「詰める営業」で左遷された元トップセールスが、9000人の人生を変えるまで。組織を覚醒させる「ビジネスIQ×EQ」統合メソッドの全貌|NaturalFlow
事業承継において、多くの経営者が頭を悩ませるのが「人」と「組織」の問題です。「株の引き継ぎや税金対策は税理士に任せれば終わるが、社員のモチベーションや社内の人間関係はどうにもならない」。そんな後継者の悲鳴が、全国の中小企業から聞こえてきます。
今回お話を伺ったのは、株式会社NaturalFlow 代表取締役の村上雄一郎氏です。
外資系・国内大手の製薬会社でトップセールスとして活躍し、マネージャーに昇進。しかし、時代錯誤な「パワハラマネジメント」によって、左遷と降格の憂き目に。そこから一念発起してコーチングの道へ進み、これまでに延べ9,000人以上のビジネスパーソンの「心」と向き合ってきた異色の経歴を持ちます。
村上氏が提唱する「ビジネスIQ(スキル)」と「ビジネスEQ(心の知能指数)」を掛け合わせた独自のワークパフォーマンスメソッドは、停滞する組織を劇的に変化させ、後継者が真の経営者へと覚醒するための強力な武器となっています。
村上氏の波乱万丈な半生と、組織変革の真髄に迫ります。
村上氏のこれまでのご経歴についてお聞かせください。製薬会社で長らく営業をされていたそうですね。
私は大阪府豊中市の出身で、大学卒業後に中堅の製薬会社に入社しました。その後、外資系の製薬会社にヘッドハンティングされ、最終的には国内最大手の武田薬品工業にご縁があって入社しました。製薬業界で合計20年以上、営業の最前線を走ってきました。
自分で言うのも何ですが、営業マンとしてはそこそこの成績を残すことができまして、武田薬品に入社して5年でリーダー(マネージャー)に昇進しました。しかし、そこからが私の大きな挫折の始まりでした。
順風満帆な出世に見えますが、何があったのでしょうか?
当時の製薬業界は、今では考えられないような「超・体育会系」の詰め文化だったんです。上司からは「数字が足りひんて言葉はないんや!」「あといくらやるんや!」と日々詰め寄られていました。
忘れもしない12月22日のことです。行きつけの居酒屋の小上がりで、関西出身の上の立場の人から「お前、年末まであとなんぼや!」と詰められました。私が数字を正確に把握しておらずモゴモゴしていると、今度は私の直属の先輩が「お前らがしっかり指導しとらんから、村上が答えられへんのやろうが!」と猛烈に怒鳴られまして。
先輩が灰皿を投げつけられそうになりながら謝っているのを見て、「これは数字をやらないと本当に殺されるな……」と恐怖で震えたのを覚えています。
まさに昭和のドラマのような壮絶な現場ですね……。
そうして恐怖で数字を作ってきた私は、自分がマネージャーになった時、無意識に同じことを部下にしてしまったんです。
「あといくら足りないんだ? 300万? どこから持ってくるんだ? え、100万しかない? 残りの200万はどうするんだ!」と。
私の部下には、慶應義塾大学や立命館大学、関西学院大学など、私よりもはるかに高学歴で優秀な若手ばかりが集まっていました。「それくらい頭で考えれば計算できるだろうが!」と詰めていました。
するとどうなったか。部下たちは私と同じように「恐怖」で数字を上げてくるようになりました。しかし、翌年の「360度評価(部下や同僚が対象者を評価する制度)」で、私は見事に「パワハラ上司」の烙印を押されたのです。
部下からの痛烈な反撃ですね。
ショックでしたね。会社が入れているコンサルタントからは「村上さん、もっと民主的にやってください。部下の意見を聞いてください」と指導されました。
そこで私は、「傾聴」のスキルを学ぼうと思い、当時お世話になっていた、某製作所の産業医の先生に相談しました。「どうすれば先生の様に話を上手に聞けるようになりますか?」と。そこで紹介されたのが、「産業カウンセラー」という資格でした。早速受講申し込みをし、学びを始めました。部下の話を「傾聴」するスタイルに変えました。
すると、今度は部下たちが、私に対して「リーダシップがなく、数字にコミットしない人」という印象を持ち、目標を達成できなくても「いや、先生が薬を使ってくれなくて……」と言い、私に仕事を丸投げするようになったんです。
「厳しく言えばパワハラと言われ、優しく聞けば仕事をやらない。一体どうすればいいんだ!」と頭を抱えました。結局、リーダーシップはがた落ちし、マネジメントできないマネージャーとなり、左遷・降格され、部下のいないポジションへと異動させられました。
そこから、現在の「コーチング」や「人材育成」の道へはどのようにつながっていくのでしょうか?
