創業75年、和菓子の伝統を守りながら革新に挑む地域密着の後継者|お亀堂
1950年、愛知県豊橋市で創業した和菓子店「お亀堂」。代表取締役の森貴比古さんは、大学院や食品会社での経験を経て家業に戻り、2023年に代表へ就任しました。広報やSNSを通じた情報発信、和菓子とチョコレートを掛け合わせた異色のコラボ、地域企業との連携——。「伝統を守りながら、革新に挑む」という姿勢で、和菓子の新しい可能性を切り拓いています。家業を継ぐ葛藤と、地域とともに歩む経営観について、お話を伺いました。
まず、お亀堂の歩みと、森さんが家業に入られた経緯を教えてください。
お亀堂は1950年に豊橋で創業し、おかげさまで創業75年を迎えました。私自身は大学院で研究に取り組んだ後、食品会社で品質保証の仕事を経験し、2014年に家業へ入りました。
戻ってきた一番の理由は、やはり豊橋という街が好きだったからです。これまでいろいろな場所で過ごしてきましたが、「豊橋に帰りたい」という思いがあり、実家が家業をやっていたこともあって戻ってきました。
大学・大学院では、結論や考察にたどり着くまでの情報の集め方や考え方、そのプロセスを学ばせてもらいました。食品会社は規模の大きな会社でしたので、仕組みづくりや社会人としての基礎を身につけることができました。この経験は、今の経営にも活かされています。
入社後は、どのような業務を担当されたのですか。
最初の1年間は工場で経験を積み、その後は店舗の店長を任せていただきました。店長を務めながら、広報やSNS、ホームページの編集など、情報発信に関わる仕事も少しずつ担当するようになりました。
当時はとにかく、発信力が弱かったんです。良い食材を使い、オリジナルの製法で美味しいものをたくさん作っているのに、それが消費者の方にうまく伝わっていないと感じていました。広報活動を通じて、「お亀堂はこういう品質の食材を使い、こんな製法で美味しいお菓子を作っている」ということを伝えられたらと考えました。
発信において、意識されていることはありますか。
他社と同じことをやっていると、どうしても競合に埋もれてしまいます。ですから、うちならではのオリジナル商品や、ストーリーのある商品を作って、共感してもらえたらと考えています。
たとえば、豊橋限定のコラボ商品を企画したり、規格外で流通しないフルーツを活用したりしています。地域資源を大切にしながら、こうした取り組みに共感してくださる方々とのつながりを広げていけたらと思っています。
話題になったブラックサンダーとのコラボは、どのように生まれたのですか。
ブラックサンダーを手がける有楽製菓さんが、他業種とのコラボ商品を展開されているのを見て、「新しい和菓子表現になる」と思ったのがきっかけです。会長同士にご縁があったことからご相談する機会をいただき、実現につながりました。おかげさまで、このコラボ商品は豊橋駅のお土産ランキングで1位になるなど、多くの方に手に取っていただいています。
「和菓子×チョコ」という異色の組み合わせには、伝統への葛藤もあったのではないでしょうか。
私の考え方の一つとして、良いところは残していきますが、伝統に縛られすぎてしまうと、かえって良いものはできないと思っています。大切なのは、伝統と革新の両立です。
和菓子にチョコレートを合わせた、少し意外性のある商品です。和菓子とも洋菓子とも言い切れない新しさがあるからこそ、これまで和菓子に興味がなかった方にも手に取っていただけるのではないかと思っています。そうした出会いを通じて、地域の魅力発信や地域貢献にもつなげていけたらと考えています。
2023年に代表へ就任されてから、最も難しかったことは何でしょうか。
一番難しかったのは、「変えること」と「守ること」のバランスです。
直近では、新しい酒まんじゅうの開発に取り組んでいます。酒まんじゅうは昔から親しまれてきたお菓子で、「饅頭とはこういうもの」という定番の形があります。その中で、伝統を大切にしながら、どうやって自分たちらしい新しさを加えるかを意識しました。一般的にはこしあんを使うことが多い酒まんじゅうですが、あえて白あんを使用し、お酒もたっぷりと加えることで、香りが際立つ味わいに仕上げています。さらに、パッケージも従来のイメージにとらわれないデザインに変えました。
守るべき部分は大切に守りながら、変えるべき部分は思い切って変える。そんな考え方で、いま商品づくりに取り組んでいます。
商品開発は私だけではなく専門部門も担当しており、メンバー同士で意見を出し合いながら進めています。時には考え方の違いから議論になることもありますが、その分、より良い商品を作ろうという思いは共通しています。
以前は「まずはたくさん商品を作ってみよう」という雰囲気もありましたが、ただ新しいものを作るだけでは、お客様に選ばれる商品にはなりません。どんな想いで作ったのか、どんな美味しさがあるのか、ストーリーや価値まできちんと伝えられてこそ、商品として届くのだという考え方が、少しずつ社内にも浸透してきました。現在は市場調査なども丁寧に行いながら、方向性を見極めつつ、落ち着いて商品開発に取り組んでいます。
事業を継いで「よかった」と感じる瞬間はありますか。
