インタビュー

仲介をしない、という立ち位置。M&Aの相談先を選ぶ羅針盤をつくる|Empower AI

仲介をしない、という立ち位置。M&Aの相談先を選ぶ羅針盤をつくる|Empower AI

会社を譲ろうと考えたとき、まずどこに相談すればいいのか。仲介会社が増えるなかで、その入り口で迷う経営者は少なくありません。あえて仲介をしない立場から相談先を紹介するEmpower AI株式会社の新家寛人さんに、その狙いを伺いました。

まず、Empower AIがどのような会社なのか教えてください。

M&Aの仲介をする会社ではなく、仲介をしないポジションで、オーナー様に合った相談先をご紹介する会社です。提携先が10社ほどありまして、お悩みに合わせて適切な会社をご案内しています。

背景には、業界の課題があります。M&Aの仲介会社自体が今かなり増えていて、後継者が見つからずお悩みのオーナー様も増えている。そうすると、そもそもどの仲介会社を選べばいいのかわからない、何から始めればいいのかわからない、という方がまず出てくるんですね。

業界の中でも市場の透明性や規制を整えていこうという動きはありますが、とはいえ玉石混交の中で、どの会社がいいのか悪いのかすらわからない。そこも含めて、適切な会社をオーナー様にお伝えして、両者が納得のいく事業承継やM&Aができるように支援するために、M&Aコンパスという事業をやっています。

この事業を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

私の祖父が90近くまで事業をやっていまして、祖父の場合は親族内承継で子どもに継いだという形でした。割と自営業的な家系だったので、後継者づくりのような話は実感として近くにあったんです。

一方で、田舎のほうに行くと、後継者がいない、そもそも自分の代でやめようという話が、儲かっていて黒字であるにもかかわらず出てくる。そういう課題があるのは身近にも感じていたので、この大きな課題に対して自分でやれることはないか、というところから事業をつくりました。

もうひとつ、原体験とは少しずれるかもしれませんが、事業承継は人生に一度か二度あるかないかの選択です。だからこそ後悔のないようにしてほしい、悪質な会社と出会ってしまったことで被害を受けてほしくない、という気持ちは肌として感じる部分があります。

相談の入り口をメッセージアプリのLINEにされているのが印象的でした。どのような流れになっているのでしょうか?

まずLINEでお問い合わせいただくと、30秒程度で終わる診断があります。年代、年間の売上、営業利益、後継者の有無、事業承継をどれくらい考えているか。この5問を、LINE上でポチポチ押していただくだけで完結します。

そこから無料相談にお申し込みいただければ、初回はオンラインや電話で面談をします。会社を売りたいのか、社内で後継者を探したいのか、あるいは赤字なのでまず黒字にしたいのか。お悩みはいくつかに分かれるので、それに合わせて施策別に提携先をご紹介する流れです。M&Aではないですね、となった場合は、提携している中小企業診断士やコンサルティング会社をご紹介しています。

オーナー様が仲介会社や税理士に相談するときって、やはり電話や、メールがメインになると思うのですが、もう少しカジュアルに相談するきっかけをつくるという意味では、国内で1億人が使っているLINEが向いている。友達とメッセージするような感覚で連絡してもらえるように、最初の接点として置いています。

実際、60代70代のお客様でもLINEは基本的にアプリを入れていらっしゃるので、そこまでハードルにはなっていないですね。この場合どうしたらいいですか、という相談が活発に来て、それをLINEで返すということをやっています。

M&Aコンパスは、いわば「M&A版の保険の窓口」のようなものです。

最初から特定の仲介会社に相談するのではなく、まず会社の状況やオーナーの考えを整理し、そのうえで合う相談先を探す。M&Aをするかどうかを決める、その「手前」から相談できるサービスです。

提携先は、どのように選んでいらっしゃるのでしょうか?

