インタビュー

「経営」とは生き方である。後継者に必要な覚悟|マネジメントオフィス・K

「経営」とは生き方である。後継者に必要な覚悟|マネジメントオフィス・K

バブル崩壊の混乱のなかで経営コンサルタントを志し、いまは再生の難しい企業と数多く向き合ってきた。株式会社マネジメントオフィス・Kの川原一紀さんは、「いまの経営者は経営をしていない、作業をしているだけだ」と語ります。その言葉の真意と、企業を支援する立場、そして後継者へのメッセージについて、お話を伺いました。

まず、川原さんのご経歴と、経営コンサルタントを志した経緯を教えてください。

高校卒業と同時に、私は故郷である鹿児島を離れ、愛知へと渡りました。当時の私にとって、それは夢を追うというよりも、懸命に生きるための「出稼ぎ」に他なりませんでした。知り合いも頼れる先もない土地で、最初の職場では朝から晩まで残業を繰り返す日々。鹿児島への仕送りを続けながら、ただ生活を回すだけで精一杯でした。その後、不動産業や建設業などいくつかの現場を渡り歩きましたが、当時はまさにバブル崩壊の余波が日本中を覆い尽くそうとしていた時期でした。

私の人生の転機となったのは、愛知・栄の街角で見かけた学生たちによる募金活動でした。それは、バブル崩壊による連鎖倒産で家計が困窮し、学校に通えなくなった子どもたちを救うための「あしなが育英会」の活動でした。

その光景を目の当たりにした瞬間、私の胸にひとつの強烈な問いが生まれました。「なぜ、会社は倒産するのか」

経営者自身の責任なのか、あるいは抗えない外的な要因がそうさせるのか。目の前で失われていく日常と、行き場を失った家族の姿を前に、私は「経営」のメカニズムを解明し、倒産しない会社作りをしたくて、戦略系のコンサルタントを目指したんです。

30歳で、その世界に入られたそうですね。

志した戦略系コンサルティングファームへの門戸は、当時の私には開かれませんでした。しかし、その後に身を置くことになったのは、北海道を拠点とする人材教育系コンサルティング会社でした。

当時のビジネス界では「成果主義評価制度」が流行の最先端にありました。成果に連動して報酬を支払うという合理的な響きに多くの企業が熱狂し、セミナーには連日、中小から大手まで経営者が詰めかけていました。しかし、現実は冷酷でした。多くのコンサルタントが制度を導入したものの、実効性のある成果を上げられずにいたのです。

私が在籍した会社は、一線を画す哲学を持っていました。すなわち、「組織の土壌である人間関係や根本的な考え方を改革しなければ、どのような評価制度も機能しない」という真理です。当時、年商60億円規模の企業がこぞってこの門を叩き、賃金と利益を真に連動させるための仕組みづくりに多額の投資を行っていました。

私は、この「意識改革」と「仕組み化」の統合において、類稀なる手腕を発揮しました。現場の歪みを正し、評価制度が正しく機能する組織構造を構築する——。この手法を全国へと展開し、30〜40名規模だった会社を220名体制へと急成長させる原動力となりました。私自身も、一件あたり3,000万円という大規模な契約を年間20件——年間6億円を動かすプロジェクトを指揮するまでに至りました。

そこから独立し、株式会社マネジメントオフィス・Kを立ち上げられましたね。

組織が拡大する過程で、私はある「組織の病」を目の当たりにすることになりました。コンサルタントとは、個としての能力が高いゆえに自己主張も強くなる傾向があります。役員同士が手柄を競い、言葉の棘で互いを牽制し合う——。そんな消耗戦が繰り返されるうちに、経営者が誰を信じ、何を指針とすべきかを見失うという事態に陥ったのです。

私自身も役員としてその渦中にありましたが、組織の行く末を案じるうちに、一つの確信が生まれました。当時は、後継者も育成されており、バトンタッチの体制も盤石でした。組織として次のステージへ移行すべき時期が来ていると判断した私は、退くことを決意しました。

