インタビュー

変えてはいけないものを、まず見つける。後継者の最初の100日をどう過ごすか|エムクラス

変えてはいけないものを、まず見つける。後継者の最初の100日をどう過ごすか|エムクラス

新しく経営を引き継いだ人が、なぜ最初の1年でつまずくのか。人材の世界で20年、3,000名のキャリアを見てきた株式会社エムクラス 代表取締役 村上しほりさんに、承継後の組織で起きていることを伺いました。

まず、エムクラスがどのような会社なのか教えてください。

2020年に設立した、エグゼクティブオンボーディングを専門とする会社です。今はM&Aや事業承継、後継者の育成といった領域で仕事をしています。

一言でいうと、場を仕立てる仕事です。新しい経営体制を作るのに「誰を選ぶか」「選んだ人をどう立ち上げるか」、そして「その人が真に組織を動かし成果を出すにはどうすべきか」を伴走しています。どの企業も失敗はありますが、その失敗を、組織の成長痛だとは看過できない、失敗したら手遅れになるケースがあります。それが事業承継やM&Aだと私は思っています。事業承継やM&Aは、事前に手が打てる状態をいかにつくれるか、組織の設計の良し悪しが大きく結果に影響すると考えています。

会社のビジョンに「すべての人に、輝く役割を」と掲げているのですが、経営陣や経営体制が変わるときって、いろいろな人の感情や課題が出てきて、組織の摩擦がものすごく大きくなるんですね。そこを放っておけない。もっとみんなが生き生きと活躍できるはずなのに、と思っていて、それが私のこの仕事をする理由です。

人材の世界に20年近くいらっしゃったと伺いました。独立の背景には、どんな問いがあったのでしょうか。

この20年で、経営者を含めて3,000名ほどの方のキャリアを支えてきました。

残念ながら、優秀な経営人材であっても新たな組織で力を発揮しきれないという厳しい現実があります。

それが世の中的には、経験不足だとか、組織との相性が悪かった、という話で解決されてしまう。でも実際に現場を見ていくと、そうではないんですね。私は人材紹介業だけではなかったので、組織の中で働いている方を、現場のスタッフから中間管理職、経営者まで、それぞれが同じ事象に対して何を考えているのかを見て、そのトラブルを解決していく仕事をしていました。人材派遣業も、実はそういう仕事なんです。派遣した方が現場で活躍することで、事業として成り立つ。だからこそ、その方が活躍できるよう支えることが大切な仕事なんですね。

そういう経験から、人はどうして環境によってパフォーマンスが変わるんだろうか、なぜ優秀な人が新しい環境で結果を出せないんだろうか、という問いを持ち続けていました。その答えが、これだけの人が失敗しているのだから失敗の法則があると考え、それを持って独立しました。

新しいリーダーがつまずくとき、何が起きているのでしょうか。

失敗の理由から申し上げますね。課題解決をしてしまうんです。

外から入っていく人も、内部昇格の人もそうですが、上から「変革を頼むよ」「期待しているからね」と言われて、よし頑張るぞ、と。どこが間違っているか、何を変えようか、と間違い探しの視点で入られる。

それが失敗のもとなんです。ずっと長らく中にいた人たちや前任の人からすると、指摘をされた、自分たちを否定された、と受け取る。これを言ったら怒られるかもしれない、となる。そのあとは情報が集まってこなくなります。情報が集まらないと判断できませんよね。判断を間違えると、組織を自分のチームにして戦略を実行することができなくなってくる。そういう失敗のループがあります。

それを、無意識のうちに皆さんやってしまう。だから、結果を急がないこと。結果の質よりも先に、関係の質をあげることをご提案します。

では、うまくいくケースには何があるのでしょうか。

期待役割の明確化です。実はこれができていない。そして、誰も言語化できていないんです。

事業承継であれば、先代がなぜその人に任せるのか。何を、いつまでにやらなければいけないのか。どんなリソースを使えるのか。そういう話が代表の頭の中だけにあって共有されていない。むしろ代表ご自身も言語化できていなかったりする。すべての関係者が考えていたことを確認しないまま、文脈を読むような形でスタートするので、できている・できていないの評価がずれるのは当然だと思います。