まず、M&A支援機関の登録がされている企業に限定したうえで、弊社でも提携先に値するかどうかを調査・確認しています。M&Aに従事する担当者が一定数いらっしゃるか、過去の経験年数はどうか、といったところも見ています。

そのうえでご紹介するときの軸は、業種と得意分野、それから手数料です。飲食業や医療など各業種に特化している会社もあれば、赤字の会社や中小零細企業のサポートを主に担当している会社もあります。手数料も、業界大手になってくると最低で1,000万、2,000万という規模感の企業が多い。ただ、私たちが対象とするのは、それを払うとオーナー様の手残りがいくらになるんだろう、という規模の企業様が多いんです。だから、その会社が対象としている規模感と合うかどうかを中心に見ています。

あとは、やり取りさせていただく中での担当者様のスピード感や人柄ですね。肌感的なところにはなりますが、この方にはこういう担当者、こういう企業が合いそうだ、というのは最終的に鑑みたうえでご紹介しています。

ただ、私たちが「この会社にしてください」と決めるわけではありません。

最終的にはオーナー様自身に担当者と話していただき、そのうえで判断していただきます。実際に話してみて合わなければ、別の会社をご紹介することもあります。

オーナーの方からは、どんなお悩みが寄せられますか?

よく言われるのは、仲介会社の選び方を調べても、出てくるのは仲介会社のホームページだということです。最終的には自社の集客につなげるために、おすすめとして自分たちの会社が挙がる。オーナー様目線で見ると、それが本当に正しいのか、フラットに見たときにどこが適切なのかが選びづらい。

それで、とりあえず検索の上から順に問い合わせてみたけれど、大手だと手数料が高い、担当者によって質の差がある。結局どうすればいいんだ、というところで止まってしまう企業様もいらっしゃいます。

そういう企業様からは、私たちが仲介自体をしない立場なので、フラットにアドバイスをもらえる、というご意見はいただいています。

事業を始めてみて、うまくいかなかったこともあったと伺いました。

初期は提携先が1社、2社という段階だったので、ご相談をいただいてもご紹介できる先が合わない、ということがありました。

もうひとつは、事業のコンセプトそのものです。最初はM&Aを希望されている企業様を仲介会社やFAにお繋ぎする、という考え方でやっていました。でも相談をいただく中で、実際には売れない、あるいはM&Aを途中でやめて、やはり子どもに継ぎたいと方針が変わるケースが出てくる。そもそも赤字をなくしていかなければいけないよね、という話や、あと2、3年頑張って企業価値を上げたうえでもう一度テーブルに置きたい、というご相談もあります。

そこはミスマッチになっていた部分なので、今は提携先のバリエーションを増やしています。仲介会社やFA以外に、士業やコンサルティング会社ですね。月額いくらで、赤字を黒字転換させるまでサポートします、という企業様もいらっしゃる。オーナー様の状況ややりたいことが変わったときにご紹介できる先は、最初に比べればそれなりに増えてきました。

実感として、すぐに会社をどうにかしたいという方は、税理士や銀行、仲介会社にご相談されると思うんです。私たちのところに来るのは、どうしようか悩んでいる、進め方がわからない、というケースのほうが多い。だから、どんどん紹介して成立、というよりは、そもそも何をしましょうか、何が適切だろうか、というところを一緒に考える時間が長いですね。

M&Aがうまくいくかどうかは、どこで決まると思われますか?

テクニック的なところは巷にいろいろありますし、PLやBSをどう見るかといった教科書的な話もあると思います。ただ、なんだかんだ、自分の大事な会社を誰に継ぐかというのは、人対人の関係性なんですよね。

仲介会社やFAの担当者にしても、合う・合わないはやはりある。M&Aの会社からすると何百社のうちの1社ですが、オーナー様からすると自分のたった1社をどうしてもらうかという話になる。だから、テクニックはさておき、人対人としての感覚は大事にしていただけるといいと思います。

そのうえで、最初の時点で手数料と経営者保証は必ず確認してほしいところです。いくらかかるのか、経営者保証は外せるのか外せないのか。知らなかった、聞かされていなかった、ということが後から重くのしかかってくるケースは多いので、そこを聞いてちゃんと答えてくれる企業を探すべきだと思っています。

相談するタイミングは、いつごろがよいのでしょうか?

