最初は既存の社員2人を配置し、万が一うまくいかなければ元の拠点へ戻れる体制にしました。挑戦はしますが、最悪の場合にどうするかも考え、リスクを抑えて小さく始めたのです。

その結果、初年度は5棟ほどの受注につながりました。当初の想定を上回る手応えを得ています。今後はつくばにもコンセプトハウスをつくり、2〜3年後には年間10棟以上を目指します。

一方、日立エリアでは、中古住宅を購入してリノベーションするなど、地域の予算感に合った選択肢を増やしていきたいと考えています。地域ごとの状況に合わせながら、ニュースタンダードらしい暮らしを提案していく方針です。

先代との関係において、円滑な承継につながったことはありますか。

森が代表だった頃から、自分の意見は率直に伝えていました。ただし、自分の意見とは異なる方針に決まったとしても、意地を張らずに受け入れ、決定したことに全力で取り組むようにしていました。

私と森には、共通してチャレンジ精神があります。

森が新しい挑戦を打ち出したとき、不安がまったくなかったわけではありません。それでも頭から否定することはせず、「森が決めたのであれば、成功させるために頑張ろう」と考えていました。

森もまた、私の挑戦を否定しませんでした。お互いの考えを尊重し、挑戦に対して肯定的に向き合ってきたことが、円滑な承継につながったのだと思います。

今後、ニュースタンダードで実現したいことを教えてください。

5年ほどの間に、私たちの家づくりによる「街並み」をつくりたいと考えています。

一般的な分譲地では、それぞれの土地に異なる住宅会社が自由に家を建てます。その結果、隣家の窓の位置や建物の高さ、日当たり、外観などが、お互いの暮らしに影響してしまうことがあります。

しかし、複数の区画を私たちが一体で設計できれば、それぞれの住宅の日当たりや視線、窓の位置、植栽などを調整できます。住む人同士のプライバシーを守りながら、周辺を歩く人にも配慮した空間をつくることができます。

10棟、20棟という単位で、自然に囲まれ、デザインに統一感がありながら、それぞれの家に個性がある。住む人同士がお互いに配慮され、その街並み自体が美しい風景になるような住宅地をつくりたいと思っています。

森が守り、育ててきた高性能住宅と自然素材へのこだわりを受け継ぎながら、家と庭、さらに街全体へと視野を広げていく。

白井 辰典のプロフィール写真
プロフィール

白井 辰典 Shirai Tatsunori

ニュースタンダード 代表取締役

茨城県日立市で約100年にわたり地域の住まいづくりを支えてきた株式会社ニュースタンダード(旧・モリハウジング)の代表取締役。現場監督として入社した後、営業、設計、集客と幅広い領域を担当。営業でトップの実績を挙げる一方、会社の公式アカウントがなかった時期に自らInstagramを立ち上げ、自費でカメラを購入して施工事例の発信を続けるなど、与えられた役割を超えて集客とブランドづくりに取り組んだ。2020年に取締役へ就任し、約5年の準備期間を経て2025年1月、創業家出身の前社長から代表を引き継ぐ。高性能住宅と自然素材へのこだわりを受け継ぎながら、庭や外構を含めた「暮らし」の提案へ事業を広げている。

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