もう一つはフィードバックです。これもほとんどの企業が実施していない。伝えたつもり、察し合う、空気を読む。だから軌道修正ができず、ずれたままになってしまいます。フィードバックには型があるので上手く使えば、フィードバックする方の不安も軽減され、フィードバックをされる方の防御姿勢も和らげることができます。

就任からの100日は、どう過ごすのがよいのでしょうか。

焦らないこと、だと思います。

100日は何のためにあるのかというと、「こっちに行くぞ」と戦略を発表したときに、みんなが「はい、行きましょう」と言える状態をつくるための期間だと思っています。でも、ほとんどの新しいリーダーは最初に戦略を発表して、よし行くぞ、と。誰もイエスなんて言わないですよね。変わりたくないわけですから。変わりたくない人たちが、この人とだったらやっていけるかな、と思えるようになる準備期間が100日だと捉えています。

そのために一番最初にやらなければいけないのは、変えちゃいけないものは何なのかを見つけることです。組織の持つ強み、長らく大事にしてきたもの、尊重すべきこと。そのDNAを見つけて、大切にする。新しい体制の中で一緒にやっていくぞという方針を、ほとんどの人が「まあいいか」と思えるところまで持っていく。それが100日だと思います。

価値を発揮するまでに、どれくらいの時間がかかるものなのでしょうか。

九州大学ビジネス・スクール碇(いかり)研究室との共同研究でも、新しいリーダーが価値を発揮するまでの立ち上がり期間を扱っているのですが、外部採用では会社規模に関わらず実は2割以上がそもそも立ち上がっておらず、内部昇進と比較して「7〜12か月」の割合が高くなります。内部昇進では売上規模が下がるにつれて13か月以上、未到達の割合が増加し、100億未満の会社では立ち上がらなかった割合が16.9%ありました。期待された成果に達しなかった主な要因についても調査しています。

ご相談は、どのような形で寄せられることが多いですか。

経営陣を強化したいというケースとは限らず、組織の課題解決をしてほしいというのが入り口の依頼であったりします。

うまくいっていないのは中間管理職だ、現場だ、と思っていらっしゃる。それで、課題を解決したいというご相談になる。でも私としては、その状況を作っているのはあなたです、ということで、必ず上からやる必要があると考えています。自分じゃない誰かを変えようとするのではなく、あなたから変わりましょうとお伝えします。社長が覚悟していないのであれば、やりません。

また第三者による買収の事業承継の場合は、譲受企業からの依頼でPMIの伴走になります。連続買収の場合などは、譲受企業の中でいかにしてPMI人材を作っていくかが次の課題であったりしますね。

会社のサイズや、事業承継の方法とそのフェーズは問わず、経営の転換期にあって危機感をお持ちの社長に伴走します。一般的に、経営者が直接やり取りできるのはお神輿を担ぐ人数、6人とか7人くらいだと言われますよね。そのため企業規模が大きくなってもまずは経営チームから取り組みますので、変革のプロセス自体は変わりません。

「変えてはいけないもの」は、どのように見極めるのでしょうか。

結論から言うと、その判断は新しいリーダーがすべきだと思っています。私自身が「これは変えてはいけません」とお伝えすることはありません。

ただ、組織の中身を見ていくときに、その人たちにとっての仕事のご褒美は何なのか、何のためにやっているのか、というWHYにすごくヒントがあると思っています。今まで培ってきた技術力でお客さんのニーズに応えたい、いいサービスを提供したい、いい商品を納品したい。現場の方々は、そういうことを思っていらっしゃるんですよね。

そこに紐づく価値観が何なのかを可視化する。そして、新しい経営体制の価値観とどんな差があるのかも可視化する。それを経営判断の材料にしてもらおうと思っています。

この価値観の差分が、衝突の原因になったり、アンコンシャスバイアスとしてお互いの評価を悪くしたり、リーダーシップスタイルの違いとして表れたりする。変えてはいけないものは何か、進化すべきものは何か。ご判断はお預けするものの、材料は全部揃える、ということをやっています。

