30年の製造業経営と「自身の事業売却」の経験を武器に。元経営者の税理士・事業承継士が語る、後悔しないM&Aと事業承継 |ヘクセンハウス
中小企業のM&Aが活況を呈する昨今。しかし、その裏側で「高額な仲介手数料」や「経営者の想いを無視したマッチング」に苦しむ企業は後を絶ちません。本当に経営者のためになる事業承継支援とは、一体どのようなものなのでしょうか。
今回インタビューにお答えいただいたのは、株式会社ヘクセンハウスの代表取締役/代表税理士を務める真宗 宏至氏です。
真宗氏の経歴は、税理士としては極めて異色です。祖父の代から続く菓子製造業の家系に生まれ、自身も29歳で独立起業。年間350日働き、職人や従業員を抱える経営者として長年会社を牽引してきました。しかし、コロナ危機を機に自社の売却(M&A)を決断。その後、大学院でM&Aや会社法、財務を猛勉強して修士号を取得し、税理士・事業承継士へと転身を遂げたのです。
「自ら会社を育て、自ら会社を売却した経験があるからこそ、経営者の孤独が痛いほどわかる」。そう語る真宗氏に、激動の半生から、高額な手数料ビジネスに一石を投じる新たな事業承継アドバイザリーの全貌まで、たっぷりとお話を伺いました。
まずは真宗氏のこれまでのご経歴について伺いたいのですが、税理士になる前は、長らく「製造業の経営者」をされていたそうですね。
私のバックグラウンドは、いわゆる「先生業」とは全く異なります。元々は、祖父の代から続く菓子製造業の家系で育ちました。
しかし、私が若い頃、父親の代で会社の経営が大きく傾いてしまったんです。そのままでは立ち行かなくなるという危機感もあり、私は29歳の時に独立し、自分自身で新たな菓子製造の会社を起業しました。そこから約30年近く、製造業の経営者として生きてきました。
29歳での独立起業。当時のご苦労は相当なものだったのではないでしょうか?
それはもう、文字通り「身を粉にして」働きましたね(笑)。創業当初は休みなんて全くなく、年間350日は工場に入って作業や経営に奔走していました。自分の生活を支え、事業を軌道に乗せるためには、とにかく働くしかありませんでした。
徐々に取引先も増え、従業員も20名規模にまで成長させることができました。ただ、工場が遠隔地にあったため、通勤やマネジメントの負担は大きかったですね。工場への移動中に、仕事の構想を練るなど移動時間を有効に活用するなどしてきました。経営者として常に「現場と会社のマネジメント」のバランスに悩みながら走ってきた30年間でした。
自ら動き、従業員を雇い、資金繰りに悩む。まさに中小企業経営のリアルを肌で経験されてきたのですね。
そうですね。だからこそ、中小企業の社長が日々どれほどの重圧を抱え、孤独の中で決断を下しているのかが、痛いほどわかります。「売上を作らなければ社員に給料が払えない」「機械が壊れたらどうしよう」といった生々しい恐怖やプレッシャーは、本を読んだり資格の勉強をしたりするだけでは絶対に理解できません。
私のこの「泥臭い経営者としての実体験」こそが、現在の税理士や事業承継士としての活動における最大の原点であり、強みになっています。
順調に育て上げた菓子製造業ですが、最終的に事業を売却(M&A)されることになります。どのような背景があったのでしょうか?
最大の転機は、やはり新型コロナウイルスの感染拡大でした。
ご存知の通り、飲食業界や菓子・お土産などの製造業は、コロナ禍で大打撃を受けました。私たちも例外ではなく、先行きが全く見えない未曾有の危機に直面しました。
このまま事業を継続してリスクを背負い続けるべきか、それとも誰かに引き継いでもらうべきか。経営者として毎日眠れないほど悩みました。事業承継の難しさは頭ではわかっていましたが、いざ自分の会社のこととなると、従業員の雇用や取引先への責任など、感情的なしがらみが大きくのしかかってきます。
しかし、最終的には冷静に財務状況や市場環境を分析し、**「今、事業を売却することが会社にとっても自分にとっても最善の選択である」**と苦渋の決断を下しました。
ご自身で育てた会社を手放すというのは、身を切られるような思いだったと推察します。
本当に大変でした。買い手探しから条件交渉、デューデリジェンス(買収監査)の対応など、初めてのことばかりで。専門家に相談しても、専門用語ばかりで経営者の心情を理解してくれないケースもあり、非常に孤独な戦いでした。
ただ、この「自社の売却」という強烈な実体験を通じて、M&Aや事業承継のプロセスがいかに複雑で、かつ「経営者にとって不安なものか」を当事者として深く理解することができました。
コロナ禍の中、大学院へ進学されたのですね。
はい。自分がM&Aの過程で痛感した「管理会計・法律の知識不足」を補うため、そして同じように悩む経営者を本質的に支援できる専門家になるために、大学院へ進学することを決意しました。
大学院では、管理会計や財務、会社法、そしてM&Aの手法について徹底的に学び直しました。修士論文も執筆し、無事に修士号を取得。そして、これまでの経営経験と大学院で得た専門知識を融合させるべく、税理士として登録しました。
製造業の経営者から税理士への転身は、業界でも非常に珍しいケースだと思います。税理士・事業承継士として、真宗氏が大切にされていることは何ですか?