しかし、私がこの現場で培った「魂」まで捨てるつもりはありませんでした。創業者が提唱した、組織の根幹から変革を促すという真摯な経営思想——それだけは、私の手で守り抜き、次世代の経営者へ繋いでいきたい。そうした使命感に背中を押され、私は2008年、自らの事務所を立ち上げ独立の道を歩み始めました。

小冊子や書籍を通じて、伝えたいことは何でしょうか。

私がこれまで三千を超える現場を歩き、導き出した結論があります。組織が真に機能するためには不可欠な「三つの柱」が存在するということ。そして、そのすべての礎となるのが「経営者の品性」です。

品性とは、単なる礼節ではありません。道徳観や倫理観を内包し、経営者自身がどのような人間であるかという問いに集約されます。中小企業の組織は、経営者の写し鏡です。なぜ優秀な人材が去るのか、なぜ離職が絶えないのか、あるいは、なぜ組織内で不正が蔓延するのか。そのすべての原因は、外部環境ではなく、経営者自身の在り方に帰結します。品性を欠いた経営者が率いる組織は、一時的に成功を収めたとしても、いずれ必ず崩壊の道を辿ります。私はこの厳然たる事実を、これまで幾多の現場で見てきました。

だからこそ、いま私は過去の経験をありのままに書き記しています。小冊子として纏めたのは、あえて事実をそのまま伝えることで、経営という現実の厳しさと可能性を共有したかったからです。

今後は、個別の事例を超えた「経営哲学」そのものを体系化した書籍を世に問う予定です。その前段階として、事業承継のリアルを描いた小冊子も手掛けました。後継者の成否という極限のドラマを通じて、組織の継承と経営者の品性の重要性を深く考察しています。私の発信は、単なる指南書ではありません。経営という荒波に挑む方々への、魂の警鐘であり、再生のための指針なのです。

「属人化」については、どうお考えですか。

組織における「属人化」の本質——それは、経営者が「言うべきことを、言うべき時に言わない」という遠慮から生じる、組織の怠慢です。

「仕事ができるから」「今辞められると困るから」。そうした短期的な保身や甘えが、本来指摘すべき問題への沈黙を生みます。さらには「見て覚えろ」という時代錯誤な文化が放置され、それがいつしか社風として定着する。こうして組織は、特定の個人のスキルや経験に依存し、代替不可能な歪みを抱えることになります。

さらに深刻なのは、組織内に蔓延する不公平感です。どうでもいいような相手には厳しく当たる一方で、重宝する社員には注意すらできない。評価の基準はあやふやで、ルールなき給与体系がまかり通る。こうした場当たり的な経営が、現場の士気を根底から蝕んでいます。

現在、多くの中小企業がこの病に苦しんでいます。ひとたび従業員が労働基準監督署に訴え出れば、実態とかけ離れた就業規則が露呈し、社労士すら手を出せない——そんな混乱した現場を私は数多く見てきました。経営者が「自分に都合の良い関係」を優先し、組織としての規律を放棄した結果です。組織の再生とは、まずこの歪んだ遠慮を捨て、公平で凛とした対話を取り戻すことから始まるのです。

「経営ではなく作業をしている」という言葉が印象的です。

現在の経営者の多くは、残念ながら「経営」ではなく「作業」に追われています。売上が欲しければ人を入れ、原価が上がれば削り、人が辞めれば慌てて採用し、資金が枯渇すれば調達に走る。一見、これらは経営の営みに見えるかもしれません。しかし、私はこれを「経営」とは呼びません。ただの「作業」です。

なぜなら、そこには会社としての明確な目的や、普遍的な「意志」が欠如しているからです。

もし会社を何のために存続させるのか、将来どのような姿を目指すのかという確固たるロジックがあれば、すべての行動には必然性が宿ります。しかし、それがなければ、日々の業務は単なる穴埋めにしかなりません。歴史の波に乗り、一時的に成功を収めることはあるでしょう。しかし、経営者が倒れた瞬間に崩壊する組織など、経営がなされていたとは言えないのです。