サービスは3つのフェーズで整理されていると伺いました。

見立てる、立ち上げる、活躍させるの3つです。

見立てるは、経営者のアセスメントとインタビューです。評価モデルを使ったインタビューで可視化したり、組織のメンバーにヒアリングをして、「この人に、この役割を、この組織で任せたときに、何が起きるか」。組織の摩擦を予測し、可視化します。

立ち上げるは、新しいリーダーの自己変革の伴走です。過去の成功体験に縛られず、新しい環境にふさわしい振る舞いを再定義し、その定着を支えます。先ほど最初に戦略を発表しない、課題解決しないという話をしましたが、リーダー1人の一方的な計画「My Plan」ではなく「私たちの計画」として現場に響く戦略を、関係の質を上げながら発信まで伴走支援しています。

活躍させるは、その方が実際に組織をどう動かしていくか。組織の課題は何か、何を目指すのか、そこへ行くには何が足りていなくて、自分たちはどう変わるのか。そうした変革の企画やプロジェクト、ワークショップを、その時々の形でオーダーメイドでやっていきます。経営チームのチームビルディングの場合もあれば、経営と現場をつなぐ部課長のプロジェクトの伴走の場合もあります。

これから、どのような方と仕事をしていきたいとお考えですか。

もともとはM&Aの譲受企業に向けてサービスを作り始めたんです。ところが、地方の講演に呼んでいただくようになって、売ると決めていない方、承継を控えている方、継いだばかりの方にすごくお会いするようになりました。

そこで「もっと早く聞きたかった」と言われるんですね。その言葉が忘れられなくて、私もここで貢献しようと思うわけです。

地方の会社の魅力は、ご本人が気づいていないんです。誰も気づいていないような魅力や強み、それこそ変えちゃいけないもの。この会社はこの地方にいなければいけない、といったアイデアを私も出しながら、本当に変革をしようと思っている経営者と一緒に仕事をしていきたいと強く思っています。

最後に、後継者の方と、支援される士業の方へメッセージをいただけますか。

事業承継をする人、譲ろうとしている人、譲り受けようとしている人。そこには参謀が必要だと思っています。それも、数字だけの参謀ではなく、その組織にいる人たちの感情や関係性を紐解いて、場を仕立てられる参謀です。

自分でもそう思いますけれど、経営者は孤独だったりするじゃないですか。何が正解かわからないというときに、ただ寄り添うだけではなく、判断の材料をお渡しできると思っています。一人で戦おうとせず、壁打ちからでいいので参謀に声をかけてもらえれば、伴走します。いろんな感情を拾いながら、それぞれが輝く役割を見つけて抜擢をしていくと、強いチームが作れますので。

事業承継を考えたとき、事業売却を考えたときに、相談にきてください。

士業の方に向けては、先生方はいろんな企業の数字から、業績の上がり下がりや人の報酬や退職といったところで、一番早く気づける方だと思うんですね。事業承継ができずに「M&Aで売却が決まりました、先生」と言われるのではなく、その前に経営相談を受けられる先生が増えることで、救われる産業があると思っています。一番近くにいらっしゃる先生方には、早めに気づいて経営相談に乗っていただきたいなと思っています。そのためには、もしも顧問先の経営者が明日倒れてしまったら、承継方法にどんな選択肢があるのか、その時の数字のシミュレーションを経営者に毎年の人間ドックや健康診断のように定期的に話をしてもらえるといいのではないかと思っています。

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村上 しほり Murakami Shihori

株式会社エムクラス 代表取締役/エグゼクティブオンボーディング・コンサルタント

1982年生まれ、熊本県出身、立命館大学産業社会学部卒業。2007年に株式会社リクルートスタッフィングへ新卒入社し、派遣社員2,000名の採用とマネジメントに携わる。2012年に株式会社インテリジェンス エグゼクティブサーチ、2014年に株式会社リクルートエグゼクティブエージェントへ。2017年からはビジネスコーチとしても活動し、2020年に株式会社エムクラスを設立。外部登用・内部昇格・後継者育成における移行期支援を専門とし、M&A後のPMIや後継者の育成を手がける。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー、Hogan Assessments認定資格、ギャラップ社認定ストレングスコーチ。

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