左遷先の部署に2年ほどいた後、再び現場に戻ることになりました。その頃、私は藁にもすがる思いで、あるコーチングのセミナーに通い始めました。
製薬会社の営業というのは、病院で医者の診察が終わるのを、他社の営業マンたちと一緒に廊下で何時間も立って待つんです。その暇な待ち時間に、仲の良かった他社の営業マンに「俺さ、最近コーチングってのを習い始めたんだけど、ちょっと受けてみない?」と声をかけたんです。
すると、「え、村上さんがコーチング? 面白そうですね」と、1年弱で15人くらいが興味を持ってくれました。
私は「初回はタダでいいけど、2回目からはお金をもらうよ。90分3万円、全6回だから18万かかるよ」と伝えました。すると、そのうちの7人もの営業マンが「自腹を切ってでも受けたい」と言ってくれたんです。
本業の合間に、他社の営業マンに有料でコーチングを始めたのですね。
はい。朝7時から病院を回り、夜の8時まで製薬会社の仕事をした後、近所の公民館の会議室を借りて、夜の11時まで彼らにコーチングをしていました。
普通に考えたら体力的にはしんどいはずなんですが、これがもう、めちゃくちゃ楽しかったんです。「コーチングの仕事を生業として生きていきたい」と気づいてしまいました。
そこから、私が通っていたセミナーの先生に「これを本業にしたいです」と直談判し、ご縁があってその先生の会社に執行役員として入社することになりました。
そこで4年間、企業向けのコーチングや研修を行い、約4,500人の方とセッションを重ねました。その後、2022年に個人事業主として独立し、現在までに延べ9,000人以上、その内、オンラインのコーチングで2000回以上のセッションを行ってきました。
そして、2025年に株式会社NaturalFlowとして法人化されたのですね。
そうです。ゴルフ仲間だったグッドスマイルグループ(DX推進などを手がけるIT企業)の本間卓哉氏と意気投合しまして。
「うちはDXの仕組みは作れるが、それを動かす『人(ヒューマンリソース)』の育成機能がない。村上さん、一緒にやらないか」と誘っていただきました。私自身もITやSNSは苦手でしたので、お互いの強みを掛け合わせる形で、本間氏に取締役に入ってもらい法人化しました。
現在、共同代表として、一般社団法人ワークパフォーマンス推進機構を設立しました。
村上氏のコンサルティングの根幹である「EQ・IQ統合メソッド」について、詳しく教えていただけますか。
多くの経営者から「社員の育成に困っている」「研修を受けさせても、すぐに辞めてしまう」という相談を受けます。そこで私は、ビジネスにおける能力を「ビジネスIQ」と「ビジネスEQ」の2つに分けて説明しています。
まず「ビジネスIQ」。これは、業界の専門知識、商品のスペック、法的なルール、論理的思考力、パソコンのスキルなど、いわゆる「知識や技術」のことです。多くの会社が助成金を使ってやっている「営業研修」や「マナー研修」は、すべてこのIQを高めるためのものです。
しかし、IQ(スキル)だけが高くても、人は動きません。「スキルは身につきました。でもこの会社で働く気はないので辞めます」と言って、他社に転職されてしまうのがオチです。
そこで重要になるのが「ビジネスEQ(心の知能指数)」です。
「この会社で働きたい」
「社会に貢献したい」
「会社に恩返しがしたい」
といったモチベーション、やりがい、そして心理的安全性のことです。
私たちの提唱する「ワークパフォーマンス(仕事の成果)」は、以下の掛け算で成り立っています。
ワークパフォーマンス = ビジネスEQ(やる気)/ ビジネスIQ(スキル)
どちらか一方が欠けてもダメだということですね。
その通りです。例えば、新入社員は「絶対に頑張ります!」とEQ(やる気)はMAXですが、IQ(スキル)がゼロなので、仕事の成果は出ません。彼らには徹底的にIQ(業務知識)を教え込む「研修(ティーチング)」が必要です。
一方で、会社に長年いる「老害」と呼ばれるようなおじさん社員。彼らは業界知識やスキル(IQ)は非常に高いのですが、「どうせ俺が頑張っても……」とEQ(やる気)が底辺まで落ちています。彼らにいくら営業スキルを教えても無駄です。彼らには、自分自身の存在意義を再確認させ、心に火をつける「コーチング」や「マインドコンサルティング」のアプローチが必要なのです。
経営者は、目の前の社員が「IQが足りないのか」、それとも「EQが足りないのか」を見極め、適切なアプローチを使い分けなければなりません。
「EQ(心理的安全性)」を改善することで、実際に組織がどのように変わったのか、具体的な事例を教えていただけますか。
従業員500名規模の、ある化粧品・ヘアカラーの製造工場での事例です。
その工場では、月に3万種類もの原料を調合しているのですが、どうしても毎月、原料の混ぜ間違いによるミスが発生していました。創業から75年間、ずっと解決できなかった課題でした。
私は現場のリーダーと一緒に、ミスを起こした作業員を集めてヒアリングを行いました。すると、ミスが起きる直前に、全員に共通する「ある瞬間(ミスのトリガー)」が存在することが分かったのです。
ミスのトリガー、ですか?