経営とは、突き詰めれば「人間の生き方」そのものです。「何のために売上を上げるのか」「どのような社会価値を創造するのか」。この哲学なき経営は、どんなに効率を求めても、すべてが虚しい作業の繰り返しに過ぎません。

経営者の生き方が歪んでいれば、組織のすべてが作業に堕する。逆に言えば、経営者が自身の生き方と向き合い、高潔な意志を持つことができたなら、会社は真の意味で「組織」として動き出します。私は、その本来あるべき経営の姿を取り戻すために、今日も現場に立ち続けています。

そもそも「経営」とは何でしょうか。

「経営」という言葉の本来の意味を、私たちはどれほど理解しているでしょうか。

実は、この言葉の根源は仏教にあります。「経」という字の頭に「お」という字を添えれば、「お経」となります。すなわち、経営とは「お経を営む」こと。これこそが、経営の本質です。

ここで言う「お経」とは、自社が未来に向かって何を目指し、どのような理念に基づいて存在し続けるのかという「経営理念」のことです。そして「営む」とは、その理念を体現するために、日々の活動を正しく積み重ねていくこと。つまり、経営とは、自らの経営理念を日々の営みの中に落とし込み、正しく生きる道なのです。

会社という法人格の長に立つことは、自らの生き方を会社という器を通して社会に問うことに他なりません。

理念なき経営者が陥るのは、終わりのない「作業」の迷宮です。目先の数字に追われ、売上が足りなければ追いかけ、原価が上がれば削る。足元ばかりを見て右往左往し、本来果たすべき目的を見失っていく。そんな状態で後継者にバトンを渡せば、後継者は「経営」ではなく「苦難の作業」を引き継ぐことになります。先代が敷いたレールの上を思考停止のまま走れば、待っているのは借金を抱え、会社を崩壊させるという過酷な現実です。

だからこそ、私は訴えたい。「経営を学べ」と。それは単なる技術論ではありません。自分自身の生き方を整え、経営とは何かを自らの中に深く落とし込む作業です。生き方が整っていない経営者が、組織を整えることはできません。経営者たるもの、まず自らを正し、その生き様で組織を導くこと。これこそが、三千の現場を歩いてきた私が辿り着いた、唯一の道なのです。

ホワイトボードに組織の図を書きながら解説する川原一紀さん

企業を支援する立場として、大切にしていることは何ですか。

私は、経営者に対して一切の遠慮をしません。契約の継続を恐れ、耳障りの良い言葉を並べるだけのコンサルタントなら他にも大勢いるでしょう。しかし、それでは何も変わりません。組織の傷口が深まるだけです。

支援する側には、揺るぎない「経営の軸」が不可欠です。何が組織を蝕んでいるのか、何が正しく機能しているのか。感情に流されることなく、客観的かつ冷静に本質を見極め、時には冷徹なまでの事実を突きつける。それこそが、コンサルタントとしての責任だと信じています。

私が提供するのは、小手先の技術ではありません。組織の深層に踏み込み、時に経営者自身の過ちや、見て見ぬふりをしてきた課題と正面から向き合ってもらいます。最後に行き着くのは、常に「人間学」です。経営者の生き方、その器のあり方が、そのまま組織の限界を決めるからです。

また、経営コンサルは「経営可能な土壌」を整える役割も担います。後継者としてバトンを受け取った若き経営者は、古いしがらみや、一癖も二癖もある古参社員、やんちゃな従業員たちという「荒れた土壌」に立たされています。彼らにとって、そこでの経営は孤独な戦いです。私の役割は、その泥沼の現場に自ら飛び込み、経営者が本来の力を発揮できる環境を強引にでも作り上げることなのです。

机に向かい笑顔でインタビューに応じる川原一紀さん

ご相談に来られるのは、どのような経営者が多いですか。

現在は、金融機関や税理士事務所からの紹介、そしてWebサイトを通じて、多くの経営者から相談をいただきます。その中には、会社が存続の危機に瀕しているような、かなり厳しい状況の現場も少なくありません。

