「占い師」からのSOS!?僧侶であり、補助金のプロ。異色の事業承継士・南延夫氏が語る「伴走支援」|はっぴー創造研究所
事業承継というテーマを語る際、私たちはつい「株価の算定」や「税務対策」「M&Aのスキーム」といったものに目を奪われがちです。しかし、実際の現場で最も経営者や後継者を悩ませ、時に事業承継そのものを頓挫させてしまうのは、親子の確執や従業員の反発といった「人間臭い感情のモツレ」です。
今回インタビューにお答えいただいたのは、大阪府を中心に活動する株式会社はっぴー創造研究所の代表であり、事業承継士の南 延夫氏です。
南氏の経歴は、一般的な士業やコンサルタントの枠には全く収まりません。個人事業主、株式会社、さらには非営利活動を行う一般社団法人まで、複数の組織を同時に運営し、過去には「僧侶」になるための修行まで経験したという、極めて異色のバックグラウンドを持っています。
会社員を独立後は、補助金・助成金のコンサルティングからキャリアをスタートさせ、現在は事業運営のほかに非営利活動による子どもの居場所づくりや、企業の障害者雇用の支援までを手がける南氏。
「法律やルールを読み解き、ハック(工夫して攻略)するのが好き」と語る彼が、なぜ事業承継の分野に足を踏み入れたのか。
綺麗事では済まない泥臭い承継現場のリアルと、経営者の心に寄り添う独自のコンサルティング哲学について、たっぷりと語っていただきました。
南氏が現在手掛けられている事業の全体像についてお聞かせいただけますでしょうか。
そうですね、私は現在、複数の顔を持って活動しています。
具体的には、損害保険代理店としての「ヒューマンセンス(個人事業主)」、補助金と助成金のコンサル会社としての「はっぴー創造研究所(株式会社)」、不動産と内装工事の「テイデイシイ(株式会社)」そして非営利活動団体としての「HOMEステーション(一般社団法人)」の4つが主な活動の軸になります。
非常に多岐にわたる組織を運営されていますね。なぜそれほど多くの法人を分けてお持ちなのでしょうか?
世間で持て囃される「連続起業家(シリアルアントレプレナー)」のような、格好いいものでは全くありません。生きていくためにその時々で主軸とする事業が変わってきた中で、細々と続いている事業や、まだお客様が残っている事業を手放すのが下手な性分なんです。前の事業をすっぱりと綺麗に切り捨てることができず、結果的に法人が増えていってしまったという、ただそれだけのことです。
また、私の仕事柄、複数の法人に分けておいた方が、事業上の都合が良い場面が多いという実利的な理由もあります。
それぞれの組織で、どのような事業を行っているのか教えてください。
「株式会社はっぴー創造研究所」では主に、中小企業向けの補助金や助成金のコンサルティングを行っています。もともとは介護事業向けの補助金を手掛けていたのですが、IT導入補助金が始まったタイミングで、お客様にとって使い勝手が良くメリットが大きかったため、WebやIT周りの事業を中心に移行してきたという背景があります。ただ、現在でも、ものづくり補助金など、大型の補助金・助成金のコンサルティングをお引き受けすることはあります。
「株式会社テイデイシイ」は、不動産と内装工事の会社の役員として、バックオフィスの統括と取引先の開拓を担っています。
次に、個人事業の「ヒューマンセンス」ですが、これは損害保険の代理店資格を保有するために必要でした。私が多くの企業様とお付き合いがあるのを知った損害保険会社から声をかけていただき、研修制度の卒業を経て代理店となりました。
そして4つ目が、一般社団法人の「HOMEステーション」です。これは大阪の平野区で約8年間運営している団体で、完全に私の「趣味」であり、非営利の活動です。
非営利の活動とは、具体的にどのような内容ですか?