若い世代のお客様が増えたり、テレビ取材や企業とのコラボレーションの機会が増えたりする中で、「和菓子にはまだまだ可能性がある」と実感しています。
先日も全国ネットのテレビ番組で取り上げていただき、俳優の方に工場へお越しいただいて、若手社員と一緒に桜餅づくりを体験していただきました。こうした発信や取り組みを重ねることで、これまで和菓子にあまり馴染みのなかった方にも興味を持っていただき、「和菓子っていいよね」と感じてもらえる機会が増えていると感じています。
SNSでの発信も力を入れており、InstagramやX、TikTokなど、それぞれの媒体に合わせて内容を工夫しています。Instagramでは、写真撮影が得意な社員の力を活かして商品の魅力を伝えたり、Xでは製造風景を投稿することで反応をいただいたりしています。TikTokは若手社員を中心に取り組んでおり、まだ試行錯誤の段階ではありますが、みんなでアイデアを出し合いながら少しずつ発信を続けています。
企業との連携や地域とのつながりにも、力を入れていらっしゃいますね。
ご縁をいただく中で 、ハロー!プロジェクトさんや、芸人の友近さんと仲良くさせていただいたりしています。そうしたつながりの中で、企業向けやイベント向けのオリジナル商品を手がけるようになりました。
オリジナルで焼印を入れたお菓子などは一目見て特別感が伝わるので、B2Bのイベントやノベルティとしても非常に相性が良いと感じています。
今後は、全国の酒蔵さんとコラボして、各酒蔵オリジナルのお酒を使った酒まんじゅう作りなども進めていきたいと考えており、まずは地元の愛知・三重・岐阜のエリアから形にしていこうと動いています 。
地域への思いは、どこから来ているのでしょうか。
私は豊橋を離れていろいろな場所を10年ほど転々として、2014年に帰ってきました。そのとき改めて「豊橋っていいな」と感じたんです。外を見たからこそ、地元の良さがわかりました。
豊橋は、子育てしやすい街のランキングでも全国上位に入る、住みやすい街です。のんほいパーク(豊橋総合動植物公園)のような場所もありますし、周辺には浜松や田原、蒲郡、など観光地も多くあります。海にも山にもすぐ行ける環境です。創業75年、この街とともに歩んできた会社として、もっと多くの人に豊橋へ来てもらえるよう、自分にしかできないことを考えていきたいと思っています。
和菓子業界の未来を、どう見ていますか。
和菓子業界は、後継者不足や廃業の増加など、厳しい状況にあると言われています。それでも私は、和菓子そのものがなくなることはないと思っています。日本人にとって和菓子は、季節や暮らしに寄り添ってきた存在であり、年齢を重ねるほど、あんこのような素朴な味わいに自然と惹かれるものだと感じています。
だからこそ大切にしたいのは、自社の商品だけではなく、和菓子業界全体の魅力を発信していくことです。たとえば6月には「水無月」という和菓子がありますが、「6月30日は水無月の日」と発信することで、全国の和菓子屋さんにもお客様が足を運ぶきっかけになればと考えています。
以前には、花見団子を作る動画がXで大きく広がり、その日の再生回数で日本一になったこともありました。団子を作る機械は、多くの和菓子屋さんで使われているものです。そうした製造風景に興味を持っていただくことで、団子そのものや和菓子文化への関心が少しでも広がればと思っています。
和菓子には、地域特有のものがたくさんあります。そこに根ざしたお菓子には人の思いが込められていますし、古くから続く日本の文化を伝えるものでもあります。和菓子のストーリーを紐解いていくと、日本の歴史が見えてくる。そうした背景を伝えながら、伝統を守りつつ、和菓子で新しい文化を作っていけたらと思っています。
最後に、事業承継に悩む全国の後継者へメッセージをお願いします。
事業承継は、決して楽なものではないと思います。特に親族間の承継では、家族だからこそ言えないことも多く、「本当に自分が継ぐべきなのか」と自問自答することも、きっとたくさんあるはずです。
それでも私は、継ぐことは過去を守ることではなく、未来に希望を残すことだと思っています。迷っているということは、それだけきちんと向き合っている証拠です。だからこそ、もし自分が継ぐなら、どんな未来を作りたいかを一度本気で描いてみてほしい。そのビジョンが生まれたとき、「継がされる」のではなく「自分が選んで継ぐ」という感覚に変わるのだと思います。
事業承継はゴールではなく、挑戦へのスタートです。私自身もまだまだ道の途中ですが、一緒にこの日本を、そして地域の未来を作っていけたらと思っています。
森 貴比古
大学院卒業後、食品会社の品質保証部門を経て、2014年に家業のお亀堂へ入社。約1年間工場で勤務した後、店長職を経験し、並行してSNSを活用した広報活動に尽力した。2023年に代表取締役に就任。「事業承継は挑戦へのスタート」と捉え、「ブラックサンダー」との異色コラボや白あんを用いた新しい酒まんじゅうの開発など、伝統と革新を融合させた和菓子作りに挑む。地元・愛知県豊橋市の魅力発信や他業種との連携など、地域貢献にも精力的に取り組んでいる。