3か月後に会社を売りたい、というのは、どちらかというと私たちには向いていないと思います。それはそのまま仲介会社や、信頼している銀行に相談されるのがいいかなと。

私たちが向いているのは、来年とか、1年後、2年後を見据えたうえで動いていきたい、という企業様です。会社の状況を伺ったうえでご紹介できる先もだいぶ変わってくるので、半年から1年のスパンを持ってご相談いただけると、お互い過度に焦らなくていい。そこはおすすめしています。

これから、どのように広げていきたいとお考えですか?

今並行して進めているのが、士業の方々との取り組みです。税理士や中小企業診断士ですね。仲介会社と提携を結んで紹介するパターンもありますが、そこまで手が回っていない、提携自体をしていない士業の方は非常に多くいらっしゃる。顧問先から相談されるものの、その先どうすればいいかわからない、というお悩みです。

そういう方と手を組ませていただければ、大切な顧問先を一社だけに紹介するのではなく、中立な立場から適切な判断をご提案できる。悔いが残るようなマッチングにならない仕組みづくりができればと思っています。

大きな野望としては、まだまだ小さい相談先ではありますが、3年から5年かけて、M&Aや事業承継をするとなったときに最初に思いつくのがM&Aコンパスである、という状態を目指したいですね。コンパスという名前の通り、羅針盤としてどちらに行けばいいのかを指させる存在になりたいと思っています。

なお、会社としては現在、私が中心で、AIを活用しながら、デザイナーやエンジニア、フリーランスの方に一部外注する体制です。初回面談は今のところ、すべて私が対応しています。

最後に、これから事業承継を考える方へメッセージをいただけますか?

各社のアンケートを見ていても、何からやればいいのかわからない、誰に相談すればいいのかわからない、というケースは本当に多いんです。仲介会社や銀行に相談するのも一つの手ですが、事業承継・引継ぎ支援センターのような公的機関でも相談を受け付けています。いろんな方から意見を聞くことが大事だと思っています。

私たちも含めて、民間企業という立場だと、自社でお客さんを取って成約することで報酬が生まれる。業界の力学としてはそういうところが働きます。公的機関にはそういうインセンティブが働かないので、私たちもお客様には「僕らだけでなく、他の方からも意見を聞いたほうがいいですよ」とお伝えしています。

一生に一度の決断ですから、セカンドオピニオン、サードオピニオンがあるに越したことはない。ある意味、結婚や家を買うことよりも、30年40年やってきた会社をどうするかというのは、やり直しが利かない話です。

たまたま来た営業の電話やDMですぐ連絡してしまう、というよりは、自分たちに何が合っているかを一緒に判断してくれる相手に相談していただきたい。その選択肢のひとつとして、私たちを選んでいただけたら嬉しいです。

よくある質問

M&Aコンパスの利用は有料ですか
オーナー側の利用は無料です。提携先との契約手数料で会社を運営する形のため、相談料などは一切発生しません。会社名や実名を出さずにLINEでやり取りすることもできるとのことです。
M&A以外の相談もできますか
できます。親族内承継や従業員承継、あるいは「まず赤字を黒字にしたい」といった相談にも、提携先の士業やコンサルティング会社を紹介する形で対応しているそうです。
仲介会社を選ぶとき、最初に確認すべきことは何ですか
新家さんは、手数料と経営者保証の2点を挙げています。いくらかかるのか、経営者保証は外せるのか。この質問に明確に答えてくれるかどうかが、一つの判断材料になるといいます。
新家 寛人のプロフィール写真
プロフィール

新家 寛人 Shinke Hiroto

Empower AI株式会社 代表取締役

2019年3月に同志社大学 経済学部経済学科を卒業。同年4月に大手インターネット企業に新卒入社。エイベックス株式会社との合弁会社への出向や、韓国のグループ企業とのグローバル協業案件の事業立ち上げを実行。M&A市場における情報格差の解消と中小企業の存続を目的とし、2026年4月にEmpower AI株式会社を創業。インターネット領域における新規事業開発とアライアンスの経験を活かして、M&Aコンパスをリリース。

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