はい。それは、「数ヶ月ぶり、あるいは半年ぶりにその原料を扱う際、一瞬だけ頭に『ハテナ(これで合ってたっけ?)』が浮かぶ瞬間」でした。
作業員は「ハテナ」が浮かんでも、「まあ、たぶんこれで合ってるだろう。いちいち聞くのも面倒だし」と、そのまま混ぜてしまっていたのです。
そこで私たちは、ルールを一つだけ作りました。
「作業中に一瞬でも頭に『ハテナ』が浮かんだら、必ず現場のベテラン3人のうちの誰かに、5分だけ手を止めて聞きに行くこと」 たったこれだけです。
最初のうちは、週に1回ペースで誰かが聞きに来るようになりました。そして1ヶ月経った頃、「これ、混ぜてもいいんでしたっけ?」と聞きに来た作業員に対し、ベテランが「ストップ! それは混ぜちゃダメなやつだ!」と止めることができたのです。
それ以降、この工場の調合ミスは激減しました。3年間ミスがゼロになったのです。
「気をつけて作業しろ」と怒るのではなく、人間の心理(EQ)に基づいた仕組みを作ったのですね。
配送業者の交通事故撲滅の事例も同じです。
ドライバーが事故を起こすのは、「早く行かなきゃ!」と焦って緊張している時ではありません。現場に到着する目処が立ち、「あと7分で着く。よし、間に合うぞ」と気が緩んだ瞬間に事故が起きていたのです。
それに気づいた上司は、「絶対に事故を起こすなよ!」と送り出すのをやめました。代わりに、「帰りに気が緩んだら、コンビニに車を停めて、コーヒーを1杯飲んでタバコを吸って、ゆっくり帰ってこい」と伝えるようにしたんです。
結果として、毎月起きていた車両事故が、その年は「ゼロ」になりました。
これが、人間の心理(EQ)や行動のトリガーを理解してマネジメントを行うということです。精神論ではなく、フレームワークを使って組織の課題を解決していく。それが私たちのコンサルティングの強みです。
村上氏は2026年、これまでのご経験をまとめた書籍を出版されるそうですね。書籍執筆のきっかけについてお聞かせください。
はい。2026年3月に『部下がメキメキ伸びるリーダーはわざと「これ」をやっている』という書籍を出版します。
この本を執筆しようと思ったのは、これまで私が「人知れず研究と実践による成果」を世の中のリーダーたちに伝えたかったからです。
製薬会社時代、私がパワハラで部下を潰し、その後に迎合しすぎてまた失敗した時、誰も正しいチームの作り方を教えてくれませんでした。そこから独立し、延べ9,000人以上の方にコーチングや研修を行う中で、私の中に「うまくいく組織」「人が動くマネジメント」の共通点が見えてきたのです。
それが、先ほどお話しいただいた「ミスのトリガー」のようなフレームワークですね。
そうです。優秀なリーダー、組織をうまく回せるリーダーというのは、特定のフレームワークを使ってコミュニケーションを取っています。
相手の「主語」が自分(I)なのか、組織(We)なのかを聞き分けて人事評価の指標にしたり、EQとIQを見極めて育成方針を変えたり。それを属人的な「センス」で終わらせず、誰もが使える再現性のあるノウハウとして1冊の本にまとめました。
最後に、書籍に込めた思いを教えてください。
はい。私は、自分がパワハラ上司として転落した痛い経験があるからこそ、悩める経営者や後継者の気持ちが痛いほど分かります。
「なぜ社員が動いてくれないのか」「どうすれば組織がまとまるのか」。その答えは、決して気合や根性の中にはありません。人の心を理解し、正しいフレームワークを用いることで、組織は必ず生まれ変わります。
この書籍が、かつての私のように「部下のマネジメント」で苦しんでいるリーダーや経営者、そしてこれから会社を背負う後継者の方々にとって、現状を打破するヒントになればと強く願っています。
村上 雄一郎
大阪府出身。中堅製薬会社、外資系製薬会社を経て、国内最大手の武田薬品工業に入社。トップセールスとして活躍しリーダーに昇進するも、マネジメントに悩み降格を経験。その挫折を機にコーチングやアメリカで心理学を学び、独自の「EQ・IQ統合メソッド」を開発した。その後、人材コンサルティング会社の執行役員を経て、2022年に独立。2025年に株式会社NaturalFlowを法人化。これまでに延べ9,000人以上のビジネスパーソンに対し、セッションや研修を実施。現在は一般社団法人ワークパフォーマンス推進機構のEQ代表理事に就任し、中小企業の後継者支援や組織変革コンサルティング、プロゴルファーのメンタルトレーニングなど幅広い分野で活躍中。