最初は若者支援からスタートしたのですが、コロナ禍を機に「もっと小さな子どもたちの居場所が必要だ」と感じ、現在は子ども食堂のような「子どもの居場所づくり」に集中して活動しています。また、参加する子どもたちの中で、家庭環境が厳しいケースが見受けられた場合は、行政や専門家と連携して家庭の支援に繋げています。
素晴らしい社会貢献活動ですね。プロフィールを拝見すると、「僧侶」という肩書きもお持ちのようですが……?
ああ、それですね(笑)。実は以前、「世の中にはお寺が余っている」という噂を信じた時期がありまして。「僧侶の資格を取れば、空いているお寺と土地が手に入って、児童福祉施設とかできるんじゃないか?」と企んだんです。
そこで実際に3年ほど修行をして僧侶の資格を取り、師匠のもとで5年ほどお手伝いもさせていただきました。結局、お寺は手に入らず、今は僧侶としての日々の修行をできていませんが、僧侶であることには間違いありません。何事も、何かに引っ掛けて「ショートカットで実現できないか」を考えてしまう性格なんですよね。
南氏のコンサルティングの原点である「補助金・助成金」の事業は、どのようにしてスタートしたのでしょうか?
これも、「生きていくために何とかして稼ぐ方法はないか」と必死に考えていた時に生まれたビジネスです。
ちょうど世の中に「iPhone」が出始めた頃のことです。知り合いの介護事業者から相談を受けたのですが、当時の介護現場で使われていたナースコール(緊急呼び出しシステム)は、昔ながらの有線や電話回線を使ったもので、非常に高額な機械ばかりでした。しかも、その高額なシステムが行政の補助金を使って購入されていたのです。
私はこれを見て、「新しく出たiPhoneとWi-Fi(無線)を組み合わせれば、もっと安価で便利な緊急通報システムが作れるのではないか」と閃きました。そして、既存の高額システムを導入するための補助金予算を、私たちの新しいシステムの導入費用として獲得できないかと考え、補助金や助成金の仕組みを猛勉強したのです。
自ら補助金の制度を研究し、新しいソリューションを市場に投入したのですね。
はい。iPhoneを使った緊急通報システムを全国の自治体に売り込み、コンペで勝ち上がって、導入を希望する企業様向けに補助金・助成金の申請をサポートしました。この仕掛けをつくり全国の案件をいくつか獲得していったのが、私の補助金コンサルタントとしての原点です。
私は子どもの頃からルールを読み解いてハック(工夫して攻略・活用)したりするのが大好きなんです。補助金や助成金の申請も、まさに国のルールを正しく読み解き、企業の状況に合わせて最適にハックする作業ですから、自分の性に合っていたのだと思います。
そこから、どのように「事業承継」の分野へと繋がっていくのでしょうか? 資格を取得された背景をお聞かせください。
補助金や助成金のコンサルティング、そして損害保険の代理店業務を通じて、非常に多くの中小企業の経営者様とお付き合いさせていただくようになりました。日々様々なご相談に乗る中で、「そろそろ事業承継が、世の中の企業にとって本当に深刻で大事な課題になってくるな」という実感を強く持つようになったのです。
ただ、当時の私は補助金や助成金の支援は得意だったものの、それらを裏付けるような「資格」を何も持っていませんでした。自分自身のことを、どこか「モグリの人間」のように感じていた部分があったんです。「企業様にもっと深くお役に立つためには、何かきちっとした資格が1つ欲しいな」と考えていた矢先、大阪で事業承継の取り組みをされていた先生とご縁があり、そこから事業承継協会の存在や、新しい資格制度が始まるというお話を伺いました。
それがきっかけで、「これは今の自分の顧客支援に絶対に役立つ」と確信し、事業承継士の資格を取得することにしました。取得自体はもう何年も前のことになります。
事業承継士の資格を取得されてから、実際の現場ではどのようなご支援をされてきたのですか?
資格を取ったからといって、いきなり「事業承継専門のコンサルタントです!」と大々的に営業をかけたわけではありません。私の場合は、これまでお付き合いのあった企業様との繋がりの中から、自然発生的にご相談をいただくケースがほとんどです。
私が支援しているのは、世間で話題になるような最先端のスタートアップや、トップランナーのような華やかな企業ではありません。本当に昔ながらの会社や、泥臭い課題を抱えた現場の支援が中心です。
南氏が実際に携わられた、印象深い事業承継の事例を教えていただけますか?