前職では成長意欲に燃える企業が中心でしたが、独立してからは「いよいよ崖っぷち」という会社と向き合うことが増えました。周りの専門家が「もう手立てがない」と匙を投げた先でも、私はあえてその現場に入り込みます。

小手先のテクニックは使いません。経営者と膝を突き合わせ、「そもそも、会社で何をしたいのか?」「なぜ経営者になったのか?」という根っこの部分から問い直す。ときには泥臭いやり取りもありますが、そんな真っ向勝負を積み重ねてきたことが、今の信頼につながっているのだと感じています。

後継者へ伝えたいことはありますか。

後継者として道を歩むあなたに、一つだけ伝えたいことがあります。それは、常に「苦しい選択」を選びなさいということです。

私はよく経営者たちに、「後継者を育てるなら、三つの苦労をさせなさい」と説いています。これは裏を返せば、後継者自身が成長するために、安易な道や楽な選択を自ら捨てるべきだということです。

経営という荒波の中で、楽な道は往々にして「思考停止」の入り口です。しかし、困難な選択には、必ず乗り越えるべき高い壁と、その先にある深い思考が伴います。

  • あえて困難に挑むこと:誰でもできることではなく、誰もが避けたがるような重い決断から逃げない。
  • 「苦労」を資産に変えること:直面する課題をただの壁とせず、経営の本質を学ぶための教材と捉える。
  • 自らを研ぎ澄ますこと:苦しい選択を繰り返すことでしか、経営者としての「判断軸」は養われません。

苦しい選択を選び続けるのは、決して損なことではありません。それは、あなた自身の「経営者としての器」を誰よりも早く、そして強く鍛え上げるための、唯一にして最短の道なのです。

最後に、メディアの読者へメッセージをお願いします。

いまの世の中で、私は何よりも「中小企業に、本当の経営を取り戻してほしい」と願っています。毎年およそ1万社もの企業が倒産していくという現実。その一人ひとりが、もし私の言葉に触れ、何らかの気づきを得て、自らを変えるきっかけを掴んでくれたなら——。そんな思いで、今日も現場に立ち続けています。

残念ながら、いまは「経営理念が形骸化していく時代」です。「何のために事業を行い、未来に何を残したいのか」。そう問いかけても、明確な答えが返ってこない経営者が増えています。目先の資金繰りや足元のトラブルに追われ、未来の景色を描く余裕を失ってしまった結果です。

しかし、自分の意志がなければ、組織は風に吹かれる草木のように脆いものです。自分が何をしたいのか、世の中に何を残したいのか。その「志」を明確に持ち、そこから逆算して「今、何をなすべきか」を判断する。そのロジックが欠けていれば、どんなに懸命に働いても会社はあっという間に倒産へと向かいます。

加えて、倒産までのスピードは年々加速しています。かつてのような「再起への猶予」は、現代の厳しい信用社会にはありません。一度道を見失えば、再チャレンジの扉は以前よりもはるかに重く閉ざされているのです。

だからこそ、私はあえて言いたい。「もっと真剣に、経営に向き合ってほしい」と。それは単なる利益追求ではありません。あなた自身の生き方を会社という器に映し出し、次代へと繋ぐという重責です。その覚悟がある経営者だけが、この荒波を乗り越え、真の意味で会社を存続させることができるのです。

川原 一紀のプロフィール写真
プロフィール

川原 一紀 Kawahara Kazunori

マネジメントオフィス・K 代表

鹿児島県出身。高校卒業後に愛知へ渡り、バブル崩壊に伴う連鎖倒産を機に経営コンサルタントを志す。30歳で人材教育系コンサルティング会社に入社し、組織の意識改革と仕組み化で実績を重ねたのち、2008年に独立して株式会社マネジメントオフィス・Kを設立。現在は金融機関などから再生の難しい案件を数多く手がける。「経営とは生き方である」という信念のもと、経営者の品性や経営理念の本質に忖度なく踏み込むコンサルティングを行っている。

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