一般的な税理士は、どうしても「数字を整理して、正しく税務申告をすること」に主眼を置きがちです。もちろん、税務や数字の正確さを厳格に担保することは大前提であり、絶対に妥協してはいけない部分です。
M&Aや事業承継の局面においては、この「数字の正確さ」と「経営の実態」をどう結びつけるかが極めて重要になります。
単に決算書を見るだけでなく、元製造業の経営者としての視点で、「新規で取引する際に、取引のほしさから安値受注していないか」「この仕入原価の変動は現場で何が起きている証拠か」といった、数字の裏側にある「現場の真実」まで読みに行きます。
コロナ後、企業価値をいかに向上させていくかが多くの中小企業の課題となっていますが、私は会社法やM&Aスキームの深い知識を活かし、「どうすれば企業価値が高まり、最も良い形で次世代や第三者にバトンタッチできるか」を経営者と同じ目線で戦略的に構築していくことを重視しています。
事業承継やM&Aのアドバイザリー業務において、真宗氏が現在抱えている「業界への課題感」や、独自の取り組みについて教えてください。
私が最も問題視しているのは、現在のM&A業界に蔓延する「高額な仲介手数料」の構造です。
多くのM&A仲介会社はレーマン方式(取引金額に応じた手数料率)を採用していますが、最低報酬が数百万円から数千万円に設定されていることがほとんどです。
これでは、売上規模が数千万円〜数億円の小規模な中小企業にとっては、手数料が重荷になりすぎてM&Aという選択肢すら取れません。また、買い手企業にとっても、高額な仲介手数料を払うことで買収後の投資回収が難しくなり、結果的に利益率が圧迫されてPMI(買収後の統合)が失敗する原因にもなっています。
確かに、仲介会社の手数料が高すぎるという不満は、多くの経営者から聞かれます。
仲介会社への仲介手数料を支払うことは、必要なことだと思いますが、高額な手数料にみあう働きをしているのかどうかということを、中小企業の経営者の立場にたってアドバイスしています。
長く経営してきた会社をM&Aで売却することは、ほとんどの経営者にとって、初めてのことだと思います。「本当にこのままM&Aを進めてしまっていいものか」「もっと違う方法があるのでは」と思う経営者のかたに寄り添い、必要な知識と手続きをサポートしていきます。売り手の企業には少しでも手取り額が多くなり、また買い手企業には投資効率を向上させることができる。これが本来あるべきM&Aの姿だと思っています。
非常に経営者想いのモデルですね。具体的な実務支援としてはどのようなことを行っているのですか?
M&Aや事業承継は、「ただ株を売ればいい」という単純なものではありません。
例えば、現在の会社の構造を分析し、「不採算部門や負債を切り離して、優良な事業だけを『会社分割』して譲渡する」といった高度なスキームの提案も行います。また、節税や資産防衛の観点から「オペレーティングリース」の効果的な活用方法についてもアドバイスしています。「オペレーティングリース」については、自社で実際に活用しています。
補助金の活用支援にも力を入れられていると伺いました。
はい。事業承継やM&Aには資金がかかりますが、国も様々な支援策を用意しています。
例えば「事業承継・引継ぎ補助金」や「小規模事業者持続化補助金」の申請サポートですね。製造業の経営者の時は、「ものづくり補助金」で高額な機械を導入して、生産性の向上にうまく活用できました。補助金額相当分を圧縮記帳をすれば、機械の簿価がさがり、その分含み益がでるという効果もあります。「補助金を申請して終わり」ではなく、その補助金を活用してどう企業価値を上げるか、という出口戦略までを描くのが私のアドバイザリーの特徴です。
今後の株式会社ヘクセンハウスとしての展望や、活動計画について教えてください。
まずは、自社の実績づくりと認知拡大を進めていきます。
直近のステップとしては、中小企業持続化補助金などを活用しながらプロモーションを強化し、東京商工会議所の「東商新聞」への掲載や、会員企業様への売り込みを積極的に進めていく予定です。
また、公的な機関において、M&Aや事業承継をテーマにしたセミナー登壇や、経営者向けの個別相談(アドバイザリー活動)も継続して行っています。
元経営者であり、税理士であり、事業承継士である真宗氏の存在は、多くの中小企業にとって救いになりそうですね。
ありがとうございます。私の根底にあるのは、「かつての自分のように、孤独に悩み、苦しんでいる経営者を救いたい」という強い想いです。
事業承継や自社の売却は、経営者にとって人生の集大成であり、最も重い決断です。私は自ら30年間の製造業を経営し、そして会社を売却した当事者です。だからこそ、机上の空論ではない、現場のリアルと税務・法務の専門知識を掛け合わせた「実践的なアドバイスと情報発信」を、これからも全力で続けていきます。
真宗 宏至
祖父の代から続く菓子製造業の家系に生まれ、29歳で自ら菓子製造会社を独立起業。年間350日稼働で現場と経営に奔走し、20名規模の企業へと成長させる。コロナ危機を機に自社のM&A(事業売却)を決断。その際の実体験から専門知識の必要性を痛感し、大学院へ進学。M&A、会社法、財務等を学び修士号を取得後、税理士として登録した。現在は「元経営者」の視点と「税理士・事業承継士」の専門性を掛け合わせ、適正価格でのM&Aアドバイザリー、会社分割やオペレーティングリースの活用支援、補助金申請サポートなど、中小企業に寄り添う実践的なコンサルティングを行っている。東京商工会議所等でのセミナー登壇実績も多数。