例えば、ある保育園の事例があります。ここは、オーナー(出資者)の方から「現在の代表者を交代させたい」というご相談を受けました。
私が新しい代表者を連れてきて引き継ぎを行ったのですが、保育園というのは「人間臭い」職場です。対・保護者、対・従業員(保育士)という人間関係が絡み合い、言葉一つ間違えればすぐにクレームや「炎上」に発展してしまうような世界でもあります。
私は今もこの保育園のお手伝いをしているのですが、人事的なトラブルの対応や、炎上を防ぐためのフォローなど、現場の調整役を担っています。もちろん、得意の補助金・助成金の活用支援もセットで行っています。
もう一つ、親子の激しい確執が絡んだ事例もあると伺いました。
ええ。ある内装工事の会社なのですが、ここはとにかく「親子喧嘩」が凄まじかったんです。
関係者の方から「あの親子の喧嘩をなんとかしてほしい」と頼まれたのが始まりでした。中に入って話を聞いてみると、単なる親子喧嘩だけでなく、兄弟間の喧嘩(対立)まで複雑に絡み合って、完全にドロ沼にはまっていました。
感情がもつれ切った状態からのスタートですね。どのように解決へと導いたのでしょうか?
このままでは事業そのものが崩壊してしまうと判断し、組織を法的に切り離す仕掛けを行いました。株式を分割し、兄弟がそれぞれ別々の会社を経営するように組織を分け、親はそのグループ会社のトップに立つという形に再編したのです。
ただ、会社を分ける過程でもまた色々と揉め事が起きます。兄弟が袂を分かつ際に、後々まで遺恨や喧嘩が残らないよう、お金(資産)の面での条件交渉を私が間に入って段取りし、綺麗に分かれていただくための徹底した調整を行いました。
結果として、この再編はうまくいき、お姉さんの方が引き継いだ会社から「引き続き手伝ってくれ」と頼まれ、現在はその会社の役員として経営に参画しています。
コンサルタントの枠を超えて、役員として中に入り込まれているのですね。
そうですね。結局のところ、対外的な揉め事や内部統制の課題が発生した際に、法務部や総務部のような役割で動く人間が必要なんです。私は裏方として法的なルールをハックして解決策を見出したり、それのよって事業を安定させていくのが好きなので、今も顧問というよりは役員として、実務のお手伝いをしています。
南氏は「HOMEステーション」での活動も長年続けられていますが、この活動がビジネスと結びつくことはあるのでしょうか?
私は8年間、大阪の平野区で「HOMEステーション」という子ども食堂や若者支援の活動を続けてきました。この活動自体は趣味であり非営利ですが、これを長年続けていると、同友会やロータリークラブなどに所属する経営者の方々と繋がる強力なきっかけになるんです。
経営者の方々から「南さん、面白い活動をしているね。ちょっと話を聞かせてよ」とお声がけいただき、そこから自然な流れで本業の企業支援に繋がることが少なくないのです。
社会貢献活動への共感が、結果的に強力なネットワーキングになっているのですね。
そうです。さらに一歩踏み込んで、私の活動と、企業の経営課題を直接マッチングさせたコンサルティング事例もあります。
ある企業様から、「障害者雇用を進めたいが、社内に適切な業務や環境がなく困っている企業への支援を事業化したい」というご相談を受けました。
そこで私は、企業が雇用した障害者の方々を、私たちの「HOMEステーション(非営利団体)」に派遣していただき、活動をサポートする業務に従事してもらう、というスキームを提案したのです。
企業側は「CSR担当社員」という名目で障害者の方を雇用し、法定雇用率をクリアしながら社会貢献活動をアピールできます。一方、私たちの団体は、彼らの働きによって活動の幅を広げることができます。
それは見事なWin-Winのモデルですね!
はい。この仕組みが非常にうまくいきまして、ご相談を受けた企業様は、現在では6社ほどの企業から、トータルで40名近くの障害者の方々をお預かりして、順調に業績は伸びていると聞いています。
南氏のもとには、どのようなルートでご相談が寄せられるのでしょうか?
これが本当に面白いところで、事業承継の依頼というのは、全く予想もしていなかった意外なところから舞い込んでくるんです。
実は、先ほどお話しした「内装工事会社の激しい親子喧嘩」の事例ですが、この案件の最初の相談元は、私の友人である「占い師」だったんです。
えっ!? 占い師の方から事業承継の相談が来たのですか?
そうなんです(笑)。その内装会社の経営者(親)が、親子間の深刻なトラブルに悩み果てて、私の友人の占い師のところに相談(占い)に行っていたのですが、「会社経営のトラブル」に発展してしまった。
そこで、企業経営や法律に詳しい私に「ちょっと助けてくれないか」とSOSが入り、私が横に座って一緒に相談に乗ったのが、あの事業承継支援の始まりだったんです。
驚きのエピソードですが、同時に「経営者の孤独」の深さを象徴するようなお話ですね。
まさにその通りです。事業承継というのは、会社の未来と家族の人生が複雑に絡み合う、極めてデリケートな問題です。
経営者の方々は、本当の悩みや本音を、会社の従業員には言えません。そして、家族間の問題だからこそ、当の家族に対しても冷静に話し合うことができないのです。
結果として、誰にも頼れなくなった経営者が、最後にすがる思いで「占い師」の扉を叩く。これは決して笑い話ではなく、中小企業経営者が置かれている孤独なリアルの裏返しなのだと思います。
だからこそ、税理士や銀行員といった経営者に「正論」を伝える役割の人とは異なるチャネル(窓口)からも、経営者が事業承継士に辿り着けるルート(経路)が必要だと痛感しています。占い師に限らず、経営者が本音を漏らす相手との連携は非常に社会的意義があると感じています。
最後に、南氏の今後の展望や、これから挑戦していきたいことについてお聞かせください。
今、私が非常に強い意欲を持って注目しているのが、「AIエージェント」の活用です。
私は決して賢い人間ではないので、最先端の技術すべてについていけるわけではありませんが、AIの進化によって、人間が手を動かさなくてもバックオフィスの業務が劇的に効率化される時代が目の前まで来ています。現在、多くの中小企業や零細企業が「深刻な人手不足」に喘いでいます。人が採れない、定着しないという課題に対し、AIエージェントを導入して後ろ回りの仕事を自動化することは、彼らにとって死活問題の解決策になります。
そこでも、南氏の強みである「補助金」が活きてきそうですね。
おっしゃる通りです。こうした最新のAIツールを導入するためには資金が必要です。そこで私の本業である「補助金・助成金の活用ノウハウ」を掛け合わせ、資金面での負担を軽減しながら、人手不足に悩む中小企業のDXを伴走支援していく。
これが、私がこれから最も力を入れていきたい領域であり、苦しんでいる中小企業様にとって価値のあるサポートになると確信しています。
南 延夫
iPhone黎明期にいち早く補助金を活用したシステム導入ビジネスを立ち上げ、補助金・助成金のプロフェッショナルとして独立した。現在は、IT導入補助金や事業再構築補助金などの申請支援を手がける株式会社はっぴー創造研究所のほか、不動産と内装工事の株式会社テイデイシイ、損害保険代理店ヒューマンセンス、子ども食堂や若者支援・困窮家庭支援を行う一般社団法人HOMEステーションなど、複数の組織をパラレルに運営している。過去には3年間の修行を経て僧侶の資格も取得した異色の経歴を持つ。補助金のノウハウ、NPOネットワーク、法務ルールをハックする現場力を掛け合わせ、深刻な親族間トラブルの調停から障害者雇用のスキーム構築まで、中小企業経営者の課題に全方位から伴走するコンサルティングを行っている。

